「データで考える子どもの世界」

第3回【識者寄稿】 小学校高学年から中学校への移行期において、
子どもの学びにとってのよい親子関係とは

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寄稿者プロフィール

齊藤誠一先生

齊藤 誠一 先生
神戸大学大学院人間発達環境学研究科准教授

さいとう・せいいち●1985年筑波大学大学院博士課程中退。現在、神戸大学准教授をしながら、小中学校のスクールカウンセラーの仕事なども行って いる。著書に『青年期の人間関係』(培風館)、『青年の心理学』(共著、有斐閣)、『中学一年生の心理』『中学二年生の心理』(共著、大日本図書)など。

【要旨】

小学校高学年から中学に入る時期、子どもの心と体には大きな変化が起こり、自身と向き合い始める。その結果、周囲に反抗的になることや理由も無く親と反目することもある。それに対して保護者と教師はどのように接すべきか。小中一貫校も増える中、向き合わなければならない事柄も多い。全く反抗が無ければよいわけではなく、新しい親子関係や友人関係の構築なども必要な時期である。保護者も困った時には一人で抱え込まず、周囲の専門家に頼ることも選択肢の1つ。教師も保護者と同じ目線で子どもに向き合い、三者の信頼関係を築いていくことが大切。

1.この時期はどういった時期なのか

(1)体が大人になる

この小学校高学年から中学生にかけての時期はちょうど思春期にあたり、子どもの体から大人の体に変化するときです。体の変化には、体つきが大きくなる形態発育と、初経や精通といった性的成熟の二つの側面があります。いずれもこれまでにない急激で大きな変化といえます。

形態発育では、男女とも小学校高学年から中学生にかけて身長の急激な伸びがみられ、このころには母親の身長を越える子どももみられます。こうした変化は思春期のスパートとなど呼ばれ、女子の方が男子より2年程度早く始まるとされています。

また、女子の初経は小学校高学年くらいに起こり、6年生までに60%程度に生じ、男子の精通はそれよりも遅く、過半数の者が経験するのが中学2年ごろといわれています。

こうした体の変化は子どもに対していろいろな影響を与えることになりますが、とくに親子関係にはどのような影響を与えるのでしょうか。

たとえば、背の高さが保護者のそれに近づいたり、越えたりすることは、中学生に「保護者に力で負けることはない」というある種の対等感を与えることになります。また、初経や精通により自分がもう子どもではない、あるいは大人の仲間入りをしたという感覚を持ったり、保護者にもあまり知られたくない性という秘密を持ったりすることにもなります。

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(2)知的にも情緒的にも大人になる

もう一つの特徴は、ピアジェのいう具体的操作期から形式的操作期への移行です。

たとえば、算数の文章題にあるように、ミカンやリンゴを用いた過不足算ではミカンやリンゴの絵を描いたり、線分図を描いたりして解いたのですが、中学生になるとミカンやリンゴはなくなり、xやyを使った方程式で解くことになります。つまり、具体的な物がなくても論理的に考えることができるようになります。

また、国語の読み物でも、読書でも、小学校低学年のころは「おもしろかった」という感想が多かったのですが、この時期になると喜怒哀楽のいろいろな感情を表現できるようになったり、自分の気持ちだけでなく、相手の気持ちも理解できるようになったりします。

こうした意味では、自分や相手の気持ちをより適切に感じ、表現できるようになってくるといえます。

(3)自分に気づくようになる

先に挙げた思春期の変化により、これまでとはちがった自分の体に注目し、これまで気づかなかった自分という存在を意識し、自分が今何を思い、何を感じているかということに関心が向くようになります。これが自分への気づきであり、「自我の覚醒」とか「自我の発見」と呼ばれ、この時期の大きな特徴といえます。

たとえば、小学校低学年のころの日記は、遊園地やプールに行って楽しかったといったような内容でしたが、思春期になると、ある出来事について自分はこう思ったとかこう感じたといったように、自分の心の表現が増え、日記は人に見せるものではなく、自分との対話の道具になっていきます。

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2.親子関係はどう変わるのか

(1)第2反抗期とは何か

先で述べましたように、思春期の変化は子どもに、保護者とは異なる一人の存在であるという意識を生むことになり、保護者の言うことに対しても矛盾や不合理さを感じるようになります。

たとえば、「1日2時間は勉強しなさい」と言っても、「なぜ勉強しなくてはいけないの?」「2時間って誰が決めたの?」と答えることや、「お母さんは人にウソはついてはいけないというのに、なぜお父さんにウソをついたの?」と言うこともあるかもしれません。

