Between 2003.05 特集　これからの社会人教育
【Report 3】 分野横断型の独立研究科で 「強いコミュニティ」の創出者を育成 札幌学院大学大学院　地域社会マネジメント研究科
札幌学院大学大学院に本年度開設された地域社会マネジメント研究科は、地域社会の問題を解決できる人材の育成を掲げ、主として社会人を受け入れている。ビジネス、行政・コミュニティ、非営利組織、会計・税務など各分野のリーダーの連携とマネジメント能力向上を図り、「強いコミュニティ」としての北海道の再生を目指す。
商業の衰退などの問題に対応 　札幌市の東隣の江別市にある札幌学院大学は、商、経済、人文、法、社会情報の5学部からなる。人文、社会科学の専門家集団の強みを生かし、他大学や企業、市民グループからも教員を集めて誕生したのが地域社会マネジメント研究科だ。 　上田陽三研究科長は農村振興のテーマで博士号を取得、都市計画の専門家として東京の設計事務所でコンサルに従事した経験もある。建設や情報通信などの企業が連携して町づくりを考える（社）北海道まちづくり促進協会の会長も務めている。 　同研究科長は、研究科新設の背景となった北海道の問題として、「急速な高齢化と人口の減少」を指摘。（財）統計情報研究開発センターの人口推計によると、2023年には道内178町村のうち4分の3で人口5000人以下になり、4分の1は2000人以下になる見通しだ。 　「商業経済の衰退は農業以上に深刻で、後継者不在による廃業も増えています。都市の空洞化が加速する状況下で、持続可能な発展、すなわちサスナティビリティを前提とした町づくりが大きな課題になっています」 　協会の仲間との議論の中で、町づくりに関わる多様な専門分野を横断的につなぎ、「花びら型の産業」を創出できる人材養成の必要性が浮上。同研究科長によると、学部横断型の研究科は道内の大学院では初めてだという。 　社会人を積極的に受け入れる理由については、「各分野でのプロフェッショナルで、実務や市民活動を通して問題意識が明確になっている。地域の再生という緊急課題の解決には、シャープな現場感覚が必要です」と説明する。入学者21人のうち17人が社会人。同じ自治体職員でも、経済部長を務める55歳の男性は、定年後のライフワークを視野に入れて入学、もう1人の若手は、実務への還元を目的に学んでいるという。ほかに、会計のスペシャリストを目指す会社員や市民運動に従事している人も。 　20代後半から30代が中心。同研究科長は、入試の面接を通して「仕事や活動の現状に物足りなさを感じ、マネジメント能力を高めたいと考えている人が多い」と実感したという。非常勤講師の目玉として、ユニークな町づくりで全国的に知られる逢坂誠二ニセコ町長の協力も得られた。 大学独自の奨励金制度で支援 　仕事と両立できるよう平日夜と土曜日に、本キャンパスに加え、エクステンション事業のため札幌市中心部に設けた社会連携センターでも授業を行う。講義中心ではなく、「実践的な演習を軸にした知識の注入」（上田研究科長）を図る。活動分野に応じた履修モデルとして、「非営利組織」「行政・コミュニティリーダー」「地域の起業家・産業政策リーダー」「ビジネスリーダー」「会計スペシャリスト」「まちづくりにおけるマーケティング」の6パターンを提示。授業料は年間83万〜87万円で、大学独自の奨励金制度として全員に年間30万円を支給する。 　学生や修了生が連携して、例えば、介護や子育て、環境などのコミュニティビジネスを創出し、市民参加を促す形でマネジメントすることで、行政に頼らない活力あふれる町づくりが進むことが期待されている。 　研究科新設と同時にシンクタンクも設け、研究、調査を受託する。テーマとしては、観光地のブランド展開、市街地の交通渋滞と排気ガスの問題を解消するためのトランジットモール事業、生ゴミの堆肥化などによる都市型循環型農業などを想定。研究科の学生も各分野のプロフェッショナルとしてこれらのテーマに関わってもらい、教育、研究、実践の循環を促す考えだという。 ＞トップへもどる ＞大学・短大トップへもどる ＞バックナンバー
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