VIEW21 2000.12  特集 変貌する大学と入試

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★長崎県に見る大学改革★
単位互換制度によって
県内の全大学を魅力ある大学に


 10月16日、長崎で大学・短大間の単位互換に関する協定書調印式が、知事、各大学学長出席の下開催された。単位互換制度とは、大学間の協定に基づき他大学で受講し取得した単位が、自分の所属する大学の単位として認められる制度。大学設置基準では、他大学における修得単位を所属する大学の単位に算入できる上限が拡大され30から60となった。これは卒業に必要な単位数124のほぼ半分に相当する。既に実施している所では、41大学が参加する大学コンソーシアム京都が知られており、広がりを見せる大学改革の具体的な対応の一つだ。長崎県では'01年度から、県内の7大学7短大が参加して単位互換制度「NICEキャンパス長崎」をスタートさせる。名称は、大学間単位互換の英訳Nagasaki Intercollegiate Credit Exchangeの頭文字を取った。

7大学7短大が歩み寄り実現した単位互換制度

 「他大学の興味ある授業を受けたい。そんな学生の積極性に応えるために、単位互換制度の確立に努力しました」
 こう語る橋本健夫長崎大副学長は、この単位互換制度の検討委員会の委員長を務めた。委員会が発足したのが'00年4月。それから今日まで、各大学の担当者と単位互換を実現するための検討・調整を行ってきた。その調整を行政サイドから進めてきた長崎県総務部学事振興課の百岳敏晴氏は、次のように語る。
 「大学にはそれぞれの時間割や年間予定、カリキュラムがあります。単位互換のためには、他の大学とある程度足並みを揃える必要があり、そのシステムを多少変更しなくてはいけません。例えば、試験日程。長崎大では9月に実施されますが、多くの大学では7月下旬です。何か変更があって、所属大学の試験と単位互換で受けている授業の試験が重なってしまう場合なども考えられます。これに関しては、追試などで配慮してもらうことになりました。それまでそのような制度がなかった大学も実施しなくてはならない場合が出てくるわけです。しかし、各大学の協力により従来の形を尊重しながら、合意に至ることができました」
 単位認定に関しても、各大学によって認識は異なる。2年制の短大では専門科目だとしても、4年制大学にとっては教養科目に当たると判断することもあるだろう。この授業は教養科目、あるいは専門科目としてしか取れないのか、それともどちらの単位としてもよいのかについては、シラバスの中で明確に示されることになっている。

学生にとってより良いカリキュラム作成が可能に

 この単位互換制度は、学生にどのようなメリットをもたらすのだろう。
 「大学は学生に最善のカリキュラムを用意しています。しかし、それは一つの大学という人的資源の限られた中での最善です。大学が広がりさらに資源が増えれば、もっと素晴らしいカリキュラムが組めるかも知れません。単位互換制度による選択肢の広がりのおかげで、各学生にとっての『さらに良いカリキュラム』が作れることになります」(橋本副学長)
 また大学入学後、進路や関心の方向が変わり編入学を希望する学生は、この制度を利用すればより確実に自身の望む編入先を探すことができる。
 「もちろん、高校段階でしっかり自分の進路を考えて進学しているはずですが、20歳前後の若者ですから、大学入学後にその方向性が変わることもあるでしょう。そんなとき、単位互換制度を活用すれば、興味のある他大学に足を運び施設を見て授業を聞いてから、編入先を探すことができます。授業名が素晴らしくとも内実を伴っていなければ見破られてしまいますから、大学にとっては厳しい制度かも知れません」(橋本副学長)
 他の大学の内実を知る機会が増えれば、学生の大学を見る目は厳しくなる。単位互換制度は、県内の大学の切磋琢磨を促進する制度と言えるようだ。
 「県を挙げての取り組みということで、今回の協定書には長崎県知事も調印することになりました。単位互換制度は、長崎県全体での大学の総合力と魅力度の向上を狙ったものです」と百岳氏は語る。それはもちろん県内のどの大学に行っても好きな授業が取れるという魅力が加わるからであるが、それだけではない。各大学が競いながらそれぞれの魅力を磨く相乗効果も期待できるのだ。


写真 橋本健夫 写真 百岳敏晴
橋本健夫
Hashimoto Takeo
長崎大副学長。単位互換制度検討委員会委員長を務めた。「新しい大学間連携を始める長崎に期待して下さい」
百岳敏晴
Hyakutake Toshiharu
長崎県総務部学事振興課総括課長補佐。「内外を問わず学生が集まる、魅力ある県を目指したいですね」

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