また、「今日学校で何があったの?」と聞いても、「別に」とか「お母さんには関係ないじゃない」と答えたり、無視したりするかもしれません。あるいは、訳もなく不機嫌になったり、思い通りにならないと物に当たったりするかもしれません。

こうしたことが起きる時期を、心理学では第2反抗期と呼び、思春期において保護者や教師などの大人との関係の中で生じる特徴とされてきました。

ベネッセ教育情報サイト(URL:http://benesse.jp/)の教育相談室にも反抗期をめぐるいろいろな悩みや訴えが寄せられており、今でもこの時期の子どもを持つ保護者には大変なことかもしれません。

(2)第2反抗期はなくなったのか

ところで、一方では、近年第2反抗期がなくなったといわれることもありますが、これに関連してベネッセ教育総合研究所が行った「第2回子ども生活実態基本調査」をみてみましょう。

たとえば2009年の中学生の結果をみると、学校でのできごとを「よく/ときどき」話をする割合が母親に対しては73.8%、父親に対しても38.7%となっており(図1)、「勉強を教えてくれる」割合や「困ったときに相談にのってくれる」割合もそれぞれ41.8%、48.1%となっており(図2)、反抗期というよりは良好な親子関係がみえてきます。

図1.  保護者に話をすること(小中高生)

保護者に話をすること(小中高生

※ 出典:ベネッセ教育総合研究所「第2回子ども生活実態基本調査」(2009年)

図2.  保護者との関係(小中高生)

保護者との関係(小中高生)

※ 出典:ベネッセ教育総合研究所「第2回子ども生活実態基本調査」(2009年)

こうしたことからみてみると、個々の保護者の中には反抗期に対する悩みを持っている者もいるものの、全般的には穏やかな親子関係にあるといっていいかもしれませんが、先の教育相談室の訴えをみる限り、決して穏やかな関係だけではないようです。

つまり、全体的には穏やかな親子関係ではあるけれど、時と場合によって第2反抗期の様相をみせているといえるかもしれません。

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(3)お母さんやお父さんの思春期はどのような親子関係だったのか

他方、今の親子関係を考えるとき、今の母親・父親世代が思春期にどのような親子関係を経験したかが参考になるかもしれません。

今の中学生の母親・父親の年齢を40歳前後とすると、思春期であったころは今から25〜30年前になります。その前後にベネッセが行った調査結果が、「モノグラフ・中学生の世界 vol.19中学生の親子関係〜依存と自立の谷間で〜」(1985年)にあります。

たとえば、中学生が両親と「よく/ときどき」話をしている割合は母親に対しては71.9%、父親に対して43.6% 、両親と「とても/かなり」うまくいっている割合は、母親とは64.1%、父親とは54.5%となっており、ここでも良好な関係を読み取ることができます。

ただ、この1985年はいじめ件数が小学校で約96,000件、中学校で約53,000件にのぼり(文部科学省教育課程審議会「生徒指導上の諸問題の現状について」、2000年)、必ずしも良好な教育状況であったとはいえない時期でした。

このようにみてみますと、少なくとも今の母親・父親世代は中学生のころはあまり望ましいといえない教育状況の中で学校に通い、家では比較的理解ある両親のもとで生活していたものと考えられます。

また、『モノグラフ』のデータに戻ると、中学生になってからの両親の接し方についても、「とても/わりと」口やかましくなった、きびしくなったとする割合はそれぞれ41.0%、40.7%であり、約6割は必ずしもあまりうるさく接してくるようになった訳ではないようです。

こうした点からみると、今の母親・父親世代も、思春期には比較的穏やかな親子関係を経験していたことが推測することができます。

(4)第2反抗期はいらないのか?

心理学では、第2反抗期を親離れである「心理的離乳」へ向かう契機としています。この時期を通して、これまでのような保護者と一体化した状態から、「自分はもう子どもではないのだから、保護者の言いなりばかりにはならない」という、保護者とは独立した存在になろうとします。

しかし、いざ保護者から離れたもののまだ一人の大人として認められる訳でもなく、大人でも子どもでもない「境界人」と呼ばれる不安定な状況に置かれることになります。

このときに必要になってくるのが、心を打ち明けられる友人の存在です。つまり、第2反抗期はただ子どもが保護者に反抗するだけでなく、子どもにとってはより親密な友人関係を形成する機会になります。

また、保護者の立場からみれば子離れの時期でもあり、子どもとの新たな関係づくりや配偶者との関係の見直しの契機にもなるといえます。

こうした点からみると、第2反抗期は子どもの発達に伴って当然生じるものであり、とりわけ親密な友人関係の形成や新たな親子関係の形成にとって重要な意義があると考えることができます。

