小規模州立大学部門でランキング1位のカレッジ
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日本で初めて「アドミッションズ・オフィス入試」という言葉を導入し、新たな入試の試みを始めた慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス（SFC）では、開校10年を超え、次のステップを模索すべくさまざまな試みを行っている。
その一環として、筆者は、2001年2月から5月まで、SFCと交流の深いCollege of William and Mary（W＆M）のアドミッション・オフィスで3カ月間の実務研修を受けてきた。
W＆Mは、全米でも教育水準が高いことで有名なバージニア州の州立大学である。学部生約5000人、院生等を含めても約7000人という比較的小規模な大学に分類される。ハーバードに次いで全米で2番目に古い大学で、1693年に創立された。ウィリアムズバーグの中心に位置する、歴史ある美しいレンガ造りのキャンパスである。
教育の特色は、伝統あるリベラルアーツカレッジで、学部教育を最重視しているという点にある。全米で有名な大学ランキング、U.S.Newsの小規模州立大学の部門で近年続けて1位の評価を得ている、選抜型（selective）大学の一つだ。ほとんどのクラスは25～35人で行われている。教員の92％はPh.D（博士号）の保持者で、ほぼすべての授業がこれら教員によって行われている（全米の大学の多くは、学部授業はTAに任せている）。
こうした特色を持つW＆Mのアドミッション・オフィスで、選考シーズンの真っ盛りに研修を受けることができた。もちろん、州立大学から私立大学、全入可能な大学から選抜のハードルが高い大学まで、アメリカの大学は多種多様で、それぞれの大学でさまざまに工夫された入試と入試広報を行っている。
しかし、そうした多様性を考慮しても、W＆Mでの方式は比較的一般的でオーソドックスな方式であるという。本稿では、今後日本におけるアドミッションズ・オフィス入試を考えていく上で参考になると思われる、W＆Mでの方式を簡単に紹介していきたいと思う。
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教員は加わらず若い職員も責任あるポストに
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アドミッション・オフィスの責任者はDean of Admissionである。Deanの下には1人のAssociate
Deanと複数のAssistant Deanがいる。現在のAssistant Deanは4人で、その他1年契約のAssistant
to Deanが2人おり、彼らも実質Assistant Deanと遜色のない仕事をしている。Deanたちは各自担当の州地区を持ち、担当州地区への広報、リクルーティングから選考にいたるまで、責任を持つ（図表）。
これらDeanの他、データ入力、出願書類の管理等を行うRecords roomのスタッフが6～7人、オフィスの秘書的な役割をするスタッフが2人、キャンパスツアーなどを行う学生ボランティアの運営、問い合わせの受付担当をするスタッフが2人、卒業生とのパイプラインになっているスタッフ1人などがいる。また、インターンなどの学生（学部生、大学院生）、出願書類を読み評価するための臨時スタッフなども多数抱えている。
専任、パートタイム、インターンともに、スタッフの入れ替わりが頻繁に行われる。他大学のアドミッション・オフィスや高校のスクールカウンセラーへの転職というのもめずらしくない。
日本の大学の感覚からすれば、入試業務といえば秘密主義的で閉鎖的なイメージがあるが、アメリカでは、守秘義務はあるものの、スタッフの出入りをはじめ、風通しの良い印象がある。
特記しておきたいのは、これらスタッフが非常に若いメンバーで構成されているということである。特に、Assistant Deanなど責任あるポジションについているスタッフはほとんど20代後半～30代前半である。また、Records
roomのスタッフ以外は、M.A.（修士号）の保持者かM.A.コースに在籍中というスタッフが大半であるということも日本のスタッフ構成とは異なる点である。
以上のような人員構成で入試業務は遂行されるが、日本の大学の実情から見て非常に違和感があるのは、ここに教員の姿がないことである。
オフィスでの日常業務を見る限り、教員との接点はほとんどないといってよい。オープンキャンパス的なプログラムへの協力などはあるものの、学部の入試に関しては、専門家であるアドミッション・オフィスのスタッフに完全に任せている。
入試業務にかかわらず、全般的に大学のアドミニストレーションの分野に教員が大きくかかわるということはない。教員の仕事はあくまでも、教育と研究という分野に特化されている。ただし、大学院の入試に関してはアドミッション・オフィスではなく、各大学院の専攻ごとに教員、あるいはその専攻が雇用している独自のスタッフが行っている。
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工夫を凝らした広報展開
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アドミッション・オフィスでは先に述べたように、学部入試のみを担当している。学部入試の業務は、（1）入試広報業務（2）入試業務の二つに大別できる。以下それぞれを詳しく述べる。
