未来をつくる大学の研究室 分子生物学・アポトーシス

長田重一

長田重一 教授

ながた・しげかず
1949年石川県生まれ。理学博士。専門は分子生物学。 77年東京大大学院理学系研究科博士課程修了。 チューリッヒ大学分子生物学研究所研究員、 東京大医科学研究所助手、 大阪バイオサイエンス研究所分子生物学研究部部長を経て、 現在、大阪大大学院生命機能研究科時空生物学教室教授、 および医学系研究科遺伝学教室教授を務める。 アポトーシス研究の第一人者として知られ、 95年にはコッホ賞受賞、01年には文化功労者に選ばれる。

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未来をつくる大学の研究室 03
最先端の研究を大学の先生が誌上講義!

大阪大大学院生命機能研究科時空生物学、医学系研究科遺伝学
分子生物学・アポトーシス

ここ数年、遺伝子の解析は急速に進んでいるが、
生命のメカニズムはまだまだなぞに包まれていることがたくさんある。
そのなぞを解明する楽しさを、世界的な分子生物学者である長田重一先生が語る。

分子生物学って?

生命活動のメカニズムを分子のレベルで解析

分子生物学は生物学の一分野で、生命を分子のレベルで研究し、そのメカニズムを解明している学問だ。ここ数年、さまざまな生物の遺伝子情報が明らかになりつつある。こうした遺伝子情報を基に、それぞれの遺伝子が生命活動にどんな役割を果たしているのかを探ることが、分子生物学の大きな役割とされている。中でも、長田重一先生は、アポトーシスと呼ばれる「細胞の死」がどのように起きているか、分子生物学の立場からアプローチ。「Fas」と「Fasリガンド」というタンパク質がアポトーシスにかかわっていることを突き止めた。


教授が語る

素朴な疑問が「細胞の死」のメカニズムを解き明かす

長田重一 教授

分子生物学との出合い
遺伝子に興味を持ち生き物の仕組みを解明したいと思った

 今、高校生の皆さんの中には、将来自分はどの学科に進むべきなのか、悩んでいる人が多いと思います。でも、もし今の段階で「本当にやりたいこと」が見つからなかったとしても、焦ることはありません。
  私が本格的に分子生物学を志そうと決めたのは大学生になってからです。子どものころから生き物は好きでしたが、「絶対に生物学を勉強したい」というほどではありませんでした。大学で生物化学科を選んだのも、何となく漠然としたものでした。
  それが大学に入って丸山工作(※1)先生の講義を受けたとき、運命的な出合いを感じました。私が大学に入学した1960年代後半は、ワトソンとクリック(※2)DNAの二重螺旋(らせん)構造(※3)を発見して、ノーベル生理学・医学賞を受賞した直後でした。遺伝子という視点から、生き物の仕組みを見ていこうという動きが始まりつつありました。そうした分子生物学の最新の研究成果を、丸山先生が教えてくれたのです。
  今の高校生の皆さんは、「遺伝子」と聞いてもそれほど新鮮に感じないかもしれません。しかし当時は、高校の生物の授業でもほとんど学ばなかった未知の分野でした。「遺伝子のメカニズムが解明できれば、生き物がどうやって生きているのか、すべてわかるかもしれない」と、とても感激したものです。
  大切なのは、「これだ!」というものが見つかったら、その世界に本気になってのめり込んでみることです。私が大学院生のときに、アメリカの研究グループが組み換えDNA(※4)の技術を発表しました。ある特定のDNAを取り出して、大腸菌の中で増やすというものです。私は「DNAのメカニズムを知る上で、この技術は何が何でも習得したい」と思いました。
 けれども、組み換えDNAの研究をしている人は日本では皆無でしたし、欧米にもほとんどいませんでした。そこで、所属していた大学の研究室の先生に紹介してもらい、数少ない組み換えDNA研究者の一人であるスイス・チューリッヒ大学のワイスマン先生のところに、研究員として留学することにしたのです。
  ワイスマン先生の研究室では、遺伝子の中から、抗がん作用があるといわれていたインターフェロン(※5)を取り出して、大腸菌の中で増やすという研究に取り組みました。まだ世界でだれも成功したことがないテーマです。3万種類もの遺伝子の中からインターフェロンを抽出するという、気の遠くなるような地道な作業が続きました。そして、研究を始めてから約1年後、ついにインターフェロンを抽出し、培養することに成功したのです。今ではインターフェロンは、がんやC型肝炎を抑える薬として世界中で使われています。
  私がこの経験から学んだのは、粘り強く一つひとつ事実を積み重ねていけば、必ず結果が出るということでした。そして、そんな根気のいる作業を精神的に支えるのが、「なぞを解明したい」という好奇心です。研究活動で一番大切なのは、粘り強さと好奇心だと私は思っています。

用語解説
※1 丸山工作  1930年生まれ。筋肉の収縮の仕組みについての分子生物学的研究で知られる。東京大教養学部助教授、京都大理学部教授、千葉大学長などを歴任。2003年死去。
※2 ワトソンとクリック  ワトソンはアメリカの遺伝学者。クリックはイギリスの生物学者。彼らのDNAの二重螺旋構造の発見は、分子生物学の飛躍的な発展をもたらした。ノーベル生理学・医学賞受賞は1962年のこと。
※3 DNAの二重螺旋構造  DNAは、糖とリン酸でできた2本の鎖が螺旋状に絡み合っている。この鎖の間で、アデニン(A)とチミン(T)、グアニン(G)とシトシン(C)という塩基がそれぞれ向かい合って結合している。このAーT、GーCのセットを塩基対といい、塩基対の配列によって遺伝情報が決まる。
※4 組み換えDNA  遺伝子工学の技術を使って、DNAの塩基配列に変更を加えること。
※5 インターフェロン   ウイルスに感染した細胞や腫瘍(しゅよう)細胞の増殖を抑える働きを持つタンパク質。抗がん剤などに利用されている。
写真

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