第4回【識者インタビュー】
子どもの探究力を伸ばすタブレット端末の可能性 〜2つの実験から見えてきたもの〜

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タブレット型端末は、PCに近い機能を持つだけでなく、画面に直接触って手書き感覚で操作できるなどのメリットを持つことから、急速に普及し始めている。連載4回目の今回は、第1回目に登場いただいたNPO法人教育テスト研究センター(CRET)理事の赤堀侃司教授に再度インタビューし、2011年と2012年に赤堀先生が実施した調査から明らかになったタブレット端末の可能性についてうかがった。

プロフィール

赤堀 侃司先生

赤堀 侃司 先生
白鷗大学教授(教育学部長)工学博士 東京工業大学名誉教授

あかほり・かんじ●著書に、「教育工学への招待(ジャストシステム)」、「授業の基礎としてのインストラクショナルデザイン(日本視聴覚教育協会)」、「解決思考で学校が変わる(ぎょうせい)」など、多数。

【要旨】

赤堀教授の研究結果によると、紙・PC・タブレット型端末には、それぞれのメディアの特性によるメリットがあるようだ(表1)。紙は「文章を読みやすい」「学習した実感を持ちやすい」などのメリットがあり、タブレット型端末には「形をイメージしやすい」「写真を思い出しやすい」などのメリットがあった。PCは2つと比べると特徴が少なかった。

知識の活用を重視する新学習指導要領の下では、子どもの発達に合わせ、紙とデジタル機器をブレンドした学習が有効になるだろう。デジタル機器は紙の代替物ではなく、紙の学習を補完するものと考え、教員が活用していく時代だ。

表1 紙・PC・タブレット型端末(iPad)の特性

文章を思い出しやすい、下線を引きやすい、文章を読みやすい、概要がわかりやすい、図形が数えやすい、形がイメージしやすい、疲れにくい、学習したと実感しやすい
PC 図形が数えやすい、形がイメージしやすい、文章入力が速い
iPad 形がイメージしやすい、写真が数えやすい、写真を思い出しやすい、写真のイメージを思い出しやすい、色を思い出しやすい、退屈しない
共通 図形が数えやすい、形がイメージしやすい

学習意欲を伸ばすタブレット端末

赤堀先生が理事を務めるCRETでは、国際化・情報化が進む社会で今後増えると予想されるCBT(コンピュータベースのテスト)の基礎研究を行っている。

2010年頃からPBT(ペーパーベーステスト)とCBT、それぞれの特性を明らかにするための調査を実施。当時から赤堀先生は利用者が対象を操作するために接する部分であるユーザーインターフェイス(UI)の違いに注目し、紙、PC、デジタルペンの3つを用いたテストを比較し、それぞれどのような特徴があるのか研究を進めていた。

だが、これらを比較しても、はっきりとした差異は現れなかったという。そんななか、スマートフォンやタブレット端末といった新しいUIを搭載したデジタル機器が発売され、急速に普及していった。

「タブレット端末は、パソコンと同様に動画や音声を楽しめるだけでなく、手で画面を直接操作できるという特徴を持っているため、PCとは異なる新たな可能性を秘めていると感じていました。そこで、2011年9月に京セラコミュニケーションシステムと共同で『紙とPCおよびiPadの特性比較について』という調査を行いました」

実験ではタブレット端末を使用したデジタル教科書、PCを使用したデジタル教科書、そして紙の教科書と異なる特性を持つ3つの教科書を用意。大学生60名を3つのグループに分け、3つの教科書のうち1つを与えて学習させた。その後、内容の理解度を測るテストを実施し、学習効果を比較する調査も行った。教科書の内容は3つとも同じだが、タブレット端末とPCを使用したデジタル教科書では音声や動画が見られるのが特徴だ。

