ベネッセ教育総合研究所
特集 教師の「授業力」向上のために
秋田喜代美
秋田喜代美
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〜今泉博先生から学ぶ
いま、教師に求められる二つの授業力


(1)教材を深く解釈する力
 今泉先生の授業法には、いま、多くの教師に不足している二つの力をとらえ直すヒントを発見することができます。
 一つは、教師自身の教材を深く解釈する力です。もちろん、教えるにあたっては指導書もあれば過去の先輩の蓄積もありますから、それに従えば授業を進めていくことはできるでしょう。けれども、生きる力に結びついていくような深い学びを導くためには、単元の系統的なつながりや本質を押さえたカリキュラムをつくる力が必要です。今泉先生は、その点を常に意識されている。この単元で譲れないものはなんなのか? その中核を見極め不要な部分を削っていくから、最も本質的な部分にスパッと切り込む授業が可能になっているわけですね。中核がきっちり押さえられれば、素材も広く日常のなかに求めていくことができるし、脱線してもポイントがぶれない。具体的なある一つの点から問いを立てて世界を見るという授業展開に、なぜ子どもたちが面白く参加できるかといえば、それが教科書による理科・社会科の枠を超え、本物につながっていくという実感があるからでしょう。その意味では、どんな手順で何回発問して…というような指導案にこだわる必要はないのです。
 自在に授業を組み立てる今泉流は高度な技ですが、そこから学ぶべきことは、子どもが出してくる問いに徹底的につきあいながら教材を深めていく姿勢です。素材は、教科書であってもいい。最初は年に一つでもいい。自分ではうまくいかなくても面白いと思う教材を同僚と共有しながら、その可能性に一緒に取り組んでいくのもよいと思います。
 同僚間の見せ合い語り合いのなかで、授業での工夫が具体的に見えてくるでしょう。


(2)子どもの発言を解釈する力
 もう一つは、子どもの声を聴く力。子どもの発言を解釈する力と言い換えてもいいですね。この力があれば、子どもの言葉から背後にある考えを読み取って、教材に結びつけていけるのですが、力が不足していると、「関係ない」と聞き逃してしまう。そういう先生は授業場面でも一問一答で少しでも指導案と違うところがあると切っていきます。本当は、指導案以上に大切な思考や発言が子どもの側から起きている。今泉先生はそこを見逃さないから、子どもが集中を切らさず参加できるのでしょう。
 子どもの声をよく聴ける先生というのは、子どもの言葉を安易に置き換えません。子どもが教師の問いを受けて、子ども自身の言葉で置き換えをしていく。今泉先生が実践されているグループ討議も、それが可能なやり方です。子どもが発言しやすくなるし、思いもかけない多様な意見が出てきます。問いを全員で共有しながら、一緒に授業を練り上げていくことができるのです。
 声を聴くというのは、簡単な実践から始めることができます。私はよく「声のトーンを下げましょう」と言います。教師が一方的にコントロールし、しかも大きな声でしゃべるだけだったら、子どものつぶやきは出なくなる。聴き取ることもできません。また、子どもが発言しやすい環境づくりも必要です。板書ばかりしていないで、例えば子どもと向き合えるよう、机の配置を変えてみる。そうしていくうちに、子どもがハイハイと手を挙げなくても自然につぶやいたり、発言をしたりできる関係ができていくのだと思います。
 子どもの学びが難しくなっているのが現代です。であればこそ、今泉先生が言われるように、子どもから学んで一緒に追究していく授業こそが大切なのだと思います。


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