（1）入試広報業務 チャットによる入学相談も
W＆Mに限らず、アメリカの選抜型大学では、優秀な学生を獲得するためにさまざまな試みを行っている。ここでは、その中でも主たる入試広報活動について紹介したい。
■インフォメーション・セッションとキャンパス・ツアー
最近では日本でも一般的になってきたが、アメリカではオープンキャンパスは「イベント」ではなく、日常的なものとなっている。各大学で呼び名は異なるが、W＆Mでは毎日行われるオープンキャンパスのことを、インフォメーション・セッション（以下セッション）と呼んでいる。通常平日は毎日、1日2回、午前10時と午後2時半（土曜日は午前の1回のみ）、スタッフによって行われる。その後、ボランティアの学生ガイドによってキャンパス内のツアーが行われる。セッションは30～40分程度。ツアーは天候や参加者にもよるが、大体40分程度行われる。
セッションは、オフィスに設けられているホールで行われる。ホールは100人以上を収容できる広さだが、特に見学者が多い6～8月はさらに広い別の会場を使って行うこともある。
ホールには、W＆Mに関する資料、記事、学生が制作した美術作品が展示されており、資料室のようにもなっている。志願者のW＆Mに対する印象を作る大事な窓口だけに、きれいな作りの部屋となっている。
セッションでは、W＆Mの歴史、概略、アピールポイント、出願の注意などが説明される。人数によっては、見学者の個人的なニーズに応える形で会話形式のセッションも行われるが、大体は説明会形式で行われている。
見学者は、受験生本人のほか、保護者同伴のケースが非常に多い。これは、アメリカの一般的な大学選びに家族が大きく関与していることの一例だ。両親のアドバイスは、受験生が大学を選ぶ際に大きな影響を与えるようだ。殊に、ウィリアムズバーグは全米屈指の観光地でもあるため、家族旅行で訪れて、そのついでに大学を見学していくことも多いようだ。
また、通常のキャンパス・ツアーの他、泊まりがけでキャンパスライフを体験できるオーバーナイト・ビジテーション・プログラムも行われている。このプログラムのホストはボランティアの学生が行う。ホストの寮の部屋への宿泊（参加者は寝袋持参）の他、キャンパスの案内、授業への同行、キャンパス周辺のタウンガイドなどが含まれる。
■バーチャル・ビジット
バーチャル・ビジットはW＆Mで3年前から始められた試みである。インターネット上に専用のチャットボードを用意して、特定の期間（年に1回4月中旬に2日間、午後7時から10時までの3時間）、受験生からの質問をチャットで受け付けている。
当日は、各部署からのスタッフ、各専攻の教員、学生など数十人が1部屋に待機し、部屋に用意されたパソコンでインターネットに接続しチャットでの質問に答える。参加者は1日で約900人ほどに上る。チャットルームは、サイエンス、アート、学生サービス、キャンパスライフなど七つに分かれており、それぞれに担当のスタッフ、教員、学生が待機している。
主なターゲットは、現在合格通知を受けていて、どこの大学に入学しようか迷っている学生である。このチャットで、気軽にW＆Mの細かい情報を手に入れられるようにし、安心してW＆Mを選択してもらおうという戦略のようである。特に州外に住んでいて、簡単にW＆Mを直接訪れることのできない学生たちにとっては非常に有益なサービスとなる。
また、現在juniorの高校生もターゲットに入っている。実際、4月はアメリカの高校生たちにとって、大学選びスタートの時期でもある。
この例にならい、1月にSFCでもバーチャル・ビジットを行った。初めての試みだったので、事態の混乱を避けるため、あまり大々的に広報宣伝を行わなかったが、国内外から350程度のページビューがあり、熱心な質問が寄せられた。今年度も9月に第2回のバーチャル・ビジットを予定している。1回目を終えてみて、今後の工夫次第では、大きな可能性を持つ媒体であるという手ごたえを感じている。
■その他の広報活動
これまでに述べた広報活動の他に、indirectly recruitingと呼ばれるものがある。これは、直接その場でW＆Mを売り込むのではなく、高校生あるいはその両親などにW＆Mに対していい印象、憧れなどを持ってもらい、多少なりとも彼らの大学選択に反映されれば、というスタンスで行われているものだ。例えば、高校のスクールカウンセラーの主催で行われる各種講演会（一般的な大学選びについてのアドバイスや、受験についての心得など）への協力や、他部署が主幹し、W＆M主催で行われるイベントなどへの協力がそれにあたる。
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インフォメーション・セッション
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（2）入試業務 大学院生スタッフも選考に参加
学部生を選考する際の大まかな方針は、州の方針がもとになっている。しかし、これを下敷きに、実際の選考、業務はオフィスのスタッフが広報から選考に至るまで自律的に行っている。
■出願
出願書類の受け付け時期は、Early Decision（ED）と呼ばれる単願出願と、通常の出願との2回に分けられている。普通アメリカの受験生は10～15の大学に出願し、1番条件の良い大学を選ぶ。大学によっては、入学に際し優待制度を設けているからである。EDはW＆Mが第1志望であることが条件なので、通常の出願よりも若干選考の基準は甘い。
