30代教師の情熱
うえず・ひさし

うえず・ひさし

教職歴12年。母校である沖縄県立開邦高校に赴任して5年目。担当教科は数学。生徒指導部。2009年4月から半年間、沖縄県立総合教育センターで教科研修を受ける。


沖縄県立開邦高校

◎1986(昭和61)年開校。理数科、英語科、芸術科(音楽コース・美術コース)を設置。2002年度から継続してスーパーサイエンスハイスクールの指定を受ける。◎教員数…52人 ◎1学年生徒数…約240人 ◎2009年度入試合格実績(現浪計)…国公立大は、東京大、東京工業大、大阪大、九州大、琉球大などに計118人が合格。私立大は、上智大、慶應義塾大、早稲田大、立命館大、関西大などに延べ89人が合格。

VIEW21[高校版] 新しい進路指導のパートナー
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30代教師の情熱 学校を活性化させる『30代』は、何に悩み、何を課題と感じているのか

教科書の外に広がる数学の世界を伝え
学ぶ楽しさを感じさせたい

沖縄県立開邦高校教諭 上江洲寿

初任校から県を代表する進学校に赴任し、「入試突破力を付けることこそ教師の仕事」と
受験指導にまい進してきたという上江洲寿先生。純粋に学びを楽しむ生徒たちとの
出会いをきっかけに、自分の授業を見つめ直し、半年間の研修を経て新たな一歩を踏み出した。

かつての私
素朴な疑問を発する生徒の姿が受験一辺倒の指導を見直す契機に

 母校の沖縄県立開邦高校に赴任して2年目に、1年生から3年間の持ち上がりを経験しました。授業や面談などで生徒たちとかかわる中で、担当教科の数学の指導について、ある問題意識が芽生えてきました。きっかけは生徒からの質問でした。「この定理はいつから使われているんですか」「サイン、コサインは誰がつくったんですか」。私はそうしたことを全く知らず、慌てて調べて次の授業で答えました。以降も、さまざまな生徒から、受験とは関係ないと思われる質問をよく受けました。教科書には定理や公式の説明はあっても、いつ、誰が、どうやってつくったのかは書いてありません。しかし、未知の物事に出合った時には、それが何か知りたいものです。「学び」は純粋な好奇心から生まれるものなのだと、生徒に改めて教えられました。驚いたことに、生徒は「アルキメデスってかっこいい」と自分で調べてみたり、入試には出ないような有名な難問について質問しに来たりしました。そして、難関国立大に次々と合格していったのです。
 私は大学入試に直結する指導こそが最も重要だと思っていました。数学がもう少し出来れば、志望校選択の幅が広がる、また志望校に合格出来るという生徒のために、教科書の知識をしっかり伝え、解き方の指導に執心していました。数学は公式や定理を覚えるだけでなく、使い方が分からないと正解にたどり着けません。図を描いたり数値を置いて情報を整理したりすることは、数学が得意な生徒は自然に出来ても、苦手な生徒はその手立てすら知りません。そこで、解けない問題をどうにかして解けるようにさせたいと、問題への取り組み方を伝える授業をしていました。
 しかし、学問への純粋な興味・関心をぶつけてくる生徒たちと向き合ううちに、教科書にはとどまらない、知識の広がりこそが、受験勉強を乗り越えさせるのではないかと思うようになりました。これにより、入試問題を見る視点も変わりました。難関大の入試問題の中には、数学の歴史的背景や「文化としての数学」を感じられる問題があると気付いたのです。解法を教えるだけでなく、一つの問題から広がっていく世界を伝えることで、生徒の関心を高め、更には教養を深められるのではないかと考え始めたのでした。

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