調査室長コラム Ⅱ

第7回 朝ごはんは学力を上げる!?

ベネッセ教育研究開発センター 教育調査室長 木村治生 (2008/11/20更新)

※本稿は、平成19年度の全国学力・学習状況調査が発表になった直後にまとめたものである。

学力に関連する要因は何か

 前回に続いて、文部科学省が実施した全国学力・学習状況調査のデータを紹介しよう。この調査では、国語と算数・数学の学力調査のほかに、アンケートによって毎日の生活や学習の状況、意識などを詳しく調べている。質問数は100前後に達し、それぞれについて学力調査とのクロス集計が公表されている。学力に関連する要因を考えることができる資料になっていて、なかなか興味深い。

 これを見ると、多くの項目で学力調査の結果との関連が示されている。その一部を図1に表したが、例えば、学力の上位層と下位層で「朝食を毎日食べていますか」という質問に対する肯定率は異なる。「上位」の児童は92.0%が「している」(=毎日食べている)と回答しているが、「下位」の児童は76.1%で15ポイント以上も低い。学力が高い子どもほど、朝ごはんをしっかり食べていると言えそうだ。「毎日、同じくらいの時刻に起きていますか」といった起床・就寝などの生活リズムや、「テレビを見る時間やゲームをする時間などのルールを家の人と決めていますか」といった生活に関する規則、「家の人と学校での出来事について話をしていますか」のような保護者との会話についても、「上位」ほど「している」という回答が多い。さらに、「家で学校の宿題をしていますか」という質問については、「上位」と「下位」で25ポイントも差が開いている。

図1:毎日の生活(学力階層別)

図1:毎日の生活(学力階層別)
1) 数値は、各質問について「している」を選択した比率。選択肢は「している」「どちらかといえば、している」「あまりしていない」「全くしていない」の4つ。
2) 図は小学生の「国語A」の学力調査の結果による学力階層を示した。「国語A」は、主として国語領域の「知識」に関する問題を出題した学力調査である。
3) 児童を正答数の多い順に整列したうえで、人数比率により25%刻みで4つの層を分類し、上位から1番目を「上位」、4番目を「下位」とした。小学生の「国語A」は、全受験者のうち、「上位」28.6%、「下位」17.1%である。2番目・3番目の値は図から省略した。
4) 文部科学省『全国学力・学習状況調査』〔2007年)の公表データをもとに作図した。

直接効果と間接効果

 ここに挙げたような項目が学力の形成にどのような影響を与えているかは、クロス集計の結果だけでは十分に分からない。学力への影響が直接的だと考えられる項目もあれば、間接的な影響や見かけの相関と思われる項目もあり、それらが混在しているからである。正確を期すためには、集計の元となる生データ(ローデータ)を使って、関連しそうな変数を統制しながら分析をする必要がある。だが、公表されている集計からでも、おおよそのことは推察できる。

 おそらく、学校の宿題をきちんとしているかどうかや、図2に示した学習時間などは、学力の高低に直接的な影響を与えているだろう。予習や復習の頻度、学習計画などといった学習の量や質にかかわる要因は、今回の調査でも「上位」と「下位」で差が見られる。一定の時間をきちんと勉強し、自分なりに方法を工夫している子は、学力が高い傾向がある。このことは経験的にもうなずける。

図2:平日の学習時間(学力階層別)

図2:平日の学習時間(学力階層別)

1) 図1の注2)〜4)と同様。

 生活にかかわる項目は、これと異なり、間接的な影響だったり、見かけの関連だったりする可能性が高い。例えば、学力が高い子ほど朝食をとっている傾向があるが、単に朝食をとりさえすれば自動的に成績が上がるということはないだろう。もちろん、朝食によって脳の血糖値が上がり記憶が促進されるとか、身体が覚醒して集中力が増すといった生理的な要因が好影響を与える可能性はある。しかしそれよりも、子どもの食事に配慮している家庭では学習面でも良いはたらき掛けをしている確率が高く、それが結果的に学力に結び付いていると考えた方が、無理がない。

家庭の役割の大切さ

 とはいえ、間接的な効果だとしても、家庭が果たす役割は大きい。今回のデータからは、保護者との関係が安定していてコミュニケーションが多く、生活のルールを決めるなど適切なはたらき掛けを受けている子どもほど、学力が高い傾向が表れている。それらは、安定した学習環境を約束する。この意味から、保護者が子どもとのかかわりや子どもの生活面を見直すことも、学力向上の手立ての一つになり得るのである。

 今回実施された全国学力・学習状況調査を契機として、学校にも具体的な成果を示すことが求められはじめている。この潮流は、ますます強まると思われる。学力だけが成果の指標ではないが、学習の効率を高めるために、学校が家庭と連携することが欠かせなくなるだろう。

 生活の安定は、集中した学習を行ううえで、とても重要な要素である。その大切さを家庭に伝える目的でも、今回の調査結果を使うことができる。このように、データは、関係者の間で課題を共有したり、ことの重要性を認識したりするためのツールとしての機能ももっている。


 グラフのポイントはココ!

(1) 学力に影響を与える要因として、学習時間のような直接的な効果をもつものと、生活習慣のような間接的な効果をもつものの2つが考えられる。いずれも、学力との相関が見られる。
(2) 学力が高い子どもたちは、家庭生活や保護者との関係が安定している。そうしたことを見直すことも、学習に良い影響を与える可能性が高い。

*平成20年度全国学力・学習状況調査 調査結果について(国立教育政策研究所サイトへ飛びます)
http://www.nier.go.jp/08chousakekka/index.htm
*平成19年度全国学力・学習状況調査追加分析結果(文部科学省サイトへ飛びます)
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/gakuryoku-chousa/zenkoku/08020513/001.htm


※初出:月刊「教員養成セミナー」2008年3月号(時事通信社)


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