アセスメント研究開発室

ベネッセのオピニオン

第36回 これから起きる大学入試改革の意味

2013年12月26日 掲載
元 主席研究員・チーフコンサルタント 山下 仁司

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教育再生実行会議の第四次提言をどう読むか

13年10月末に、教育再生実行会議から第四次提言、「高等学校教育と大学教育との接続・大学入学者選抜の在り方について」が提出された。様々な新聞・マスコミ等で本件が取り上げられたが、それら一部の記事の中で、特に第3点目の「能力・意欲・適性を多面的・総合的に評価・判定する大学入試選抜への転換」を「人物重視の入試への変更」と表現されている事については注意が必要であると思う。

提言をよく読むと、主観的で基準の明確でない「人物」で合否を決めるべきである、とは一言も書かれていない。本提言では、これからの大学入学者選抜は、学力を含む多様な要因で合格者を決めることができる仕組みを積極的に取り入れるべきだという事を言っているのだ。例えば、米国の大学は、1つの合格枠に2名の志願者がいたとして、SAT(学力試験)のスコアがほぼ同じ条件であった場合、各々の高校時代の体験やエッセイを元に「どちらの生徒が自分の大学に付加価値をもたらしてくれそうか」で合否を決めることができる。テストの点差のみで合否を決めざるを得ない現在の日本の一般入試では、このような観点をテスト問題に反映することは不可能である。

ディプロマ・ポリシー(DP)・カリキュラム・ポリシー(CP)・アドミッション・ポリシー(AP)の一体的運用が叫ばれて久しいが、AP(=入学者受け入れ方針)を入試科目以外の要因も含めて具体的に定め、運用することができている大学はこれまでのところ稀だろう。答申は、本当に自分の大学に来てほしい経験をしていたり、資質を備えているかどうかを基準に入学者を選ぶようにすべきだということを訴えているのであり、既に一部の大学ではそのような入試を導入する兆しが見え始めている。

東京大・京都大の推薦・特色入試の意味

東大、京大は共に、2016年(平成28年度)入試より100名程度を目途とする推薦入試、特色(特別)入試を行うと発表している。その両者に共通するのは、大学で専門を学ぶのに必要な基礎学力を必須条件とした上で、高校時代の顕著な活動歴を重視する、ということである。例として挙げられているものは数学・科学オリンピックでの入賞などだが、これはつまり、主観的に「人物」を見るのではなく、客観的・具体的エビデンス(目に見える証拠)が必要である、という事である。その意味では、必ずしも数学オリンピックに出なくても、生徒自らが高校時代に行った探求的学びの成果としての論文や研究成果を提出する、といった事でもよいと考えられるだろう。

なぜこのような入試を検討しているのか?筆者の知る両大学の関係者に聞くと、一様に「世界で勝てる人材を輩出するため」という答えが返ってきた。受験テクニックを勉強してきた学生ではなく、高校段階で本気で探求的学びを主体的に行ってきた者を入学させたいということのようだ。例えば、15歳で膵臓がんの安価な検査法を開発した米国のジャック・アンドレイカさんのような人材、というとわかりやすいかもしれない。

高校時代に主体的・探求的な学びをさせることの重要性

東大・京大の話を持ち出すと、一部のトップエリートの話に聞こえるかも知れないが、一般の大学においても、高校時代に受動的で、人に言われるままの学習しかしなかった生徒と、能動的・探求的な学びを経験した生徒では、大学入学後の行動に違いが出ることは確かである。その実例を、ベネッセのデータで紹介したい。

下図は、ベネッセの大学向け学生調査・アセスメント『大学生基礎力調査I, II』のデータを加工したものである。『大学生基礎力調査I』では、まず入学時に高校時代の「学習習慣の確立度合い」と「探求的・能動的学びの体験」をそれぞれアンケートで確認している。それぞれの回答の合計値を、平均値を境に「学習習慣確立(未確立)」×「探求的・能動的学びの経験(未経験)」で4象限にとり、2年次に実施した『大学生基礎力調査II』で各群の学生(計約2万人)が1年の時にどのような事に力を入れてきたかという質問への回答を分析した。ここでは、「大学1年次に論理的思考力を身につけることに力を入れたか」を取り上げてみた。

高校時代の経験別 「大学1年次に論理的思考を身につけることに力を入れたか」
高校時代の経験別 「大学1年次に論理的思考を身につけることに力を入れたか」

グラフから、やはり両方の経験、つまり学習習慣を確立ししかも探求的・能動的学びを行った経験がある学生が、論理的思考力を身につけることに力を入れたと言っている割合が最も多いことがわかる。興味深いのは、次に力を入れたと言っている割合が多いのは、学習習慣の確立は平均以下でも高校時代に「探求的・能動的学びを行った経験」が高い学生だということである。この群の肯定的回答割合は70%近くに及ぶが、逆に、学習習慣のみ確立したという学生群は、肯定的な回答が5割強しかない。

この『大学生基礎力調査I』のアンケートにおける「探求的・能動的学びを行った経験」の内容は、高校時代に図書館やインターネットで情報を調べ、ディスカッションをし、自分の意見をまとめて発表する経験をしたかどうかという項目であった。このデータは、高校時代にこのような活動を経験している学生は、大学に入ってもそのような事を積極的に行うようになる、ということを意味しているのだと思われる。このことは、教育の質的転換を迫られ、社会に有用な人材を送り出すことを求められているすべての大学にとって重要な事である。

今後の入試改革のポイントは、学力一辺倒の入試だけでなく、探求的・能動的学びを行った経験をした生徒を見つけ、積極的に入学させられるような仕組みに変えてゆくという事である。ユニバーサル化と無試験入試の蔓延により、基礎学力を担保する高大接続ばかりが注目されるが、見落としてはならないのは、このような高校(のみならず、初中等全体の)教育のありかたに今後大きく影響してきそうな入試改革の行方であろう。

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著者プロフィール

山下 仁司
ベネッセ教育総合研究所 主席研究員・チーフコンサルタント

福武書店(現ベネッセコーポレーション)入社後、進研模試副編集長、ニューライフゼミ英語教材編集長、ベルリッツ・アイルランド、シンガポール出向、国際教育事業部長、ベルリッツ・ジャパン取締役、英語力測定テストGTEC開発統括マネージャーなどを経て現職。

近年の活動

【大学FD・SD研修講演】
広島大学、宮崎大学、名古屋工業大学、福岡工業大学、名城大学他多数

【シンポジウム】

  • ・全国大学入学者選抜研究連絡協議会大会 公開討論会パネル(平成22年、25年)
  • ・九州工業大学シンポジウム
    「大学教育のあり方と秋入学‐世界で活躍できる人材を育てるために‐」(平成25年)
  • ・ベネッセ教育総合研究所シンポジウム
    「主体的な学びへと導く大学教育とは」(平成24年)

【論文】

  • ・「高校・生徒からみた高大接続の課題と展望~高大接続の真の課題は何か~」(2011)
  • ・日本高等教育学会 学会紀要『高等教育研究』第14集 高大接続の現在
  • ・『「答え」や「モデル」のない今後のグローバル社会で活躍できる力とは?
    産学連携教育の研究実践と、主体性を引き出す大学教育の在り方』(2012)
  • ・第4回横断型基幹科学技術研究団体連合シンポジウム 予稿集

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