ベネッセ教育総合研究所
特集 今、なぜキャリア教育か
吉澤 潔
ウィルソン・ラーニング ワールドワイド(株)
常務取締役
吉澤 潔


1948年京都市生まれ。73年京都大学文学部卒業。74年(株)ユー・ピー・ユー設立に参加。84年同社代表取締役に就任。98年ウィルソン・ラーニング ワールドワイド(株)との経営統合により同社常務取締役に就任。
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【インタビュー】企業から見たキャリア教育
仕事の面白さを実感できる機会を
 キャリア教育の強化によって、学生の職業意識を向上させようという大学が増えているが、企業はその取り組みをどのように評価しているか。大手企業の人材開発を手がけるウィルソン・ラーニング ワールドワイド(株)の吉澤潔常務に、最近の採用の動向を含めて聞いた。
成長の機会得られないことも早期離職の原因に

―就職状況の厳しさは、学生のキャリア意識にどのような影響を与えたのでしょうか。
吉澤 若い人たちは、就職することだけが人生ではないと感じているのでしょう。かつては、職業人生のスタートを切るのに、大手企業はとても魅力的な存在でした。しかし最近では、いつリストラの対象になるかわかりませんし、倒産や合併によって企業がなくなってしまうことさえあります。

―就職しても、2、3年で3割以上が退職するという状況を企業はどう見ているのでしょうか。
吉澤 乱暴な言い方をすれば、「3年後に7割になることを見込んで採用している」といった面があることも否定できません。競争による淘汰の結果ということです。一般的に早期離職率の上昇は、企業と新卒者のマッチングの問題として捉えられることが多いようですが、私はそれだけが原因だとは思っていません。
 半分は、企業の責任です。一つには、新入社員に対して、仕事を通じて成長できるような機会を提供していないという問題があります。人は給与をもらうためだけに働くわけではありません。仕事を通じて自分が成長できたと実感できれば、それは働く人にとって大きなインセンティブになります。ただし、マッチングの問題も軽く見てはいけません。

―ミスマッチが起こる原因は、どこにあるのでしょうか。
吉澤 いくつか考えられますが、最大の原因は採用システムにあると思います。学生が就職先を決めるにあたって、かつては卒業生が勤めている企業を訪問して、仕事の内容や職場環境などを直接知る機会があり、それがある意味では面接の場でもありました。しかし最近では、オープン採用ということで、とりあえず筆記試験でふるいにかける企業が増え、ある程度の受験テクニックがなければ面接までたどり着くことはできません。また、大手企業の中には採用業務をアウトソーシングしているケースもあり、その場合は学生と就職先企業が直接接触する機会は非常に少なくなります。

企業が求めるのは組織の中で行動できる人

―企業は、学生にどんな能力を期待しているのでしょうか。
吉澤 企業は組織で動いています。そこで求めるのは、組織の視点でものを見て、考え、行動する人間で、それが採用の前提条件になります。企業は採用にあたって、リーダーシップやコミュニケーション能力を重視するとよくいいますが、それは組織の中で行動できる人という意味なのです。

―企業は、即戦力となる人材を求めているように感じますが。
吉澤 確かに一時はそんな風潮もありました。3年間で戦力にならないと「持ち出しだ」と発言する経営者さえいました。しかし、現状では新卒を即戦力として採用する大手企業はほとんどないと思います。
 もちろん成長は速い方がいいし、結果も早く出してほしいでしょうが、それを基準に採用しても、結果としていい人材が採れないということがわかってきたのです。新卒者は企業の長期的な発展のための人材であって、短期的なパフォーマンスのための要員ではないということが、理解され始めてきたといえます。


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