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第23回 高大接続の課題と改革への提言

2013年10月01日 掲載
ベネッセ教育総合研究所 高等教育研究室
室長 鎌田 恵太郎

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高大接続

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はじめに

10月から中教審高大接続特別部会の議論が本格的に再開される見通しである。この稿では、高大接続改革の論点を確認し、教育接続と大学入学者選抜改革について、課題と解決策をまとめてみたい。

高大接続改革の論点

今年5月までの高大接続特別部会審議における論点は、以下のように整理されている。

1 高校から大学までを通じて育成すべき力
2 高校教育、大学入試、大学教育それぞれの関係と役割分担
3 高校教育の質保証
4 大学入試センター試験の改善
5 個別入試の改善

ここでは、これらの論点のうち、高校教育の質保証(3)以外の項目について、高大の教育接続(1,2)と、大学入学者選抜の改革(2,4,5)の2つに大きく分けて触れたいと思う。

高大教育内容の接続改革

高大接続改革は、高大7年間の教育について、今のグローバル化社会に合わせてどのように改革するかを考えることが重要である。中でもどのような能力を身につけさせるべきかを定めることは、教育目標を設定する上でとりわけ重要となる。

2012年6月の「大学改革実行プラン」以降、繰り返し必要性が謳われているのが、「英語の4技能」育成と「論理的・批判的思考力、論述力」の育成である。特に後者は本来大学教育で身に付く能力であるにも関わらず、現在の教育では社会が求めるレベルに比べて、十分であるとはいえない。

こうした問題に対して、大学ではゼミや卒論での指導だけでなく、初年次から思考力、論述力を育成する様々な工夫を始めている。しかし、大学入学後に急に教育内容を転換しようとしても、多くの学生はそれについていくことができない。必要なレディネスが備わっていないからである。初年次からの大学教育を改革すると同時に、高校段階で、大学の学習準備につながる教育改革を合わせて行わなければならない。

大学教育のレディネス育成の一環として、延いては、グローバル化社会で求められる能力を育成するために、今年度から開始された高校の新しい学習指導要領では、全教科にわたる言語活動の充実が求められている。その言語活動の充実を可能にする優れた中等教育プログラムの一つが国際バカロレアディプロマ取得プログラムであり、日本でも認定校を増やそうとしている。ただし、ディプロマ取得のハードルはかなり高いため、実際はかなり学業優秀な者に限られたプログラムになる可能性がある。また、すでに議論されているように、3年制高校での導入には現行の指導要領の弾力的な運用も必要である。それでも認定校を増やそうという試みの背景には、海外の大学に入学できるようにするためにディプロマ取得を促進しようということだけでなく、高校の教育内容を改革したいという側面があるのだろう。

今後は国際バカロレアのような中等教育側のプログラムだけでなく、意欲のある高校生に高等教育側のプログラムを広く提供していくことも検討すべきだと思う。大学進学を目指す一般の高校生に対して、大学で教えているテーマや教材をもとに、研究に必要なスキルや論理的・分析的な考え方を教えたり、仮説を立てて調査や実験を行い、分析して結論を文章にまとめる一連のサイクルなどについての指導を行ったりするのである。その際、大学と高校が協力して育成すること、また、その成果を測定・評価していくことが重要である。日本でも最近は高校生が大学に学びに行ったり、大学の先生が高校に教えに行く、といった事例も見かけられるようになった。さらに一歩進めて、アメリカのAPのように、専用のカリキュラムを作成して高校の先生が指導し、意欲ある生徒が学ぶようになれば、よりレディネス育成のすそ野が広がることが期待される。

