BERD 2007 No.10
【特集】
寄稿
profile
佐久間亜紀
上越教育大学大学院学校教育研究科准教授
さくま あき

上越教育大学大学院学校教育研究科准教授。
早稲田大学教育学部卒業。
東京大学大学院教育学研究科博士課程単位取得退学。
専門は教育方法学、教師教育論。
共著に『転換期の教師』(放送大学教育振興会)、『教師教育改革のゆくえ』(創風社)、『国家・共同体・教師の戦略』(昭和堂)など。
BERD
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教職とはどんな職業か
── データに基づいた教師教育改革のために──
佐久間亜紀[上越教育大学大学院学校教育研究科准教授]

佐久間亜紀
  学校で起こる問題がすべて現場の責任とされ、教員が批判の矢面に立たされている。
「教育再生」が声高に叫ばれる中で、問いただされる教員の「質」とはいったい何を指すのか。
表面的な問題の影に隠れ、見落とされているそもそもの議論、「日本の教員の職務をどう捉えるのか」について、海外との比較から佐久間亜紀先生に寄稿していただいた。
はじめに
 近年、学校教員の質が下がっている前提で急速な教師教育改革が進んでいる。教員の質は、本当に下がっているのだろうか。
 教員の「質」をどう定義し、測定するかについては、まだ確立した手法はない。「教員の質」は、誰にとっての・どのような「質」を、どのような場面で・どのような指標を用い、どの立場から評価するかで、まったく変わってしまうからだ。さらに、「教員の質」と一口にいうが、そもそも「教員」の職務をどのようなものとして捉え、教員に何を期待するか自体、国や文化によって異なる。「教員の質」を議論するには、教職をどのような職業として捉えるのかという議論が、不可欠なのである。
 教員の養成や研修の今後を考え、「教員の質」の向上を目指すならば、感情的に教員を非難し管理を強める前に、教職の現状の冷静な分析が必要となる。いったい、日本の教員はどのような現状にあり、それは諸外国と比べてどう異なっているのか。以下本稿では、「教員の質」を考えるための指標を七つ設定し、日本の「教員の資質」論議の前提となる基礎的な情報を、国際比較も踏まえて整理してみよう。
教職の特徴1─教員数(他職種との比較)
類例をみないほどの大規模な「専門職」集団
 教職はあまりにも身近であるがゆえに、極めて特殊な職業だという事実は、ほとんど知られていない。「教職のことは知っている」という思い込みが、多くの問題を生んでいる。
 教職の最大の特徴はその「身近」さ、つまり労働人口の多さにある。2006年度学校基本調査によれば、現在日本の「教員」(本務教員のみ、幼稚園から高校まで)の総数は、109万624人に上る。学校段階別にみると、幼稚園11万807人、小学校41万7858人、中学校24万8280人、高等学校24万7804人、中等教育学校818人、特別支援教育の諸学校6万5057人になる。これらは常勤教員のみであり、非常勤講師を含めれば、実際に教壇に立っている教員数は上の数字をはるかに上回る。
図表[1]職業別就業人口の比較  この規模の巨大さを理解するために、厚生労働省が「専門的・技術的職業従事者」と位置付ける他の職種と比較してみよう(図表1)。日本の教員数は、医師や弁護士どころか、人数の不足が社会問題となっている看護師より10万人以上も多い。しかも、教職に就くためには、大学卒業に加えて免許状の取得が求められてきた。看護師より高い学歴要件を求めているにもかかわらず、これほど大規模な労働人口を充足させてきたのは、驚くべきことである。世界を見渡せば、日本のように教員志望者が需要を上回る状況を長年維持することに成功してきた国は、ごく少数にすぎない。
 以上の特徴を踏まえれば、近年の教師教育改革が、教員よりもずっと数の少ない医師や弁護士養成と単純に比較して論議されてきたことの乱暴さが、認識されるだろう。多くの国は教員不足に苦しんでおり、日本も都市部を中心にいま教員不足に直面している。今後の改革論議には、類例を見ないほどの規模と、専門職集団としての質の両方を、どのように維持するのか、という視点が欠かせない。
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