調査室長コラム Ⅰ
第24回 なぜ、子どもが減っているのか
ベネッセ教育研究開発センター 調査室長 木村治生 (2008/04/21更新）
個人の選択が社会に直接影響を与える――人口問題は、その典型的な例である。非婚や子どもを生まない自由は、プライベートの領域に属する。なので、なかなか踏み込めないものだが、その選択をする人が一定以上で継続すると、当然、「教育」や「福祉」のような社会領域に与えるインパクトは大きい。
親の世代と同じ人口を維持するために必要な出生率は2.08人がラインとされているが、2003年の合計特殊出生率は1.29人である。単純計算で、親世代の六割強しか子世代が生まれていないことになる。人口ピラミッドを見てみると、1950年の頃までは底辺が安定した三角形であるが、2000年は中央部がふくらんだ「栗」のようになり、2050年ともなると不安定な「花びん」のような形になる。高齢層は女性が多いため右に偏っていて、強い風が吹くと倒れてしまいそうな、そんな形だ。
1950年の18歳以下の人口は約3600万人で、全人口に占める比率は44％。太平洋戦争が終わった後で、出生数が急激に伸びていた。これが2000年には約2400万人（19％）、2050年の推計は出生率がほぼ維持できたと仮定して約1400万人（14％）になる。ピラミッドと呼ぶにはほど遠い形になる変化を見ると、社会が大きく変わらざるを得ないことが実感できる。
では、なぜ子どもが生まれないのか。理由は大きく２つある。一つは非婚・晩婚が進んでいること。結婚しているカップルに出産予定数を聞いてみると、その数はこの25年でほぼ横ばいである。結婚すれば、子どもを生みたいと思うし、実際に二人以上を生むケースが多い。しかし、非婚・晩婚により、子どもを生む機会や時間が減っている。
もう一つは、実際に結婚していても、「教育にお金がかかる」という認識が、出産をセーブする要因になっていることである。理想数だけ子どもが生めないという夫婦にその理由を聞いてみると、ダントツのトップは、「子育てや教育にお金がかかりすぎるから」（63％）だ（国立社会保障・人口問題研究所「出生動向基本調査」）。少子化を防ぐためには、このような若い世代の思いを考慮した政策が必要になるだろう。
※初出：月刊「授業つくりネットワーク」2005年４月号（学事出版）
