アセスメント研究開発室

ベネッセのオピニオン

第26回 アメリカの高大接続制度から学ぶ
―AO入試とアドバンスト・プレイスメント(AP)―

2013年10月18日 掲載
研究員 中田 麗子

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高大接続 大学入試

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はじめに

9月27日掲載の高等教育研究室オピニオンで、日本における高大接続改革の課題が論じられ、いくつかの海外事例が触れられた。本稿では、アメリカの高大接続制度に着目し、具体的にどのような点が参考になるかを紹介する。

1. なぜアメリカか

高大接続改革の議論においては、しばしば欧米の高大接続制度が参照される。例えば、中央教育審議会の高大接続特別部会で配布された「各国の大学入試制度」で取り上げられている国は、ドイツ、フランス、イギリス、アメリカである[1]。しかし、大学と高校(後期中等教育)の位置づけがアメリカとヨーロッパでは異なることに留意が必要である。例えば、アメリカでは大学数が多く、提供される教育の質や内容も多様であるため「出身大学」が重視されるが、ヨーロッパではどこの大学を出たかよりも、どのような国家試験・学位試験に合格したかが問題になるという[2]。これは、大学入学者選抜の意味が両地域では異なっていることを示す。また、アメリカとは異なり、ヨーロッパの多くの国では後期中等教育の修了試験が同時に大学入学資格試験となっており、合格すると大学に入学する権利が与えられる[3]。これは、後期中等教育に進む段階で大学進学する層がある程度選別されているということである。すなわち、大学進学する層が受ける後期中等教育は、いわばそれ自体が大学進学準備プログラムであり、それゆえ修了試験がそのまま大学入学資格になりえるのである[4]

日本の現状を考えると、出身大学の意味が大きく、後期中等教育自体は制度として大学進学準備を目的にしたプログラムではない。したがって、現在の制度の大枠を前提とした場合、具体的な教育・評価の内容やその実現のしくみはアメリカを見た方が参考になるだろう。

以下では、まずアメリカの高大接続制度の全体像を概観したのち、大学入学者選抜において学力が重視されていること、またその学力は知識を問うものだけでなく論述力の教育・評価という形で拡張されていることを述べる。事例として、大学進学準備プログラムのひとつであるアドバンスト・プレイスメント(Advanced Placement: AP)をとりあげる。入学者選抜という側面だけでなく、大学やその後の社会に出てどのような力が必要とされるか、またそれらをどのようなテストで測るかという点において、参考になるだろう。さらに、APでは大学と高校の教員が協力してシラバスやテストの開発・採点に関わることで高大の教育接続を実現していることを紹介する。

[1]中央教育審議会 高大接続特別部会(第6回) 配付資料「資料8 各国の大学入試制度について」

[2]木戸裕(2005)「ヨーロッパの高等教育改革―ボローニャ・プロセスを中心として―」レファレンス

[3]木戸(2005)

[4]ただし、昨今の改革によってヨーロッパの高等教育も変わりつつある(木戸、2005)。

2. 客観的に測定できる学力を重視したAO入試

アメリカの高大接続制度の全体像は以下のようになっている(図1)。

図1. アメリカの高大接続の全体像
図1. アメリカの高大接続の全体像
National Center for Education Statistics (NCES) , Digest of Education Statistics, 2011などを参考に筆者作成。

4年制大学の入学者選抜の特徴を2点挙げると、(1)選抜が多様な材料にもとづいていること、(2)APや国際バカロレア(IB)などの大学進学準備プログラムが充実していること(図の点線で囲った部分)である。

大学入学者選抜は各大学のアドミッション・オフィス(AO)が行うが、これは日本で広がりを見せるAO入試とは少し様相が異なる[5]。もっとも重要な違いは、選抜のある大学においては、入学者の学業成績とペーパーテストによる学力を判断材料としてもっとも重視しているということである。全米大学進学カウンセリング協会(National Association for College Admission Counseling)が大学に入学者選抜の判断材料をどのくらい重視しているか聞いたところ、「かなり重要」という回答の割合が多い上位3つの判断材料は「大学準備コースの成績」「カリキュラムの強さ」「入学試験(SAT、ACT)のスコア」となっている(図2)。「カリキュラムの強さ」とは、生徒が大学進学準備プログラムを含め難易度の高い授業を履修しているかどうかなので、APやIBなどが厳密な試験を行っていることを踏まえると、上位3つとも客観的に測定できる学力に関するものであると言える。これらに加えて、エッセイや推薦書、面接なども重視しているのは、比較的選別性が高いトップレベルの大学である[6]。試験による学力を問わないことも多い日本の推薦・AO入試が課題になっているが、大学進学後の学習のレディネスのひとつとしてこのような学力は不可欠であるし、それは「多様な材料を入学者選抜に使う」ことと矛盾しないのである。

