未来をつくる大学の研究室 発達心理学

内田伸子

内田伸子 教授

うちだ・のぶこ
1946年群馬県生まれ。お茶の水女子大理事、副学長。 70年、お茶の水女子大大学院人文科学研究科修士課程修了、学術博士。 お茶の水女子大文教育学部助教授、教授を経て、子ども発達教育研究センター長、 文教育学部長を歴任、05年から現職。専門は、発達心理学、認知心理学。文部科学省の 各審議会委員や発達心理学会常任理事、教育心理学会常任理事なども務める。 主著『子どもの文章』(東京大学出版会)、『発達心理学』(岩波書店)他、多数。

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未来をつくる大学の研究室 11
最先端の研究を大学の先生が誌上講義!

お茶の水女子大大学院 人間文化創成科学研究科
発達心理学

心の仕組みを理解することは、私たちが心豊かな生活を送るためには欠かせない。 更に、人間の発達過程の解明は、教育の充実にとっても重要なテーマだ。
科学的な手法で「人間」を明らかにする発達心理学の研究は、現在、どこまで進んでいるのだろうか。

発達心理学って?

人の心の仕組みを研究する

「人間は生涯を通じて、絶え間なく成長・変化する」という立場から、人間の心の発達プロセスを明らかにしていくのが発達心理学だ。人間の一生涯を研究対象としているため、研究テーマは「私たちはどのようにして話せるようになったのか」「人は経験によって、どう変わるのか」など幅広い。研究を進める手法は、実験や調査、フィールドワーク、観察、心理テストなど多彩だ。その成果は、例えば言葉の習得過程の研究を言語学習プログラムに生かすなど、主に教育分野などで活用されている。


教授が語る

目には見えない脳の働きや心の動きを
科学的に解き明かす

内田伸子 教授

発達心理学との出合い
1冊の本が心理学への興味を芽生えさせた

 高校時代には化学部に入っていました。実験によって現象を実証するのが好きだったからです。そんな私が心理学の道に進むきっかけとなったのは、3年生のときに読んだフランスの言語学者のポール・ショシャールが書いた『人間の生物学』でした。後書きに書かれていた「人間に興味のある人は、あらゆる思想的な立場を離れ、生物学的な人間像を客観的に理解すべきである」という一文に、目から鱗が落ちる思いがしました。私は人にも興味がありましたが、生物学的に人間を捉えるなどとは考えたこともなかったからです。人間を生物学的に捉えるには何を学ぶべきだろうか。そう考えるうちに、脳の働きや心の動きを研究する心理学に自然と関心が向きました。
 心理学の中でも、私が特に惹かれた領域が、人間が言語を習得する過程などを学ぶ発達心理学でした。以前から言葉に対する興味が強く、周囲の会話に耳をそばだてる習慣があったからです。1冊の本との出合いから、大学では発達心理学を専攻し、現在までその研究を続けています。
 私の研究室では、誕生から死までの間に、人間がどのように発達するのかを研究しています。中でも、言語と認識に関するテーマが中心です。研究の多くは日常の素朴な疑問が出発点となります。そういう疑問を得るためには、毎日を漫然と過ごさずに、周囲の出来事や人々の振る舞いに敏感でなくてはなりません。そして疑問が生じたら、「どうして、このようなことが起こるのだろうか」とじっくり考える。その際には、自分を内省することも研究の一部となります。心理学の面白いところは、自分自身が被験者になれるところでもあるのです。

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