特集 「自立心」を育てる進路学習
和田美千代

福岡県立城南高校
教頭

和田美千代

教職歴26年。同校に赴任して2年目。1986年に城南高校に赴任。94年から、同校の「ドリカムプラン」の企画・実施に携わる。2000〜02年、城南高校が文部省研究開発学校の指定を受け、01・02年と研究開発主任。03年から5年間、筑紫丘高校に勤務。08年に城南高校に教頭として再赴任。

VIEW21[高校版] 新しい進路指導のパートナー
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「大学受験」も
生徒の自立にとって大切な機会

福岡県立城南高校教頭 和田美千代

今までの進路学習

教師主体の進学指導から 生徒主体の進路学習へ

 近年、大人として自立できないまま、社会に出ていく若者が増えているように感じます。かつて、大学入試や就職活動といった「通過儀礼」は、子どもたちの自立を促す重要な節目でした。その山を越えれば明るい未来が待っているという展望を描き、そこに向けて努力することができました。今は先が見えない閉塞感が社会全体を覆い、高校生は山の向こう側にある希望を信じられず、学ぶことに対する意義も見いだせなくなっています。
 さまざまな体験を通して生徒の意欲を喚起し、主体的に進路を切り開く力を身に付けさせる――。この目的の下、城南高校で「ドリカムプラン」を開始したのは、1994年のことでした。当時は「進路学習」という概念すらなく、偏差値から大学を選ぶ進路選択が中心でした。そこへ我々は、職業や将来像から学問や大学を考えさせる進路学習の在り方を示し、同じ課題を抱える多くの高校の共感を呼びました。高校の進路指導が、教師主導の進学指導から生徒主体の進路学習へシフトする上で、ドリカムプランの果たした役割は小さくなかったと思います。
城南高校「ドリカムプラン」とは

◎1994年度に導入。生徒の主体的な自己選択能力、進路設計能力の育成を通じて、社会の変化に対応できる力を育成する進路学習。従来の偏差値中心の進路選択から、自己実現の可能性を探る進路選択への転換を図り、全国の高校の進路指導に多大な影響を与えた。職業人講話や職業・大学研究、オープンキャンパス訪問など系統的な進路学習に取り組む。

将来像と現実を見据える バランス感覚が大切

 生徒に進路を考えさせる時、2つの方向性があると思います。1つは、大学の先にある将来像を描かせて学問・大学を選ぶ視点、もう1つは、現在の状況に照らして将来を考える視点です。ドリカムプランについて語られる時、しばしば前者が強調され、「ドリカムは将来のことを決めさせる取り組み」と誤解されることがあります。
 しかし、大切なのはどちらか一方ではなく、いかに両方のバランスを取っていくかということであり、これはドリカムプラン導入時からずっと言い続けてきたことです。確かに、将来の展望や夢があるからこそ、挫折や逆境を乗り越えることができる。
 しかし、無理に将来像を描かせようとすれば、展望を描けない生徒にとっては強迫観念にとらわれてしまいます。あるいは、好きなことを仕事にしなくてはならないという誤った職業観を植え付けることになりかねません。自分の将来は流動的なものであり、気持ちや置かれた状況も変わっていくもの。変化に柔軟に対応できる力を育むことこそが大切なのです。
 また、意欲を高めるだけではなく、学力もしっかり身に付けさせる必要があります。意欲と学力は、両輪です。どちらか一方に偏ることがないよう、常にバランスを心掛けていくことが、進路学習を進める上で欠かせない視点だと思います。

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