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学校のノウハウの共有と伝承を図る
鞁嶋弘明
島根県東出雲町教育委員会教育長
鞁嶋弘明
Kawashima Hiroaki
島根県立松江北高校校長をはじめ、県内高校の校長、教頭、進路指導主事を歴任。
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共有・伝承が困難な学校の「ノウハウ」
 学校には、その学校独自の「指導ノウハウ」がある。その存在が日常的に意識されることはなくとも、授業の進め方や教材の使い方、進路指導のスタンスなどには、自ずと学校独自のカラーが滲み出る。長年の実績に裏打ちされたこうした経験情報の集積こそ、その学校独自の指導ノウハウと言えよう。学校の個性に応じた教育が求められる現在、こうしたノウハウの活用が、あらゆる教育シーンにおいて重要な意味を持つことは論を待たない。
 だが、近年の教育環境の変化を受けて、このような指導ノウハウの存続が難しくなりつつある。特に多くの学校で問題となっているのが、教師の異動サイクルの短期化によって、独自のノウハウの伝承が困難になりつつあることだ。島根県東出雲町教育委員会教育長の鞁嶋弘明先生は、その危険性を次のように指摘する。
 「本来、新任の教師が『○○高校の教師』として、学校のノウハウをつかむには、最低3、4年は必要です。と言うのも、学校の指導ノウハウ全体を把握するには、最低でも3年間、持ち上がりで担任を持って、指導の流れ全体を理解することが不可欠だからです。逆に言えば、新任の教師が真に『○○高校の教師』として機能し始めるのは、異動してきて3、4年目以降と見てもいいでしょう。しかし、近年では、異動サイクルが6、7年という地域も珍しくなくなり、『新任の教師を育成してもすぐに異動』という状況が全国各地で見られています。また、実業高校と普通科高校間の異動も当たり前のように行われるようになり、教師一人ひとりが継続的にノウハウを蓄積できる環境も失われつつあります」


暗黙知のままでは伝承されない
 指導ノウハウの存続を脅かすのは外部環境の変化だけではない。「学校の『ノウハウ伝承の方法』そのものにも問題がある」と鞁嶋先生は指摘する。
 「学校のノウハウの多くは『職人芸』として認識されていたり、明文化されていない経験情報のため、意図的に共有・伝承の仕組みをつくらない限り、教師の異動に伴って容易に散逸してしまいます」
 実際、指導力の高い教師の異動に伴ってノウハウが失われ、進学実績に深刻な影響が出てしまうような事例も見られる。また、せっかくのノウハウが一部の教師にしか伝わっておらず、真の意味での「学校のノウハウ」を構築できないというジレンマも、多くの高校に共通する課題ではないだろうか。
 「学校の指導ノウハウのほとんどは、いわゆる『暗黙知』の形で伝承されています。そのため、独自の指導ノウハウを持ちながらも、それが学校全体のノウハウとして共有されていないケースは広く見受けられます。実際、ある教科に優れた指導力を持つ教師がいても、そのノウハウを共有する仕組みがなかったり、あるいは、ノウハウが『人伝え』でしか伝えられていないようなケースは珍しくありません。これでは、効率的に指導ノウハウを伝承していくことができません」(鞁嶋先生)


暗黙知を形式知化して組織力の向上を図る
 03年度新課程を機に、このような学校のノウハウの在り方を見直す動きが本格化しつつある。各地で進められるシラバスの作成などは、その端的な証左であろう。特に、今春からカリキュラムや授業時間を大幅に変更した高校においては、「今まで蓄積してきたノウハウから、新たなノウハウを構築する」ことが切実に要求されており、本格的なノウハウ共有が重要な課題となっている。また、03年度以降の教育活動で得られたノウハウを、今後にどう生かしていくかもまた、多くの学校が抱える共通の課題と言えるだろう。
 では、ノウハウを共有・伝承する仕組みを見直す上ではどのような考え方が必要になるのだろうか。どうやらその鍵を握るのは「暗黙知の形式知化」というキーワードのようだ。
 「まず、各分掌や個人が持っているノウハウを教師全員が共有できるように開示することが求められます。そうすることによって、教師全員が足並みを揃えた指導をすることが可能になり、学校という組織全体が、一つの目標に向かって総合的な力を発揮することができるのです」(鞁嶋先生)
 しかし、このような取り組みを推進するとき、分掌の壁、教科の壁など、越えなければならない課題は数多い。学校現場ではどのような取り組みが求められるのだろうか。次ページで引き続き検討したい。
学校の暗黙知を形式知化する
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