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Benesse発 2010年「子どもの教育を考える」
このコーナーでは、教育のあるべき姿をベネッセ教育研究開発センターと、皆さんと共に考え、創りあげていきます。
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『Benesse発2010年「子どもの教育を考える」』更新終了のお知らせ

『Benesse発2010年「子どもの教育を考える」』は、2010年3月31日をもって、更新を終了させていただきました。
これまでたくさんのアクセスをいただき、ありがとうございました。

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特集
全国的な学力調査の意義と課題

全国の学力データ収集の意義とその活かし方

渡部洋先生 東京大学大学院教育学研究科教授

 2007年4月、大きな注目のもとで実施された全国学力調査・学習状況調査。その結果が現場にかえされようとしている。その意義や今後の課題などをどのように捉えるべきなのか、教育測定がご専門の東京大学大学院、渡部洋教授にうかがった。

渡部洋先生
渡部洋先生
東京大学大学院教育学研究科・教育測定・カリキュラム開発(ベネッセコーポレーション)講座教授。
東京大学大学院教育学研究科教育心理学専攻博士課程修了。アイオワ大学大学院教育学科研究科Ph.D。大学入試センター研究部助手、助教授。東京大学教育学部助教授、教授。東京大学大学院教育学研究科長・学部長を経て現職。
主な著書に『ベイズ統計学入門』(福村出版)など
実施の必要性が認識された背景とは

 今回の全国学力・学習状況調査(以下、学力調査)を実施した背景として、PISA(OECD生徒の学習到達度調査)やTIMSS(国際数学・理科教育動向調査)といった国際比較で、日本が従来のようなポジションを占められなくなったことや、数学の文章題で課題があることがわかってきたことがあります。そういった国際的な学力調査の結果から、学力低下の問題に向き合わざるを得なくなってしまった。 ところが、子どもの学力問題を論じようにも、全国規模で学力の変化を客観的にとらえるデータが日本には充分にありません。また、学力調査に対する抵抗感が従来ほどなくなってきたということもあるのだと思います。こうしたことが背景にあって、アメリカのNAEP(全米学力調査)のような大規模な調査を定期的に実施する意義が改めて認識されたということです。

悉皆(全数)調査とランダム・サンプリング(抽出)調査の違い

 テスト理論の立場から言わせていただくと、今回の学力調査と、PISA・TIMSSやNAEPとでは、実施形式がまるで違うことに触れなければなりません。今回の日本の学力調査は、被験者全員が同じ質問を一斉に受ける悉皆調査で行われました。それに対して、PISAなどはランダム・サンプリングの形式で実施されています。

  ランダム・サンプリングには2つの側面があります。1つは、被験者を無作為に抽出してテストを受けてもらうということ。もう1つは問題自体もたくさんの問題群の中から抽出するということです。子どもが学んでいる領域は多岐にわたります。子どもの学力を正確に見ようとしたら、様々な領域の問題を出して調査する必要がある。たまたま得意な領域の問題だったので出来が良かったとか、勉強をあまりしていないところが出て悪かったということが結果に大きく影響することは避けなければなりません。

  そのためには、1人の子どもに全部の問題をテストすることは現実的ではありませんので、出題方法を工夫することになります。複数の問題冊子を用意し、それぞれの冊子ごとに少しだけ同じ問題が重なるようにして作成するのです。たとえクラス全員で受けても、テストの内容は問題冊子によって違う可能性があるわけです。こうした抽出による調査の場合、過去の問題を対策として練習することはほとんど意味がなく、実力が問われることになります。欧米の多くの学力調査は、こうした形式を採用しています(図表1)。

図表1:NAEP(全米学力調査)における問題冊子作成の例

1990年数学メインNAEPの例

問題冊子のバージョン
配列1のブロック
配列2のブロック
配列3のブロック
1
A
B
D
2
B
C
E
3
C
D
F
4
D
E
G
5
E
F
A
6
F
G
B
7
G
A
C

全国学力調査研究会「全米学力調査(NAEP)の研究より」作成

NAEP(全米学力調査)の事例。数多くの質問をいくつかのブロックに分け、違った組み合わせで複数のテスト冊子を作り、それを別々の被験者に対して実施している。

 悉皆調査にしてしまうと、子どもに出せる問題数は限られますので、これで全体を正確に測定・分析することは難しくなります。教育測定の専門家としては、データ収集を主な目的とするなら、データの代表性を重視したいので、日本の学力調査もこの枠組で実施されることが望ましいと思います。 しかし、日本をはじめとするアジア圏は、テストに「合否」や「平均より上か下か」といった判定を求めたがる文化が強いため、文部科学省も即座には、データ収集と分析が主目的である欧米型の学力調査を実施するわけにはいかなかったのでしょう。また、子ども個人や学校、家庭に結果を戻して、これからの学習に活かしてほしいという意図もあるのだと思います。

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