■30年前から教員との協働を議論
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日本福祉大学では88年から97年にかけて、学園35周年、40周年の記念事業として長期計画を策定し、学部・学科の新設・再編や生涯学習センターの設立などを進めた。これに引き続き現在は、（1）学生規模の確保（2）社会人教育ニーズに本格的に応える学園づくり（3）社会連携・ネットワーク事業の展開による社会的基盤の強化（4）教学改革による特色化・卓越化（5）財政・経営の長期的安定化のための指標策定と管理・運営機構改革――に取り組んでいる。
これらの計画を達成する上で、職員の力量向上と戦力化を重視。職員は高校や企業という「市場」とじかに接しており、戦略策定のための調査・企画、計画の具体化とその遂行を担うためのマネジメント能力が要求されると考えるからだ。篠田道夫常任理事は、「職員の専門化、高度化には、業務改革や研修などの領域からも取り組む必要がありますが、やはり人事評価・育成制度を軸にしなければ成果は発揮できません」と話す。
同大学ではもともと職員の役割について活発に議論される土壌があり、30年ほど前からすでに、職員と教員が政策について活発に議論するなど協働体制の必要性が指摘されていたという。そのためには職員の能力アップが不可欠として、90年に職員業務改革に本格的に着手した。
まず、1年をかけて事務局の業務分掌をすべて洗い出し、業務目標や到達状況、問題点などを分析した上で改革方針を策定。それに沿って各職員が研修目標を立てる仕組みにした。しかし評価と処遇とが連動していなかったため、すぐに目標設定そのものが作業化して形骸化してしまう。
そこで企業や他大学からのヒアリングを行い、試行錯誤を繰り返しながら独自の目標設定・評価システム「職員総合人事制度」を97年に新設。篠田常任理事は「大学職員としての基本業務の確立と共に政策企画・管理能力の向上を目指したもの」と説明する。この制度は、5段階に分けられた職能資格等級を土台としている。資格基準に沿って各職員が立てた目標をその達成度で評価するという、「目標による管理」（MBO＝Management
by Objectives）の手法を取り入れている。業務に対する自己管理意識を高めることが狙いだ。
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■具体的な目標設定を指導
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このMBOで注目されるのが、個人レベルの目標を大学の基本戦略とリンクさせている点だ。大学全体の政策や将来構想に基づいて、まず事務局が年度の方針を立て、それをもとに各部・課室がそれぞれの分掌に沿って指針を提示、各職員はこの指針に基づき五つの業務目標を設定する仕組みになっている。
さらに、業務目標を実現する上で必要な法律知識や、コンピューターソフトの使い方といった知識・技能（修得能力）と、企画力・表現力・折衝力（習熟能力）などの獲得目標も明示してもらい、業務目標と合わせて評価する。年度初めに、各職員がこれらの目標をデータベース化されたパソコン上の「チャレンジシート」に入力（下の図）。これが、そのまま人事考課表のフレームとなる。
このように全学的な基本戦略を個人目標に落とし込むシステムにした理由を、篠田常任理事は「日常のルーチン業務だけではなく、大学の政策目標を達成するための企画、開発力といった能力の育成を重視すると同時に、職員一人ひとりの業務に対する責任感を高めたいと考えたため」と説明する。
ただ、こうした目標設定ではどうしても内容が曖昧になりがちだ。そこで同大学では、目標設定の方法を解説した「チャレンジシート作成の手引き」を職員に配布。業務目標については部・課室の目標と結びついているか、業務課題が特定の分野に偏っていないかなど五つの設定条件を示している。
例えば、「履習登録の管理、確立」といった表現は抽象的で問題点が見えにくい。そこで、手引きでは「管理」で何を改善するのか、「確立」する上で何が一番大切かなど、業務課題を明確にした上で、期限や改善率など数値を盛り込むなどして客観的に評価しやすい目標とするよう指導。具体的な手法を提示しにくい習熟能力の目標についても、どの仕事においてどのレベルの達成度を目指すかまで記すよう、詳細に定めている（下の表）。こうしたチェックを経て各職員が目標を決め、上司との面接を経て最終的に年度目標が確定される。
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■チャレンジシートの入力画面イメージ
■習熟能力の記述例（「チャレンジシート作成の手引き」より）
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■査定ではなく育成が目的
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目標に対する達成度の考課要素も、資格等級別に定められている。一般・中間指導職能にあたる下位3等級の業務目標であれば業務処理の正確さ、速さなど仕事の質・量を、管理・専門職能にあたる上位2等級では業務遂行や人材育成の能力といった具合だ。これらの考課要素はイントラネット上で示されており、全職員が確認できる。
実際の評価は、まず各職員が業務達成状況について自己評価レポートを提出、それを参考にしながら管理職者が5段階で判定する。客観性を期すため、複数の管理職者が考課を行い、考課後にはその理由を面接で本人に伝えている。
その一方で、部下が上司の管理者としての資質を評価する「部下メッセージシステム」も導入。評価される本人には非公開で考課にも反映させず、あくまで上位管理者が管理者の管理行動を客観的に把握・改善するための手段として位置付けている。「査定ではなく人事育成がこの考課制度の目的ですから、資格基準や考課要素をはっきりと職員に公開し、それに到達すれば評価する絶対評価方式にしています」と篠田常任理事。
考課結果は、ボーナス額に反映されるほか、上位級への昇格についてもA評価以上を3回取得することが絶対条件というように基準として使われている。この制度の導入によって人件費はやや膨らんだが、職員育成のプロセスではやむを得ないと受け止めている。
日本福祉大学が目指す最終ゴールは、全職員を企画・立案から実施まですべて担えるゼネラリストに養成することだ。そのため組織体制や業務分担の見直しにも取り組んでいる。派遣やパートなど非専任職員の戦力アップを図って将来的にはルーチン業務をすべて任せ、専任職員はマネジメント業務に専念させることや、若手の登用機会を増やすため資格等級を現在の5段階から3段階にフラット化することも検討しているという。
こうした改革の原動力となっているのは、職員の大学運営や発展への貢献という長年の目標だ。篠田常任理事は「そのためには、職員のさらなる力量向上と役割の確立が必要。組織全体を見直すことで、戦略形成と推進ができるアドミニストレーターの集団育成を目指していきたい」と話す。
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