特集 「自立する高校生」をどう育てるのか
VIEW21[高校版] 新しい進路指導のパートナー
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【調査分析】ベネッセ教育研究開発センター「学生満足度調査」より

高校生・大学生の自立度

分析◎ベネッセ教育研究開発センター特別顧問  高田正規

生徒が自立しにくい傾向は、調査データにどのように表れているのだろうか。
2007年にベネッセ教育研究開発センターが実施した「学生満足度調査」などのデータを通して、高校生・大学生の「自立」について考える。

■分析のポイント

 調査結果の中から、最近の高校生・大学生の価値観や行動特性をよく表していると思われる6つのデータを取り上げて分析した。その結果、彼らの特徴は、次の5つに集約された。
 (1)他者や社会に働きかける力に課題
 (2)挑戦しようとする意欲が低い
 (3)私的価値を重視する傾向が強い
 (4)学歴による「シグナリング効果」(学歴が人物評価の手がかりとなること)を追求する傾向にある
 (5)目標を見いだせていない

 6つのデータを詳しく分析しながら、なぜこれらの特徴が見られるのかを考察していく。

■ 高校・大学生の価値観と行動規範
他者に働きかける力や 挑戦する力に課題

図1

*カテゴリの代表値は2〜5項目の相加平均による値。 *高校生のデータは、ベネッセ教育研究開発センター「高校生の自己理解と進路展望」(97年)、「確かな学力の育成をめぐる課題と展望」(08年5月刊)による

 図1は、高校生と大学生の価値観・行動規範の特徴を示したデータである。
 自我の確立を測る指標のうち、「A自己主張」「B自己肯定」の肯定度の数値に比べて、「C自信」「D自立性」「E目標設定」の肯定度の数値は相対的に低い結果となっている。特に、「C自信」は高校生より大学生になると数値が若干伸びるものの、数値の低さが目立つ。自信を持っているのは、大学生になっても4人に1人しかいないという計算だ。自分自身を信じ、達成感や肯定感を得やすい傾向は大学生の方が高くなるが、「自分らしさに基づいて物事に挑戦する力が弱い」という特徴がうかがえる。
 一方、社会性の確立を測る指標のうち、「A協調性」「B積極性」「C社交的態度」は相対的に高い数値を示しているが、「D社会貢献」「E対処性」「F役割遂行」といった他者や社会に働きかける力の肯定度が特に高校生で低い。
 これらの結果から考えると、今の高校生・大学生は、居心地のよい対人関係を築くことは上手だが、他者や社会に働きかける力は弱いといえそうだ。近年、自立できない高校生が増えている一因は、ここにあるのではないだろうか。人間は対人関係の中で生き、生かされている存在である。ところが今の子どもは、他者と接する場面が少なく、人から学んだり人を敬ったりしたという体験に乏しい。
 こうした状況は、自分に自信を持てない高校生・大学生が増えているといという前掲のデータとも無関係ではない。達成感や自己肯定感が低いのは、他人に認めてもらった経験が乏しいことの表れでもある。「他者に認められたい」という欲求は、人間の根源的な欲求の一つだ。しかし、人に認めてもらうには、他者に対して働きかけなくてはならない。働きかける力が弱いために、まわりの人から認められているとは思えず、悶々(もんもん)としている高校生・大学生が多いのではないか。

◎調査概要 「学生満足度調査」
◎調査主体 ベネッセ教育研究開発センター
◎調査対象 主にゼミレポーター※を中心とする2〜4学年に在籍する大学生、大学院生(10,779人)
※ゼミレポーター:(株)ベネッセコーポレーションの通信教育講座(進研ゼミ高校講座)を修了後、進学した大学の情報をレポートしてくれている学生
◎調査期間 2007年6〜10月

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