その結果、紙を使った学習では、基礎的な問題を記憶したりする面で優位性を見ることができた。一方、タブレット端末を使った学習は、発展的に考えたり、自分の意見を表現したりする面で優位であることが明らかになった。興味深いのは、タブレット端末とPCは、音声や動画が見られるなど情報量は同じだが、タブレット端末の方が記述問題や応用問題の点数が高かったということだ。

「PCとタブレット端末、この2つのデジタル機器の情報量に違いはないはずなのに、テストの総合得点にも差がありました。しかし、どうしてこのような差があるのかはこの調査だけではわかりませんでした。やはり『ユーザーインターフェイスの違いが学習効果に影響を与える』という思いが強くなり、さらに詳しく調査するため2012年10月と11月、『学習教材のデバイスとしてのiPad・紙・PCの特性比較』という実験を行いました」(表2)

表2.  学習教材のデバイスとしてのiPad・紙・PCの特性比較(有意差検定)

学習教材のデバイスとしてのiPad・紙・PCの特性比
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調査では、それぞれ大学生60名と中学生60名に、iPad・紙・PCそれぞれのメディアを使って、文章・図形・写真の記憶テストを行わせた。その結果、表のような結果が明らかになった。

紙は「文章を思い出しやすい」「下線を引きやすい」「文章を読みやすい」「学習したと実感しやすい」などの優位性を見ることができた。一方、iPadは、「形がイメージしやすい」「写真を思い出しやすい」などの優位性があった。PCは特に大学生において「入力しやすい」というメリットはあるものの、他の2つより特徴が少なかった。

「今回の調査結果から、知識を問うような言語系の問題には紙のテストに優位性があることが明らかになりました(調査結果は後日CRETもしくはベネッセ教育総合研究所サイトにて発表予定)。また、写真や図などの非言語系の問題にはタブレット端末が優位であることが明らかになった。そして、iPadはPCよりも写真や図形を記憶したり、分析したりするのに適したメディアであることがわかったのです。2011年の調査結果に差がついたのも、こうした点が影響していると考えられます」

そして、赤堀先生が注目すべき点として挙げるのは、2012年の調査ではタブレット端末は「飽きにくい」と答えた人が紙やPCよりも多かったことだ。

2011年の調査でもテストとは別に実施したアンケートにおいて、タブレット端末を使用したテストを「もう一度やりたい」と答えた人が一番多かった。テストというとネガティブな印象をもつ学生・生徒が多いはずであるが、タブレット端末を使用したテストでは、クリックしたら映像や音声が流れたりするなど情報量は紙よりも多く、またPCよりも直感的に簡単に操作できることから、こうした調査結果がでたのではないかと考えられる。

「子どもにとってタブレット端末は、PCよりも自分が動かしているという当事者性が強く、本能的に学びたくなる仕組みになっているのだと思います。タブレット端末を用いた学習は、与えられた情報以外のことも『もっと知りたい』という気持ちにさせ、子どもの創造性を高めることができるメディアだと考えられます。探究という学習に非常に適しているのではないでしょうか」

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発達段階に合わせたブレンド学習を

新学習指導要領では、知識や技能を活用する力を重視しているため、子どもの探究心を伸ばすデジタル機器を使った学習が有効に働く場面が増えるだろう。効果的に活用していくには、赤堀先生は子どもの発達段階に合わせて取り入れることが重要だと語る。

「大学生になれば講義やテストで単に知識量を測る場面は少なくなり、『あなたの考えは?』と問われる機会が多くなるため、自分の意見を表現したりするのに適しているiPadのようなタブレット端末がより効果的に作用すると考えられます。日本の大学でも近い将来、1人1台タブレット端末を持って講義に参加する時代が来るのではないでしょうか。

現在、国際会議の場でも紙の資料は配られず、パソコンに資料がPDFで配付される時代です。子どもたちが将来、社会に出たときには、紙を使用する場面はかなり少なくなっているかもしれません。そうした社会の進展に合わせて、小学生の頃からデジタル機器に親しんでおく必要があると思います。

