ベネッセ教育総合研究所
大学改革の行方 大学授業改善の実相を追う
高村麻実
桜美林大文学部助教授・教務部長
高村麻実
Takamura Asami
1963年生まれ。桜美林大文学部卒業後、日本大大学院文学研究科前期課程修了。桜美林高校講師、桜美林大講師等を経て現職。現在、東京都教育委員会進学問題検討委員会委員等を務める。
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事例2 桜美林大学
履修指導でGPA制度の効果を高める
GPA制度により学生に責任ある履修を促す
 桜美林大は文・経済・国際・経営政策の4学部8学科を擁する東京都西部の4年制大学。私立大としてはICU、東海大と共に、授業改善など大学教育に関する研究所を持つ数少ない大学の一つだ(※6)。
※6 国立大のFD活動は財政的基盤の下、大学教育研究センター等が支えている。
桜美林大では89年度のセメスター制導入、94年度の学習区分制度の導入など、制度改革・授業改善を進めてきたが、最大の目玉となったのが00年に全学的に導入された「GPA制度」である。
  GPAとはGrade Point Averageの略で、成績を数値化して評価する方法である。従来、A〜Fの5段階で出していた成績をそれぞれ点数に置き換えて単位数を乗じ、その合計を履修単位数の合計で割ることで平均値を算出、成績をトータルに見る成績評価方法だ(図1)。桜美林大の高村麻実教務部長は、GPA制度導入の意義を次のように説明する。
▼図1 GPAの算出方法
図1
▲クリックすると拡大します。
 「従来は成績が『不可』になると、落とした単位は成績証明書に残りません。このようなシステムでは、学生はいわゆる『保険』として多めに科目を履修し、途中で嫌になると意図的にその科目を落としたり、今学期で落とした分を取り戻すために、次学期で無理な履修計画を立てたりすることになります。GPAでは『不可』も成績として残るので、学生が科目履修及び学習活動に、最後まで責任を持って取り組めると考えたのです」
  また、前学期の成績評価が次学期の履修計画に反映される点も、学生に責任を持った履修を促す役割を果たす。GPAが高ければ次学期(桜美林大ではセメスター制により1年に2回、4年間で計8回の履修登録が可能)に登録できる単位数が増え、逆に低ければ制限される。例えば、GPA3.5以上なら、次学期に履修できる単位数は、通常20単位のところを28単位となるのに対して、GPA2.0未満の学生は16単位と制限されるのだ。成績優秀者は早期卒業が可能である反面、2期連続でGPAが2.0を下回れば、学生とその保護者を呼び出して指導を行い、更に規定値に届かない学生には退学を勧告する場合もある。
  「成績不振者にとっては厳しい側面を持っていますが、履修制限は決して『罰』ではありません。履修制限をすることにより、予習・復習時間を含めて一つの科目に対して十分に学習時間を取ることで学習の質を高めることが目的なんです」(高村教務部長)
  事実、GPA成績別の次学期の成績変動を学内で調査しているが、前学期の成績が低かった学生ほど触発され、次学期の成績は高く変動するという。
  更に、教員にとってもGPA制度は意識改革を促す役割を果たすという。成績証明書に「不可」が残る以上、学生は中途半端な履修はできず、結果を強く意識するようになる。そのため、学生はシラバスに則った授業を求めるようになり、教員の間でシラバスに忠実な授業を心掛ける意識が高まるのだ。また、担当の授業で学んだ学生たちのGPAが低い場合は、学生の理解度を上げるための授業改善も求められる。「教員は、学生のGPAを自分の授業実践における成績だと思って、授業改善に臨む必要がある」と高村教務部長は言う。

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