特集 中・高・大とつなげる「学び」と「指導」
安彦忠彦

▲早稲田大大学院教職研究科教授

安彦忠彦

Abiko Tadahiko

名古屋大教育学部教授、同教育学部附属中・高校校長、同大学院教育発達科学研究科長および教育学部長を経て、2002年から早稲田大教育学部教授。05年から中央教育審議会委員。専門は教育課程論。

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【インタビュー】

学びの連続性の中で高校に求められる
「自立」の準備と「個性」の伸長

早稲田大大学院教職研究科教授 安彦忠彦

中学校から高校、そして高校から大学、社会と、連続した中で
「高校の学び」を再定義することが、いま求められているのではないだろうか。
高校3年間で必要な学びと指導を、早稲田大大学院・安彦忠彦教授にうかがった。

「自立」と「個性」が確立できていない学生たち

 中学校から高校、そして高校から大学という「学びの連続性」の中で、生徒をどのように育てていくべきなのか。それを考えるとき、私がキーワードとして挙げるのは「自立」と「個性」です。中学校から高校へと受け継いだ生徒を、大学を経て社会に送り出すときには、しっかりとした社会性(自立)と、専門性(個性)を身に付けさせておく必要があります。
 ところが現状では、「自立」と「個性」を育てるための教育が、各校種で十分に行われているとはいえません。少なくとも大学入学段階では、ほとんどの学生は、社会性を発揮する上で不可欠となる「バランスの取れた知識と、その知識を活用して物事を考察し、主体的に判断や行動ができる力」が育まれていません。つまり、知識や思考の幅が、非常に狭くなっているのです。また専門性を身に付ける上で前提となる「何を勉強したくて、この大学・学部に入学したのか」という目的意識も希薄です。
 こうした学生に対して、もし大学が何の手立ても講じなかったとしたら、私たちは「自立」と「個性」が確立できていない若者を、大量に社会に送り出してしまうことになるのです。

中学、高校、大学が果たすべき役割とは

 このような状況になってしまったのは、やはりそれぞれの校種での責任が大きいと思います。中学校は「みんな高校に行くのだから、自分が何をしたいかについて考えるのは、高校に入学してからにしなさい」と生徒が自分の存在について模索する機会を先送りし、高校もまた「とりあえず今は大学合格に専念しなさい」と、受験学力を付けることを優先して、生徒が「自立」や「個性」を育むことを先送りする傾向もあるのではないでしょうか。
 その一方で、今の大学教育を見ると、学生の「自立」と「個性」についての準備が、既に一定段階に達していることを前提としてカリキュラムを組んでいます。
 かつて大学に教養課程があったころには、学生は専攻以外の学問に触れながら、幅広い視野や教養を身に付けていました。また教養課程は、さまざまな勉強をしながら自分が進むべき専門分野を見極める期間にもなっていました。
 ところが現行の大学のカリキュラムは、入学直後からかなり専門性にシフトした構成となっています。「自立」と「個性」が未熟なまま入学してきた学生と、カリキュラムとの間に、ギャップが生じてしまっているわけです。
 社会構造が複雑化すると共に、多くの識者が「今は自立が難しい時代だ」と言っています。だからこそ、生徒や学生の「自立」と「個性」を育むために、中学校、高校、大学が各自の役割をしっかり果たすことが、より一層大切になってきていると思います。

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