「データで考える子どもの世界」
第4回学習基本調査報告書・国内調査 小学生版
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第1章 学習基本調査の結果からみえること
 第1節 小学生の学習と学力が変わった

青山学院大学教授 樋田大二郎

 小学生版の学習基本調査の結果は、エキサイティングである。小学生の学習行動と学習意識が格段に向上したのである。調査結果は、文部科学省(以下、文科省)・現場教員をはじめとした教育関係者の教育方針や教育政策の変革、そして創造的な努力が子どもの学習を明確に変化させたことを示しているのである。 これから、子どもたちの学習のエキサイティングな変化を「『確かな学力』は浸透したか」「理数系離れは克服されたか」「家庭学習は向上したか」の3つの観点から紹介したい。

1. 「確かな学力」は浸透したか

 (1)「確かな学力」とは

 今日の学校教育に強く影響している学力観は大きく3つある。
 まず、1970年代の詰め込み主義が落ちこぼれ・少年非行・校内暴力などの教育問題・社会問題を招いたことへの反省から生まれたのが「新しい学力観」(1987年)である。関心・意欲・態度の強調と自ら学ぶ意欲と社会変化に主体的に対応できる能力の強調が特徴である。
 この「新しい学力観」をさらに展開したものが「生きる力」(1996年)である。心の教育や身体の教育にまで踏み込んだのが特徴である。
 これらの学力観は文科省が教育課程審議会や中央教育審議会で提案してきたものであり、まとめて「ゆとり路線」と呼ばれることもある。しかし、文科省の「ゆとり路線」は、大きな障害に出合う。子どもの自主性の過度な尊重による教育指導の後退、および学力低下への懸念である。
 文科省はマスコミをあげての教師批判と学力低下批判の高まりのなかで、「ゆとり路線」を守るために「確かな学力」の学力観を提案した。この「確かな学力」は『学びのすすめ』(2002年)の中で提案され、今、日本の学校教育を方向づけているのはまさにこの学力観である。その特徴は、学力低下批判論者が唱える学問中心主義や勤勉主義を一定程度まで取り込みつつ、「ゆとり路線」の中核にある経験主義や児童中心主義を守ろうとしていることである。いわば新旧両立的ないしは新旧融合的な学力観である(表1-1)

■表1-1 3つの学力観
表1-1 3つの学力観
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