ベネッセ教育総合研究所
特集 導入期の集団づくり
有本章
広島大大学院教育学研究科教授
広島大高等教育研究開発センター長
有本章
Arimoto Akira
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COLUMN  大学における導入期指導
大学間競争の激化、大学の大衆化などを背景に、大学における教育の在り方が改めて問い直されている。中でも、課題発見・解決型の学びを進める素地を養う導入期指導は、大学においても教育上の課題の一つだ。大学ではどのような導入期指導を展開しているのか、広島大の事例を通して見ていきたい。

●教養ゼミで課題解決力を身に付ける
 体系的な知識の習得と自発性を生かした学習――。広島大の導入期指導の特徴は、両者をバランス良くカリキュラムに組み込んでいるところにある。
 学生の自発性を引き出す取り組みが、97年に導入された教養ゼミだ。全1年生を対象に科学的な思考力と表現力を育て、大学で必要とされる自主的な学習方法を訓練するものである。学生は10人程度のグループに分かれ、学科内容に応じたテーマに沿って取材やディスカッションにより調査・研究を進める。各グループには、1〜複数名の教員がチューターとして指導に付くが、教員は学生をサポートするにすぎない。学生の主体性・自主性を尊重することが教養ゼミ最大のポイントなのだ。
 「広島大でも学習実態調査をしていますが、学習に対する学生の意欲やモラルは低下しています。しかし、内発的に学んでいく力は必ず持っています。いかにそれを引き出し学びの動機づけを与えるかが、大学の導入期教育では重要になるのです」(有本章教授)
 このため教養ゼミでは、研究テーマの決定はもちろん、ディスカッションの場でもイニシアチブを取るのは学生に任される。教員は議論について感想を述べたり、議論の流れを修正する程度だ。更に、レポートや論文の書き方や参考文献の探し方なども、学生が主体的に行えるよう誘導していく。
 また、フィールド調査を重視しているのも、教養ゼミの特徴の一つだ。環境対策に関する企業や官公庁への取材、屋外で物体を落下させる強度実験など、社会との関わりや実地の体験により興味・関心を引き出すと共に、一連の取り組みを通して「課題発見→解決」という研究の方法論を体得させるのである。

●パッケージ科目で体系的に知識を習得
 一方、系統立った積み上げ型の学習を行い、基礎・基本の習得を図るのが「パッケージ別科目」だ。コアカリキュラムの履修を担保し「知識の偏食」を防ぐ広島大独自のカリキュラムである。「市民生活と社会」「人間と自然の共生」などの系統から一つを選択し、更に各系統ごとに設けられた「人間・価値の視角」「社会・世界の視角」「自然の視角」の三つの科目群からそれぞれ2科目以上を履修する。
 「バランス良くコアカリキュラムを履修することで、多角的な物の見方を身に付けると共に、分野間のつながりも理解できる仕組みとして、非常に有効だと思います。ただ、パッケージ科目は科目履修の自由度が低いため使い勝手の面では今一つと言えます。今後は、学生のニーズに合ったコアカリキュラムの提供を模索していく必要があると思います」(有本教授)
 自発性を尊重する教養ゼミと、体系的な知識の習得でバランスの良い科目履修を目指すパッケージ科目により自学自習に誘う広島大だが、システムの整備だけで狙いが達成できるわけではない。そこには「教員の資質向上が欠かせない」という。
 「学生の個性や興味・関心は千差万別です。一人ひとりの資質に合った教育を行うためには、教員の指導力が何よりも重要になるのです。全学的なFD(教授法の改善)活動による教員の資質向上が、益々重要になってくるはずです」(有本教授)
 また有本教授は、小中も含め高校や大学など教育課程の各段階で接続教育が必要になるのは、長いスパンで教育全体を考える視点が欠如していることに起因すると指摘する。ライフステージ全体の中で、連続的に教育を見ていくことが重要になってきているのである。


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