■主体的に目標を設定し自己管理で仕事を進める
|
1950年代から60年代にかけて、アメリカの経営学者ピーター・ドラッカー、ダグラス・マクレガーなどによって提唱されたのが、目標による管理（MBO＝Management
By Objectives）である。
MBOとは、上司が担当者に仕事のやり方を命令したり、細かく指示したりするのではなく、組織目標に沿って担当者自身が主体的に目標を設定し、自己管理によって仕事を遂行し、成果を導き出していく方法だ。その目標は、何に取り組むかだけでなく、いつまでに何をどれだけやるかまでを明確にする。こういうと、ノルマに近いもののように受け取られるが、ノルマが上位者から与えられるものであるのに対して、目標はあくまで自ら設定したものということになる。自ら設定したものであれば、それを達成しようという意欲が生まれ、業務に積極的に取り組む姿勢が醸成され、さらには、その達成のプロセスを通じて、能力の開発・伸長も促せるというわけだ。
その後、MBOは数多くの企業で取り入れられてきたが、我が国の産業界にこの考え方を普及するとともに、自校の人事管理の基本方針として導入・実践しているのが産業能率大学だ。
|
 |
■達成度は業績評価として賞与にも反映
|
産業能率大学では、年度始めに各職員が、上司と相談して「目標記述書」を作成する。記述する項目は、設定目標（評定基準、達成期日）、達成方法などだ。
興味深いのは、この時点で、自ら5段階の評定基準を設定させることだ。
職員一人ひとりが、組織からの役割期待・責任に応じて最大五つに絞り込んだ年間目標を立て、それぞれに3レベルを標準として上下2レベルずつ、すなわち5段階の評定基準を設ける。そして、各目標の達成に向けては、半期や四半期ごとの節目での進捗確認を上司と本人で行いながら、必要な対応策を適宜、講じていく。最終的な達成度は賞与の支給金額にも反映されるようになっている。すなわち、単なるモットーやスローガンではなく、個人の成果による組織貢献が公平・公正に処遇にも反映されるものとしてMBOが活用されている。
|
|
■大事なことは目標の「連鎖」
|
もう一つ、目標による管理で留意しておかなければならないことがある。それは、全職員が各自で勝手に目標設定したのでは、バラバラの方向を向いてしまい、組織全体としての統一的な目標達成ができない可能性があるということだ。
それを回避するために、まず組織全体の目標を掲げたうえで、各部門・部署レベルの目標を設定する。各職員はそれを踏まえて自分の目標を設定することになる。人事部の田邉純一担当課長は次のように話す。
「組織全体の年度目標のもととなる法人の長期経営ビジョンが示され、それをもとに各部門の中期的な事業計画が策定されます。そして、それらの方向性を踏まえて、職員が自分なりの目標を設定していくわけです。すなわち、目標の連鎖がとても重要なのです」
|
|
|
■自らチャレンジするしくみ＝プロジェクト統括リーダー制度
|
目標達成意欲の高いチャレンジャブルな職員に対しては、それをサポートする制度もある。職員から新規事業が提案され、組織としてのGOサインが出された場合、その職員を中心としてプロジェクトを発足させる「プロジェクト統括リーダー制度」がそれだ。プロジェクトに参画する職員は、それまでの部署に所属しつつ、一定期間、当該プロジェクトの活動に専念することができる。
昨年度は、三つのプロジェクトが相応の成功を収め、今年度は新たに二つのプロジェクトがスタートしている。
「本学の人的資源を有効に活用するための制度で、部門における組織課題や部門横断的な課題への機動的な対応を目指しています。日頃から、常にアンテナを張り巡らせ、自身の関心領域と組織への貢献をいかにつなげられるかを考えつつ、実現したいテーマや企画に必要な専門性を磨くことで、さまざまな提案の実現が可能です」と、田邉担当課長。
|
|
■中堅職員を対象とするキャリア開発研修
|
また、キャリアアップに関しても、さまざまな取り組みがみられる。その一つが、主として30歳前後の中堅職員を対象に行われるキャリア開発研修だ。「このキャリア開発研修はもともと本学の社会人教育事業部門が開発したプログラムで、クライアントの各企業からもたいへん好評をいただいているものです。それに本学の職員向けのアレンジを加えて編成し、“漠然としたキャリアイメージを、具体的なキャリアプランに結びつけていくこと”を目的としています」（田邉担当課長）。
そのため、この研修では、たとえば［図1］のようなシートを使用する。まず、自分の適性やそれまでに培った人脈など、キャリアの軌跡を振り返るとともに、3～5年後、および10年後に産業能率大学で何をやりたいのか、キャリアビジョンをデザインさせる。その上で、今何をすべきかをイメージさせていく。
「研修の効果を高めるために、研修参加後には、作成したシートに基づく上司との面談を必ず行い、希望者には人事部との面談も実施するようにしています」（田邉担当課長）。
|
［図1］キャリアビジョンをデザインする
［図2］チャレンジシートの画面イメージ
|
|
■キャリアアップを支援する自己啓発援助制度
|
近い将来に向けて具体的に身につけたいスキルがあり、そのための研修を希望する職員に対しては、バックアップする制度も設けられている。たとえば、そのスキルが現在の職務に不可欠だと上司が判断した場合には「業務研修」の扱いになり、文字どおり業務の一環として、研修を受けることが可能だ。
現在の職務に直結しなくても、将来的に必要になるので勉強したいということであれば「自己啓発援助制度」という制度がある。研修に要する経費の一部を補助する制度であり、産業能率大学が運営する研修プログラムはもちろんのこと、他の教育機関が主催する講座も対象となる。さらに、制度化されているわけではないが、社会人大学院への進学も奨励されている。
そして実際に、こうした制度を生かして、キャリアアップをはかる職員は少なくない。それも、MBOによって自らの目標がしっかり設定され、組織貢献のあり方を常に意識して仕事に取り組む「セルフ・マネジメント」重視の風土が備わっていることの証明といえよう。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
大学を取り巻く環境が厳しくなる中で、大学という組織においても、今後は、能力主義、業績主義を導入するところが増加することが考えられる。それに伴って、キャリアアップは、自己責任へと変わっていき、職員は常に自分に投資して、能力開発する責務が出てくるはずだ。それを苦痛と感じずに、自発的なアクションにつなげていく方法として、産業能率大学のMBOは、一つの参考になりそうだ。
|
＞トップへもどる
＞大学・短大トップへもどる
＞バックナンバー |
