特集 高校教育の「不易と流行」
山口昭博

▲山形県立天童高校

山口昭博

Yamaguchi Akihiro

教職歴24年。山形県立山形東高校の進路部長などを経て、現在、山形県立天童高校の進路部長。担当教科は地理。

松高全一

▲鹿児島県立鹿児島中央高校

松高全一

Matsutaka Zenichi

教職歴24年。鹿児島県立種子島高校などを経て、現在、鹿児島県立鹿児島中央高校の教務主任。担当教科は数学。

高田正規

▲ベネッセ教育研究開発センター学校教育調査室特別顧問

高田正規

Takata Masanori

岡山県立岡山朝日高校など教職歴33年を経て、現職。担当教科は日本史。

船戸秀道

▲ベネッセコーポレーション進研ゼミ高校講座顧問

船戸秀道

Funato Hidemichi

群馬県立高崎高校など教職歴36年を経て、現職。担当教科は物理。

VIEW21[高校版] 新しい進路指導のパートナー
  PAGE 20/24 前ページ  次ページ

【座談会】

変わらず教師に求められているもの
これから教師に求められるもの

社会が変わり、子どもたちが変わっていっても、

いつの時代にも同じように、教師に求められるものがある。

一方で、社会の変化に合わせて、教師に求められるものが

多様化している面もあるのではないだろうか。元高校教師と

現役教師という、世代の異なる4名の先生方に、思いを語っていただいた。

高い専門性があればどんな生徒にも学ぶ喜びを伝えられる

高田 本日は先生方に、自らの教師生活を振り返りながら、時代を越えて高校教育に変わらず求められているもの、これからの時代に求められるものについて、お話をうかがいたいと思います。

 最初のテーマは「授業」です。どんなに教育環境が変わっても、学校が授業を根幹として成り立つことは、今後も揺らぐことはないことでしょう。皆さん、授業に関しては特別な思いをお持ちだと思います。山口先生の場合はどうでしょうか。

 

山口 大学卒業後、私が最初に勤務したのは千葉県の高校でしたが、いわゆる教育困難校で、授業を成立させるのに非常に苦労しました。私としては、自分が受けてきた高校の授業を再現しているはずなのに、どうして聞いてくれないんだろうという思いでいっぱいでした。

 しかしよく考えてみると、彼らは、小学校、中学校とずっと教室の中で疎外感を覚えながら机の前に座っていなくてはならなかったわけです。そんな彼らに対して、通り一遍の授業をしても、聞いてくれませんよね。そこで、ある時点から、学ぶ喜びを授業の中で伝えていくには、どうすればよいのだろうかと考えるようになりました。

 私の担当は地理ですが、校内には地理の教師は1人しかいませんでした。そこで、ほかの学校の先生方と授業についての研究会を開いて、勉強を重ねました。そうした中で、私が考えを改めたのは「学力の低い子には、簡単なことを教えていればよい」という思い込みですね。むしろ学力の低い生徒にこそ、意識的に、学ぶことの楽しさ、学びの本質を伝えていかなくてはならない。なぜなら、その喜びを知らないまま高校生になった子どもたちなのですから。

 授業中の生徒たちは、相変わらず騒がしいままでしたが、卒業して1、2年経って彼らに会ったときに、「あんな授業は初めて受けた」と話してくれました。おそらく、ずっと学びの場から切り捨てられてきたと思われる彼らに、学ぶ楽しさを伝えることができた。それは若い私にとって自信になりましたし、大きな喜びにもなりました。

 

高田 授業が面白ければ、学力に関係なく生徒はついてくる、ということですよね。生徒に学びの本質や学ぶ楽しさを伝えていくには、どんな工夫が必要になるのでしょうか。

 

山口 まず教師が自分の教科についての高い専門性を持っていることが条件だと思います。ただ、専門的な内容をストレートに伝えても、生徒は理解できません。興味を惹く話題を取り上げながら上手に授業を展開すれば、学びの本質はどんな生徒にも伝わるのではないかと思います。私の授業では、必ず「視点」や「論点」を入れています。教科書の内容をそのまま教えるのではなく、違った見方や考え方もあるんだということを意識して伝えることで、生徒の興味・関心を刺激するのです。

 

高田 私は若いときに、「教師というのは五者である」と聞いたことがあります。五者というのは、教師には、学者、易者、医者、芸者、役者の五つの役割があるということです。易者は進路指導、医者はカウンセリング、つまり生徒の悩みの相談相手です。芸者、役者というのはパフォーマーということだと思います。そして、この四者の根幹にあたるのが学者、すなわち専門性です。

 授業で生徒の知的探求心を揺さぶることができない教師から、生徒は進路指導を受けたいとは思いません。また、悩みを相談したいとも思わない。やはりコアは「学者=専門性」になると思います。

 

船戸 私の担当は物理ですが、やはり物理という学問の本質をどうやって生徒に伝えていくかを考えながら授業をしてきました。

 その際に必要となるのは、一つは山口先生や高田先生がおっしゃるように専門性だと思います。そして、もう一つは指導力です。生徒がどんな思いを持って授業に向かっているか、教師に何を期待しているか、生徒の学習到達度をつかんだ上で、生徒の学びへの意欲を高める指導ができる力です。そして、こうした専門性や指導力を日々磨く上で欠かせないのが、「授業をよくしたい」「生徒を伸ばしたい」という情熱ですね。ですから、専門性、指導力、情熱の三つがポイントになると思います。

 

松高 私が教師になったころは、どの学校にもいわゆる名人芸を持った先生がいらっしゃいました。若いときは情熱だけでも生徒はついてきてくれますが、やがてそれだけでは厳しくなる。そうした中で、ベテランで「うまいな」と思わせる先生は、生徒を学びに向かわせる仕掛けをつくる名人芸を持っていらっしゃいました。

 その名人芸を支えているのは、先ほどから話に出てきている専門性、指導力だと思います。かつて名人芸は個人の力量に委ねられていましたが、これからの時代は、名人芸をベテランの先生から若い先生に伝承していく仕組みもつくっていく必要があるでしょう。

 

高田 名人芸を持つ教師は、わざと生徒の前でつまずいてみせたりする。生徒に「先生、それは違うと思います」と言わせて、もっとよい解き方を教える。そういう技をいくつも持っている先生の授業は、確かに魅力的でしょう。


  PAGE 20/24 前ページ 次ページ
目次へもどる
高等学校向けトップへ