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Benesse発 2010年「子どもの教育を考える」
このコーナーでは、教育のあるべき姿をベネッセ教育研究開発センターと、皆さんと共に考え、創りあげていきます。
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『Benesse発2010年「子どもの教育を考える」』更新終了のお知らせ

『Benesse発2010年「子どもの教育を考える」』は、2010年3月31日をもって、更新を終了させていただきました。
これまでたくさんのアクセスをいただき、ありがとうございました。

特集
日本の家庭教育で何がおきているのか? 〜その変化と課題を追う〜

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「苦手」を「得意」で克服する「才能教育」  −すべての子どもの才能を見つけて、育てよう−

松村暢隆 関西大学文学部教授

 親の思い込みで子どもを枠にはめるのではなく、子どもの良いところを見つけだし、それを伸ばしてあげること。また、得意な能力をうまく生かすことによって苦手なところを克服していくこと。そんな「才能教育」の理念は、まだ日本では正しく理解されていない。「英才教育」とは全く異なる「才能教育」の見地からみた子育てについて、松村暢隆先生に話をうかがった。

すべての子どもの才能を見つけ出し、伸ばすこと
松村暢隆先生
松村暢隆(まつむら・のぶたか) 先生
1954年生まれ。関西大学文学部教授。専門は発達・教育心理学。京都大学大学院文学研究科博士課程修了。著書に『本当の「才能」を見つけて育てよう』(ミネルヴァ書房)、『アメリカの才能教育』(東信堂)、『幼児の知的発達』(関西大学出版部)など、訳書に『MI:個性を生かす多重知能の理論』(ハワード・ガードナー著、新曜社)、『子供はどのように心を発見するか』(ジャネット・W・アスティントン著、新曜社)、『個性と才能をみつける総合学習モデル』(ジョーセフ・S・レンズーリ著、玉川大学出版部)などがある。

 日本では「才能教育」という学術用語はまだ市民権を得ていません。何の説明もなく才能教育というと、よく「ああ英才教育のことね」と思われてしまいます。英才教育ときけば、進学校での受験教育や、熱心な親や教育産業による特別な早期教育のイメージが浮かびます。要するにエリート養成教育です。

 しかし本来の才能教育は、特別に優秀な子どもだけを選びだして社会の将来を担うエリートを育てるような人材開発のことだけを対象としているわけではありません。すべての子どものさまざまな才能を見つけ出し、それを伸ばしていくこと。特定の教科が苦手だったり、障碍(しょうがい)があってつまずいたりしている子どもに対しても、他の領域でその子の得意なところを発見し、それを利用して足らないところを補い、伸ばしてあげること。特に公教育における才能教育は、そのように捉えるべきだろうと私は考えています。

 英才教育が「一部の子どもを対象にした国家のニーズ」から発する教育であったり、「親からの一方的な願い」に基づいた教育だとすれば、才能教育は「すべての子どもを対象にした個人のニーズ」から発する教育といえます。それぞれの子どものニーズ(思いや適性)を大切にし、才能を多様なものとして捉えて育てることを目的にします。日本ではよく「個性を生かす教育」の大切さが強調されますが、まさにそうした個性化を大切にする教育こそ、才能教育の理念に近いものと思います。


知能を幅広い視野でとらえる「多重知能」理論

 才能教育はすべての子どもの能力を発見して伸ばす教育ですから、高いIQや優れた学力をもつ子どもに対しても、それをさらに伸ばすため何らかの働きかけをします。しかしIQで表される能力や学校のペーパーテストで測れる学力だけが人間の知能ではありません。

 IQ○○と数字で示されると、それが何か絶対的な能力のように思ってしまいがちです。IQは何かといえば「知能検査で測れる能力」にすぎない。個別式知能検査では、子どもの前に道具を広げ、問題を出して口頭で答えさせます。集団式知能検査では、子どもたちに冊子を配り時間を決めて問題の答えを記入させる。測定できる才能は、あくまでもそうした形式の検査によって得られる反応に限られます。ペーパーテストで測れる学力も同様です。だから「主要5教科」などといわれるのは、入学試験に価値を置いた基準と言うことができます。そのテストで測られた能力の範囲を見ているに過ぎません。

 しかし子どもが成長して社会で使える才能はたくさんあります。世の中には多種多様な職業があり、それぞれ生かされる能力が違う。すると、それのもとになるさまざまな才能は、知能検査や学校のテストなど道具やペーパーで測れるもの以外にもあるはずです。そうした力が大事になっています。ですから、それをどのように捉えて育てるかが重要な課題となってきています。

 人間の知能を幅広い視野で捉える考え方にガードナーの「MI」(Multiple Intelligences :多重知能)理論があります。ハワード・ガードナーによれば、多様な人間の能力を便宜的に分類すると、およそ8つのまとまりの知能がそれぞれ組み合わさって作用すると考えられます。


図表1:MI理論による8つの知能

  1. 言語的知能 話しことば・書きことばへの感受性、言語学習・運用能力など(作家や演説家、弁護士など)
  2. 論理数学的知能 問題を論理的に分析したり、数学的な操作をしたり、問題を科学的に究明する能力(数学者や科学者)
  3. 音楽的知能 リズムや音程・和音・音色の識別、音楽演奏や作曲・鑑賞のスキル(作曲家や演奏家)
  4. 身体運動的知能 体全体や身体部位を問題解決や創造のために使う能力(ダンサーや俳優、スポーツ選手、工芸家)
  5. 空間的知能 空間のパターンを認識して操作する能力(パイロットや画家、彫刻家、建築家、棋士)
  6. 対人的知能 他人の意図や動機・欲求を理解して、他人とうまくやっていく能力(外交販売員や教師、政治的指導者)
  7. 内省的知能 自分自身を理解して、自己の作業モデルを用いて自分の生活を統制する能力(精神分析家、宗教的指導者)
  8. 博物的知能 自然や人工物の種類を識別する能力(生物学者や環境・生物保護活動家)

 MI理論では知能を「文化的に価値のある問題を解決し成果を創造する能力」と定義しています。たとえば、芸術や体育に関係する能力も「知能」として、子どものすべての才能を包括的に捉えることが意図されています。「音楽的知能は音楽家だけに必要」というふうに知能と職業が一対一に対応しているわけではありません。それぞれの知能は単独で働くのではなく複合して働きます。音楽家が演奏で人を感動させるには、他人の動機や欲求を理解する対人的知能が必要でしょうし、建築家には空間的知能も論理数学的知能も必要です。

 私たちは誰もが8つのMIをもっていますが、その組み合わせ方、得意・不得意が人によって異なるのです。知能検査や学校の学力テストで測れるのは、せいぜい言語的知能や論理数学的知能くらいに限定されます。


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