PISAでも知識や技能だけでなく、それらを活用した思考力や判断力、表現力などを測定しており、小さいうちからデジタルメディアに親しむことで、主体的に学びに向かう姿勢を養成しておく必要があるでしょう。

だからといって小学生にタブレット端末のみを使用した学習が有効であるというわけではありません。小学校時代は、知識をしっかり定着させる大事な時期です。デジタル機器を用いた学習と合わせて、従来のように紙を使って、計算や漢字の書き取りの学習をさせる必要があるでしょう」

今回の実験では、文章、図形、写真の記憶に関しての調査であり、理解や表現についての研究も進める必要があるという。今、学校現場で求められている思考力、表現力、判断力を養成するにはどのようなデバイスの組み合わせが効果的なのか、赤堀先生はその指針となる研究をしていく予定だという。

また、子どもたちの学習意欲を伸ばしたり、学習習慣を身につけさせたりするためには、記憶や理解をするためにメディアがどのような影響を与えるか研究する、いわば正攻法の認知研究だけでは答えが出ないと赤堀先生は話す。現在の子どもたちは、インターネットの中でアバターを作り、自分のアイデンティティーを確立するような時代にいる。例えば、子どもたちがワクワクして学習したくなるには、子どもたちの感情を動かすことが必要だという。

赤堀先生の研究室でも、デジタル教科書にマンガを利用するとどのような効果があるかを研究中だ。例えば、数学の苦手な女子大生のために、恋愛ストーリー仕立てのマンガを教科書に取り込むことで学習効果を高められるか、という実験などを行っている。デジタル機器の進化により、紙教材にはなかった学びの可能性が広がっている。

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デジタル機器の発達に合わせ、教育にも進化が必要

タブレット端末の登場は、学習環境に革命を起こしたと言える。例えば小学生の理科の授業では太陽の動きや月の動きを動画で見せることができるなど、紙教材では伝えられないリアルな情報を手軽に伝えられるメリットがある。今回の赤堀先生の調査からは、そのメリットに加えて、タブレット端末がさまざまなアイデアを生み出すのに優れたメディアであり、子どもの学習意欲を高める可能性も持っていることが明らかになった。

「タブレット端末は紙の代替物と考えるのではなく、紙の学習を補完するものだと考えてほしいと思います。デジタル機器と紙、それぞれのメリットを子どもたちが享受できるように、われわれ教員は両者をブレンドした学習をデザインしていくべきだと思います」

もちろん新しいメディアには、プラスの面だけでなくマイナス面もあるだろう。ただ、教育現場においてもデジタル機器のもつ可能性を無視できない時代が到来している。そうしたデジタル機器の可能性を示す興味深い実験結果を赤堀先生が紹介してくれた。

「昨年、日本LD学会の研究会に参加しました。学習障害児を対象とした調査において、教師に『勉強しなさい』と言われても学習意欲は高まらないが、携帯ゲーム機やタブレット端末を使った場合に学習意欲が高まるという調査結果が発表されたのです。

これまで、教育というのは古代ギリシャで哲学が生まれた頃から、人間が主体のものとされてきました。グーテンベルクが活版印刷機を発明し、新しい思想を多くの人に伝えることが可能になり、やがてその新しい波は宗教改革となり、社会を変えたのです。ただ、聖書を大量印刷できるようになり文字の時代へと変化しても、教会がなくなることはありませんでした。

なぜなら人間のすぐれた知恵や人格は、教育において要だとされていたからです。今後も人が伝える教育はなくならないですが、タブレット端末の出現によりデジタル機器が子どもたちのやる気を喚起することがあるということが起こっています。人間にしかできない教育はもちろんありますが、リアルな情報を手軽に伝えられるなどデジタル機器にしかできないこともあるのです。

アセスメントは必要ですが、タブレット端末をはじめとするデジタル機器をわれわれ教員が活用していく時代であるのは間違いありません。デジタル機器を学習に取り入れても子どもたちが健全な発達ができるように、今後も研究を続けていきたいと思います」 。[END]

2013年1月25日 掲載

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