未来をつくる大学の研究室 分子生物学・アポトーシス
VIEW21[高校版] 新しい進路指導のパートナー
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先生の研究テーマ
細胞を殺すタンパク質の存在のなぞを解きたい

 私がアポトーシスの研究を始めることになったのも、好奇心を突き動かされたからです。
  スイスから日本に戻ってきた私は、米原伸(※6)先生と再びインターフェロンの研究に取り組んでいました。インターフェロンには、細胞に侵入しようとするウイルスを防ぐ働きがあります。そこでインターフェロンの働きを止めると、細胞がウイルスに感染しやすくなることを、実験によって確かめようと考えたのです。ところが、その実験中に米原先生が、インターフェロンやウイルスに関係なく細胞を殺す働きを持つ「Fas」というタンパク質を、偶然発見しました。
  細胞は、栄養が不足するとすぐに死んでしまいます。しかし、米原先生が見つけたのは、そうした自然死ではなく、積極的に細胞を殺すタンパク質が存在するということでした。死に方も細胞がバラバラになって死んでいく普通の死とは違って、タンパク質が細胞を包み込んで、押し潰されるように死んでいきます。調べると、こうした細胞死は「アポトーシス」と呼ばれていることがわかりました。しかし、そのメカニズムは、当時全く解明されていませんでした。
  「なぜ、細胞を殺すタンパク質が、体の中に存在するのだろう」と、私はとても不思議に感じました。きっと生物が生きていく上で、必要な役割を担っているはずです。
  新しい研究は、偶然の出合いから始まります。「なぜだろう」と疑問を持ったら、その解明に取り組んでみる。そうしてなぞが解き明かされ、科学は進歩していきます。私は、今度はアポトーシスの研究に夢中になりました。91年に初めて論文を発表し、今でも研究を続けています。

用語解説
※6 米原伸  東京都臨床医学総合研究所研究員などを経て、現在、京都大大学院生命科学研究科高次遺伝情報学分野教授。細胞死の研究を通して、発がんや免疫、発生の研究を行っている。
写真1
写真1 写真上はアポトーシスが発生する前の細胞、写真下はアポトーシスが起こっている状態の細胞。細胞は1→2→3の順に、包み込まれるように萎縮し、死んでいく。

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