アセスメント研究開発室

ベネッセのオピニオン

第66回 高大接続改革の新テストの方向性を予想する

2015年02月06日 掲載
元 主席研究員・チーフコンサルタント 山下仁司

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高大接続 大学入学希望者学力評価テスト 高等学校基礎学力テスト

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初中等・高等教育改革をつなぐための入試改革

 2014年12月の高校教育・大学教育・大学入学者選抜の一体的改革(高大接続改革)をめぐる中央教育審議会の答申を受けて、今年1月に文部科学省より「高大接続改革実行プラン」が発表された。

 この工程表によると、2014~15年度にかけて「高等学校基礎学力テスト」「大学入学希望者学力評価テスト」(共に仮称、以下両者をまとめる場合は「新テスト」と略称)の出題内容や問題の形式などが検討され、2016年度中に公表されることになっている。これまで筆者も様々な場で指摘してきた通り、今回の改革は「入試の改革」自体を目的としたものではなく、K-16(就学前から大学の学士課程まで)の教育改革を志した改革である。つまり、大学入試の仕組みや問題そのものが改革されることで、高校以下の教育内容・教育行動の改革、大学における教学改革を同じ流れで達成する事を目的としている。

 例えば、2013(平成25)年の「高等学校等の新学習指導要領の実施に当たって(通知)」では、「思考力・判断力・表現力等を育むために」とのサブタイトルで、一斉授業だけでなく、「学生がペアで意見を交換する(ペア・シェア)」「付箋を使って話し合う(ブレストとKJ法)」「ホワイトボードを使って話し合う」といった方法を授業で使うよう促している。

 これは、2012年9月に答申された中教審大学分科会のいわゆる「質的転換答申」で、大学の教育をこのように転換すべき、とされたアクティブラーニングと全く符合する。初等・中等教育と高等教育が入試改革をはさんでスムーズに連携する事で、高度知識基盤社会に活躍できる、主体的に答えの(一つでは)ない課題を発見し、解決する人材の育成を目指しているわけである。

 制度設計や新テストの問題内容のあり方の検討はこれから後、2年程度かけて行われるが、現段階でこれまで文科省が発信してきた資料等から今後どのようなテスト問題内容が考えられるのか大胆に予想してみよう。

現行の教育課程に既にヒントがある

 まず、図1は、2008(平成20)年の中央教育審議会答申「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善について5.(4)思考力・判断力・表現力等の育成」で示された、各教科・科目で充実させるべき「言語活動」の発達段階に応じた活動のレベルとその具体例である。この段階になぞらえて言えば、従来の大学入試問題は、②事実を正確に理解し伝達する③概念・法則・意図などを解釈し、説明したり活用したりする段階の問題がほとんどであった。ちなみに、PISAの読解力の評価では、④に相当するであろう言語・非言語の情報の熟考・評価が最高のレベルの構成概念となっている事は広く知られている。 

図1 現行教育課程 言語活動の充実の概念図

現行教育課程 言語活動の充実の概念図

 今後は、⑤の「課題について、構想を立てて実践し、評価・改善する」以上の問題が工夫され、特に「大学入学希望者学力評価テスト」や個別学力試験で出題するように検討されるだろう。このとき、ポイントとなるのは、⑤・⑥の例の中で書かれている「予想や仮説を立てる」という部分ではないかと考える。

 大学で行われる学問の探究(研究活動)は、まず帰納による課題の発見や仮説形成から始まる。帰納とは、個別的・具体的な少数の事例から、一般的・普遍的な規則や法則を見出そうとする論理的推論である。次に、その仮説・予想が正しいかどうかを確認するために、実験や調査が行われる。この段階では、「どうすれば、自説が証明可能か」「現実にあてはめるとどのようになるか」を確かめるための実験デザインのために、演繹的推論や批判的思考力が必要となる。

 演繹的推論能力は、テストによる測定に比較的馴染みやすい。ルールを具体事例にあてはめ結果を予想したり、一つの解に向けて論理を収束させてゆけばよいからである。一方、帰納的推論能力はテストで測定する事は難しい。しかしながら、問題を作成できなくはない。例えば、何かの事例を複数提示しておき、そこからどれだけの法則性や共通性を抽出できるか、抽出できた数やその質をルーブリックで評価するなどのやり方が考えられる。(筆者は以前、解決策の数や視点の変化が起きているかを評価する課題発見スキルアセスメントを、米国のスタンフォード研究所と一緒に開発検討し、プロトタイプ問題を作成した事がある。)さらに、その法則や仮説を確かめるために、何をどのように実験・調査すればよいかを論述させることで、大学で能動的・探究的な学びをする力があるかどうかの評価は十分に出来るようになるのではないだろうか。

テストの波及効果を勘定に入れた設計を

 テストやアセスメントの開発において重要な観点の一つは、そのテストに向けて対策が行われることを勘定に入れておく事である。テストは、その中身が学習者の学習行動を強く規定する。このことを波及効果(ウオッシュバック・エフェクト)と呼ぶ。望ましいテストとは、そのテストに向けて対策・行動がなされた時、望ましい学習がなされるように設計されているテストである。

 新テストが大学における能動的・探究的学びのレディネスを測定するようなものになったら、高校以下の教育は大きく変えざるを得なくなるだろう。しかし、それは大学にとって大きな意味がある事に違いない。図2は、約1年前に提示したデータの再掲であるが、高校時代に「学習習慣を確立」し、かつ「探究的な学び」を経験した大学生ほど、1年次に大学で「論理的思考力を身につける」学びに力を入れる傾向にあることを示しているデータである。

図2 高校時代の経験別「大学1年次に論理的思考力を身につけることに力を入れたか」

高校時代の経験別

出典:ベネッセコーポレーション『大学生基礎力調査 I, II』パネルデータより作成。

探究的学びと知識を身につけることは矛盾しない

 また、帰納的推論能力は、単に思いつきや創造力があれば育つものではなく、対象となるものに対する幅広く深い知識を必要とする。「知識がなければ、何かを観察してもそこから情報を汲み取ることはできない」と言われるが、探究的学びと基礎学力をしっかり育成する事は決して矛盾するものではない。この点も十分に留意しておく必要があるだろう。

 

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著者プロフィール

山下 仁司
ベネッセ教育総合研究所 主席研究員・チーフコンサルタント

福武書店(現ベネッセコーポレーション)入社後、進研模試副編集長、ニューライフゼミ英語教材編集長、ベルリッツ・アイルランド、シンガポール出向、国際教育事業部長、ベルリッツ・ジャパン取締役、英語力測定テストGTEC開発統括マネージャーなどを経て現職。

近年の活動

【大学FD・SD研修講演】
広島大学、宮崎大学、名古屋工業大学、福岡工業大学、名城大学他多数

  • 【シンポジウム】
  • ・全国大学入学者選抜研究連絡協議会大会 公開討論会パネル(平成22年、25年)
  • ・九州工業大学シンポジウム
     「大学教育のあり方と秋入学‐世界で活躍できる人材を育てるために‐」(平成25年)
  • ・ベネッセ教育総合研究所シンポジウム「主体的な学びへと導く大学教育とは」(平成24年)

  • 【論文】
  • ・「高校・生徒からみた高大接続の課題と展望~高大接続の真の課題は何か~」(2011)
  • ・日本高等教育学会 学会紀要『高等教育研究』第14集 高大接続の現在
  • ・『「答え」や「モデル」のない今後のグローバル社会で活躍できる力とは?
     産学連携教育の研究実践と、主体性を引き出す大学教育の在り方』(2012)
  • ・第4回横断型基幹科学技術研究団体連合シンポジウム 予稿集

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