図2. 大学入学者を決定する際に各要素を「かなり重要」~「全く重要ではない」と回答した大学の割合(2010)
図2. 大学入学者を決定する際に各要素を「かなり重要」~「全く重要ではない」と回答した大学の割合(2010)
National Association for College Admission Counseling, State of College Admission 2011のTable 16をもとに筆者作成。赤枠線は筆者。

[5]独立行政法人大学入試センター入学者選抜研究機構(2013)『大学入試の標準化、多様化、および精密化』

[6] National Association for College Admission Counseling (2011), State of College Admission 2011

3. 測定する学力の拡張~論述式問題の導入

さらに、客観的に測定される学力そのものの拡張が見られる。それは、SATやACTといった大学入学のための試験や、APやIBのような大学進学準備プログラムの試験のほとんどで、論述式問題が採用されているという点においてである。これらの論述式問題は、評価観点やレベル別の評価基準が明示されたものであり、自由作文とは異なる。以下、APを取り上げて紹介する。

APはカレッジ・ボード(SATの提供者でもある非営利組織)が提供する大学の教養教育レベル(1‐2年次)のプログラムで、高校において高校の教員が教えるAPの授業と、毎年5月に一斉に行われるAP試験から成る[7]。APと大学進学との関係は、(1)授業の履修歴や成績、試験のスコアが大学のアドミッションにおいて有利な材料になること、(2)試験のスコアが一定以上だと多くの大学において1-2年次の該当単位の履修を免除されることの2点である。アメリカの公立高校生の3割以上がAP試験を受け、3600を超える世界の大学がAPスコアを参照しており、年々参加者数・参加校数は増加しているという[8]

AP試験ではほとんどの科目でスコアの半分程度が論述式問題である。図3に英語と世界史の論述式問題の例を挙げた。いずれも、与えられた資料を読み解き、受験者自身の論を、根拠を示しながら記述させるものである。

論述形式の問題を実施するにあたっては、採点に手間がかかることと、採点が主観的になるのではないかという恐れがある。APの場合、論述式問題の採点基準は問いごとに具体的に設定されている。また、採点者の間でなるべく結果が一致するよう採点者の訓練を行い、採点をしている間にも常にチェックとフィードバックを行っているという[9]。中長期的な視点では、カレッジ・ボードが、選択式問題と比べたときのスコアの信頼性や、大学進学後の成績をどれだけ予測できるのかといった研究を行っている。テストの信頼性等の面では、論述式問題は選択式問題よりも劣るという研究が多いようである。しかし、ひとつ言えることは、実際に書かせる論述式問題が多くの教育者に支持されているということであろう。それは、より真正で、教育的にも良い波及効果があるというのである[10]。大学に進学すれば文系理系を問わずレポートや論文を書くことになる。また、社会に出てからも文章で表現することは職場や社会生活において不可欠である。採点や信頼性のハードルが多少あったとしても、教育現場で書くことを指導し、それが評価される機会を作ることは、その後大学や社会で必要とされる力を見据えた、教育的な決断とも言えるのではないだろうか。

図3. APの論述式問題の事例
図3. APの論述式問題の事例
英語・世界史ともに2012年度の問題(AP central Exam info)より、筆者抄訳。

[7] APの制度の全貌、授業や試験、課題等については、小川佳万・小野寺香(2009)『アメリカのアドバンスト・プレイスメント・プログラム―高大接続の現状と課題―』広島大学高等教育研究開発センター 高等教育研究叢書102 に詳しい。

[8] AP Newsroom, http://press.collegeboard.org/ap/fact-sheet; AP Data, http://research.collegeboard.org/programs/ap/data/participation/2013