現状の高校教育の良さを残しつつ、新たに求められる大学・社会で必要な能力を高校でどのように育成するかを考えていくべきである。

大学入学者選抜改革

大学入学試験は、高大接続の接点にあって重要な役割を担っている。多くの高校生にとって大きな目標の一つである。高校教育に大きな影響を与える試験だけに、これまで十分とは言えなかった大学での学習レディネス測定を可能にすることを目的として、大学入試で測る能力の幅を必要に応じて広げていかなければならない。しかし、大学入試で客観的に測定できる能力の範囲には限界がある。例えば、今は、学ぶ意欲や適性、大学での学ぶ構えができているかといった点を評価していく必要性も生じているが、これはどんなに工夫をしても客観的に測定すること自体が難しい領域である。従って今後の入学者選抜改革では、大学入学試験の改善とともに、現状の大学入試で客観的に測ることができない多様な能力をどのように評価するかについても考える必要がある。

1. 大学入試で客観的に測れる力

まず、大学入試の主流であるペーパーテストで測定できる力をどのように広げる必要があるかを考えてみたいと思う。筆者は共通1次試験、大学入試センター試験が果たしてきた役割は極めて大きいと思っている。国公立大学の入試問題から難問・奇問を廃する役割を果たし、一般の高校生に寄り添った目標となっているからである。そのため、センター試験の制度自体は維持する前提で、改善という視点で考えたい。

今のセンター試験と個別試験は、ごく一部の大学の限られた問題を除けば、どちらも同じような能力を問うている。知識の量や、与えられた題材の理解・解釈と、その範囲内での思考力を問うものがほとんどとなっている。しかし、変化が激しく新たな価値を生み出すことが重要な社会では、それだけではなく、与えられた素材の範囲を超えて熟考・評価する力、思考力が不可欠である。様々な価値観の人と接するグローバル社会に対応するには、深く考え、評価・判断したことを論理立てて表現する力も求められる。こうした力は大学で学ぶ上で重要なレディネスでもあり、新指導要領で重視されている言語活動の充実を実現する重要な要素の一つでもある。

そのため、できることならセンター試験に、「知識を活用して熟考・評価させる問題」、「根拠を示して論述させる問題」などを入れるべきである。しかしながら、センター試験の規模や、処理の期間を考えると、大量の答案の採点を必要とする論述問題を入れることは難しいかもしれない。そこで、センター試験は、選択肢形式を維持しながら、できるだけ受験生の知識活用力、熟考・評価する力を測定することができる出題を模索していくことが重要だと思う。

センター試験で担うことのできない「根拠を示して論述する力」は、個別試験で出題するか、英語4技能テストのようにある程度客観的に測定できる民間の試験を導入する必要がある。ただし、個別試験で「根拠を示して論述する力」を測定する問題を出題するということになれば、出題のねらいや測定すべき力を明らかにし、ルーブリックや採点項目を示すことが必要になる。現状の小論文入試で多く見られる、自由作文的なものや、専門的な知識を求めるものなどが混在している状況のまま、個別試験で論述試験の出題のみを制度化すれば、全ての大学で「根拠を示して論述する力」を測定する問題が出題される保証はない。問題で測定している能力や評価基準が不明確なままでは、高校での指導も困難になるだろう。したがって個別試験で実施する場合でも、問題や採点基準は大学入試センターやそれに準ずる機関が作成して提供することを考えるべきである。評価という点では、IBDPやGCE―Aレベル、AP等の評価方法が参考になるのではないか。

さらに、理数系科目のようにセンター試験の出題範囲では不足がある場合は、こうした論述試験に加えて個別試験で科目試験を課せば良いだろう。

入学試験は高校教育に強い影響を与えるからこそ、今の大学教育がレディネスとして求める能力と水準を改めて示し、その能力と水準を正しく問うテストを課す努力をすべきである。