通常の出願は、01年の実績では、9200通ほどの応募があった。この中から3000人程度に合格通知を出し、実際の入学者数は1000人程度となる。
■選考
合否の決定はこの出願書類によって決まる。出願書類1通につき2人が必ず目を通すようになっている。Deanの他、大学院生のインターンなど、普段オフィスにいるスタッフを中心とし、その他数人がReader（採点助手）として書類読みにあたる。Readerは基準となるSATのスコア（昨年の合格者たちの平均点）や、コメントのサンプルなどのガイドラインを共有するが、不明な点などは随時Deanに相談をする。
評価のポイントは、SAT1またはACTのスコア、GPA、授業のカリキュラム（特に基礎科目をカバーしているかどうかは大きなポイントとなる）、課外活動、スクールカウンセラーからの推薦状、エッセイなどである。
この書類読みの段階でトップとボトムを先に決定していき、中間層を選考会議にかける。選考会議は書類読みとほぼ同時進行で約丸1カ月毎日行われ、スタッフ全員で最終的な合否判定を行う。地域ごとに男女別に合格者のおおよその基準値が出されている。これは、受験者総数から、州内、州外、男女比などを考慮して割合を出し決定された数値である。さらにアメリカでの選考における特徴として、学生の人種や所得層、バックグラウンドをより多様にしようという配慮もなされている。また、州立大学ゆえに、州内に在住しているか、卒業生の子弟か、ということも評価の要素に含まれる。
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選考会議の様子
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在学生や卒業生も連携しリクルーティングを支える
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80年代に、アドミッション・オフィスと卒業生のボランティアによるジョイントプログラム、AAN（Alumni Admission
Network）が組織された。これは、主に次の三つの活動を行うためのグループである。
・W＆Mの代表としてカレッジ・フェア（大学説明会。大小さまざまなものが全米で数多く開催されている）に参加
・受験生、合格者を対象としたレセプションのホスト
・受験生の問い合わせ窓口として、電話やe-mailでの問い合わせに答える
現在AANは500人以上のメンバーを抱え、44の地域グループに分かれている。そのうち、21はバージニア州内、23は州外の地域グループである。海外では、ロンドンと香港にグループがある。
W＆Mは州立大学であるため、ここ数年、州政府による予算的な締め付けが厳しくなっている。そうした中で、スタッフを州外のカレッジ・フェアに派遣することは非常に困難であるため、各州に住むボランティアの卒業生に頼っている。卒業生は無償で各種イベントへの参加、問い合わせ受け付けなどを行っている。これは、卒業生の愛校心がなければ不可能である。在校生のガイドとともに、卒業生のAANメンバーによってW＆Mのリクルーティングは支えられている。オフィスのスタッフもそれを強く認識しているため、学生、卒業生との協力関係を非常に大事にしている。
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大学を愛し良くするための学生選考という姿勢で臨む
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W＆Mのアドミッション・オフィスにいて肌で感じたことは、スタッフが合否の決定権を含め、責任ある権限を持っているため、仕事に大きなやりがいを感じているという点である。いかにして、良い学生を獲得するか。そのためには、どういう企画、広報が有効か。スタッフが自律的に入試プロセスを取り仕切ることで、効率的に物事が進んでいるという印象を持った。
効率的に仕事を進めるためには、責任業務を担うDeanと、データ入力や事務処理等を行うサポートスタッフとの業務分担の明確化、卒業生や学生を明確に「資源」として捉え活用するシステムなどが有効であるようだ。企業で言う「営業部」という機能をアドミッション・オフィスが意識的に担っている。
そして、単に仕事としてのみならず、スタッフが皆、本当にW＆Mが好きで、W＆Mをより良くするために質の高い学生を選考しようという姿勢が強く感じられた。この要素は目に見えるものではないが、入試広報を行う上では、非常に重要な要因なのではないだろうか。
全般的に（最近の少子化などの流れで若干変化しつつあるものの）、日本の大学は「入れてやる」という姿勢がいまだ根強い。一方で、W＆Mをはじめとすアメリカの大学では、「優秀な学生に来てもらう」という姿勢が強く感じられる。大学も学生を選ぶが、学生もまた大学を選ぶ、ということを強く意識している。「何でもすべてアメリカ式を取り入れる」ということではなく、アメリカが直面している問題をケーススタディとして、学ぶことは多い。今後も継続して、アメリカの大学の動向、戦略などを参考にしていくことは大いに意味のあることであろう。
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カレッジ・フェア
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