[9] AP annual conference 2013のセッションより。なお、AP annual conferenceの様子については野澤・加藤研究員のレポート参照

[10] APと同じくCollege Boardが提供しているSATの論述式問題についての研究レポートより。Emily J. Shaw and Jennifer L. Kobrin (2012), The SAT® Essay and College Performance: Understanding What Essay Scores Add to HSGPA and SAT, College Board Research Report 2012-9 (REV: 4-2013)

4. 大学教員・高校教員の協働

APにおいてもうひとつ注目すべき点は、大学・高校の協働のしくみである。APの授業と試験は高校において高校教員が実践するが、それが大学進学準備プログラムとしての質を担保するためにも、大学教員の協力は欠かせない。34科目あるAPコースのシラバスは大学教員と高校教員から構成される開発委員会によって、大学レベルの内容になるよう作成されている。また、試験のうち論述式問題も開発委員会が作成する[11]

論述式問題の解答は、毎年6月に全米から大学教員・高校教員合計11,000人以上が集まって一斉採点をするという[12]。採点者には謝礼が支払われる。また、高校教員には力量開発・継続教育の単位も与えられるということからもわかるように、自らの力量開発の機会ととらえて積極的に参加している教員も多いことが推測される。

このように、APはシラバスや試験問題の作成から採点まで、大学と高校の教員が協力して関与しているという点が、APが高大の実質的な教育接続として広く認められていることの背景にあると言える。日本でも、高校生が大学の授業を受けにいったり、大学の教員が高校に出前授業に行くといった連携は見られるが、まだ一部の大学・高校に限られていたり、内容も限定的なプログラムであることが多い。さらに一歩踏み込んで、大学進学を目指す多くの高校生が受けられるようなプログラムが広がることが期待されるが、その際にAPにおける大学・高校の協働のしくみは参考になるだろう。

[11] AP Higher Education, http://aphighered.collegeboard.org/exams/course-exam

[12] AP Central, http://apcentral.collegeboard.com/apc/public/homepage/4137.html

5. まとめにかえて

アメリカの事例を通して、大学入学者選抜を多様な材料にもとづいて行う際にいわゆる客観的に測れる学力を重視すること、また、学力測定の範囲を、知識を問うだけでなく「根拠を示しながら論じる」といった大学や社会において求められる総合的な力にまで拡張することの具体的なあり方を述べてきた。そのような学力の測定は、信頼性や公平性に課題を抱えるが、大学側と高校側が協働して取り組むことで、高大の教育接続の質を担保しうることも分かった。

測定する学力の幅を広げるという点については、これからの時代に必要だと言われている力がどのような課題やテストで評価できるのか、教育再生実行会議や中央教育審議会にて具体的な議論が進むことを期待したい。その際、論述式問題をどの程度入れられるかが重要になってくるだろう。日本の高校生にとって入試が学習目標のひとつになっている以上、大学・社会への接続を見据えた教育的な判断をするべきである。同時に、民間が強みを持っているところでは大いに貢献できるところだと思っている。APにおいても、テストに関する開発・運営・採点等にはETSといった民間の研究機関を大いに活用している。我々も、APなどの海外事例を参考にしながら、日本の現状にあったテストやその運用方法の研究開発を進めている。今後、政策立案者や大学・高校の関係者と議論をしながら、日本の高校生・大学生がより社会で活躍できるような学びに貢献していければと思う。

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著者プロフィール

中田 麗子
ベネッセ教育総合研究所 アセスメント研究開発室 研究員

東京大学大学院修士課程(教育学)修了、博士課程単位取得満期退学。2008年にベネッセコーポレーション入社。研究所で主に海外の教育制度と改革動向、これからの社会で必要とされる能力とその評価についてのリサーチに携わる。2012年度にはベネッセ教育総合研究所が運営するインターネット上の「子ども学研究所」チャイルド・リサーチ・ネット(CRN)のコーディネータをつとめ、世界の幼児教育・子育てについてのコンテンツ編集や国際的なシンポジウムの運営に関わる。2013年度から高等教育研究室、2015年度からアセスメント研究開発室にて、高大接続領域における教育・評価についての海外事例のリサーチに従事。

その他の活動:NPO法人教育テスト研究センター(CRET)の協力研究員(2008年度~2012年度)、信州大学非常勤講師(比較教育、2009年度)

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