センター試験の制度を維持することには賛成だが、センター試験を資格試験化、複数回化することは適当でないと考える。資格試験化すれば現在のセンター試験よりも難易度を下げざるを得ない。難易度を下げると、現状で選抜が機能している大学が求める学力を担保できなくなる可能性がある。また入学者選抜に使用するハイステイクなテストを複数回実施することは、高校の負担が大き過ぎる。1発試験であるという批判もあるが、今後入試で多様な能力測定が求められ、センター試験はそのうちの一つという位置づけになっていけば、センター試験自体の重みは緩和されていくはずである。学力到達度を確認する試験を複数回実施する必要性があるのであれば、選抜試験とは切り離し、高校の質保証のためのテストとすべきではないだろうか。実現までに時間はかかるかもしれないが、テストがCAT化されれば、各高校の都合に応じたテスト実施も可能になる。高校生が一人一台のデバイスを持てるようになれば、実現の可能性は高い。そのテスト結果を高校における学習歴の一要素として調査書等で大学に提示すれば、大学は調査書を使いやすくなり、AO・推薦入試の改善に寄与することにもつながる。

2. 大学入試で客観的に測ることが難しい力

次に、ペーパーテストでは客観的な評価ができない意欲やコミュニケーション力、適性等はどのように評価していけばいいかについて考えてみたい。意欲や適性等は、質問項目に対して自己評価していくことは可能である。生徒の自己理解に用いたり、教師が指導に役立てたりする目的であれば、こうした検査は価値がある。しかし、あくまで自己評価であるから、客観性があるわけではない。入試のようなハイステイクな場面では使うことは難しい。

そこで注目されるのが個人の学習成果に対する評価だ。生徒が高校時代にどれだけ課題に意欲的に取り組んだか、読み手に配慮した資料・文章作成をしたか、大学で学ぶ適性があるのか等をポートフォリオで評価する。その評価結果を入学者選抜材料の一つとして補助的に用いれば良い。材料としては、例えばプレゼンテーション資料、エッセイ、実験レポート等に対する評価、あるいは、課外活動(数学など各教科のオリンピック・検定・部活動・ボランティア活動など)に対する評価など様々なものがある。ただし、入学者選抜に使うのであれば、生徒の履歴が単に保存されているだけのものや、各高校が独自に評価した結果が掲載されたものは使いにくいと思われる。大学が受験生全員の大量の履歴情報を自前で分類・評価することは事実上不可能だからである。大学が評価しやすい形に分類・加工した履歴が参照できるようにするか、もしくは、専門の機関が評価基準を示して評価し、その結果を提示する方法が良いだろう。単に履歴をすべて保存するという発想ではなく、明示された統一的な基準に沿った評価結果が示された方が、高校での指導・育成の参考にもなるはずである。

まとめにかえて

我々ベネッセ教育総合研究所では、過去2年間にわたって大学生1,000名の様々な能力測定に関する研究開発と調査を実施してきた。その結果から、今の大学生には「熟考・評価して導出した結論を、根拠を示して論述する力」に大きな課題があることがわかっている。また論述力以前に、「多様な素材の読解力や、基本的なライティングスキル」に課題がある大学生も少なくない。グローバル化によって論理的な文章によるコミュニケーションが重要になっているにも関わらず、学生のあいだでは、文章によるコミュニケーションの機会が減っていることも原因の一つかもしれない。一連の言語活動を充実させるためにも、高大接続段階で、考えて論理的に書く(書いたものを結果として人に話して伝えるという行為も含めて)という学習・評価の機会を増やすことは、大変重要であるように思う。その機会が増えれば、高大教育内容の接続において課題になっている、高校生の大学での学習レディネスの不備という問題の解決にもつながるのではないだろうか。

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著者プロフィール

鎌田 恵太郎
ベネッセ教育総合研究所 高等教育研究室 室長

1986年福武書店(現ベネッセコーポレーション)入社。進研模試副編集長、学力分析システム(現スタディーサポート)開発責任者を経て、2003年ベネッセ教育総研主任研究員、2005年ベネッセ教育研究開発研究センター主席研究員、2013年ベネッセ教育総合研究所高等教育研究室長/主席研究員 兼 アセスメント開発課長

主な研究テーマは、論理的・批判的思考力、読解力、論述力測定と評価、並びにeテスティング化。対象は主に社会人、高等教育・後期中等教育領域。

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