もし表面的には反抗のない良好な親子関係が続くとすれば、子どもにとってはこうした友人関係をつくる機会を失わせることになるかもしれません。

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3.適切な親子関係を築くために

(1)保護者としてどうすればよいのか

では、この時期、保護者は子どもにとってどういう存在になればよいのでしょうか。これまでのように口うるさく言っても反抗されたり、無視されたりして、不愉快になるだけかもしれません。

ただ、子どもにとって反抗はしても保護者は保護者であることには変わりなく、衣食住の生活基盤とともに、子どもの心を支えてくれる重要な存在であり続けることになります。具体的な心構えとして以下の点を提案したいと思います。

@ 反抗期を主体的に受け止める:

これまでにも述べてきましたように、反抗期を迎えることは発達的には当然のことですので、かりに子どもがこれまでとはちがった態度をみせるようになったとしても、まずはそれを受け止めたいと思います。

急に、言葉遣いが悪くなったり、イライラしたりしている様子をみると、何とかしないといけないと思い、ついつい子どもの機嫌をとってしまうかもしれません。

また、先のアンケートにもあるように、今の保護者世代があまり反抗期を経験していないかもしれませんので、どう対処していいか不安になるかもしれません。

ただ、ここでは子どもの反抗をきちんと受け止め、子どもに対して腹を立てたり、悲しくなったりするなどマイナスの感情をも経験することが大切なことかと思います。

今の子どもだけでなく、今の大人もこうしたマイナスの感情を経験することが少なくなっていますが、この感情を持つからこそ、どうすればよいかを考えられるともいえましょう。

A 無理に自分一人で解決しようとしない:

子どもとの関係を改善しようと思い、いろいろと試みることも多いのですが、必ずしもうまくいく訳ではありませんので、一人だけで頑張ろうとせず、配偶者、教師、スクールカウンセラーなど自分が信頼できる方に相談していただきたいと思います。

保護者といえども、すべてを解決できる訳ではありませんので、ときには弱音や愚痴を吐き、相談にのってもらえる存在を持つことが必要かと思われます。

この中でもとくに大事なことは配偶者からの援助であり、家族の一員として、たとえば困っている母親を援助し、子どもと母親と異なる側面から接するなどすることにより、これまで母親ばかりに比重がかかっていた子どもとの関係も、父親が入ることにより、新たなバランスをとることになると思います。

このことは当事者の子どもや母親にとっても重要なことと思われます。

B 子どもを背景として支える:

子どもとしても保護者には反抗するものの、決して一人で何でも解決できる訳ではありませんが、これまでのように正面から保護者に助けを求めることもできません。

もし子どもが何かを話そうとしたときには、保護者としてまず子どもの言うことを聞いていただきたいと思います。

もしかすると、テレビ番組やゲームの話であったり、自分ではなく友だちの困りごとであったりするかもしれませんが、途中で口を挟まず、最後まで話を聞いてください。

たとえ直接的に問題の解決にはならなくても、自分の話を聞いてくれる存在があること、心が弱ったときに無条件に寄り添ってもらえる存在があることが子どもにとっては重要なのです。

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(2)親子関係は子どもの学びに関係するのだろうか

このようにみてきますと、確かに思春期の親子関係は人間関係の新た展開にとって重要であることは理解していただけるかと思いますが、それではこうしたことは子どもの学びにはどのような影響を与えるのでしょうか。

残念ながら、反抗期のありようが学業成績と関係があるといった研究結果は見当たりません。それでしたら反抗のない平穏な関係の方が学習を進めていくことになるのでしょうか。

子どもの学びはなかなか主体的には行われず、保護者や教師からの賞賛や期待が動機になることも少なくありません。そうした意味では、「なぜ勉強はしなくてはならないのだろうか」「今の勉強が将来どんな意味を持つのだろうか」といった疑問は、この時期の子どもからよく出されるといえます。

確かにこれには勉強をしたくないというメッセージも含まれているかもしれませんが、疑問を持つことによって勉強に対する自分のなりの意味づけをしようとしているのかもしれません。

たとえば、こうした疑問に対して、「そんなことを言っている暇があったら勉強しなさい」と答えるだけでなく、保護者もその疑問に向き合い、保護者なりの考えを示し、議論することも重要かと思います。ここでは模範解答は必要なく、たとえ保護者と子どもの意見が異なっても、そうした議論の中で子どもが自分なりの答えを見つけられることが、学習を主体的に進めていける一歩になるかもしれません。

また、子どもの学びの中心は学校でなされますが、学校生活は学習活動だけでなく、友人や先生との関係などストレスに満ちています。

たとえば、学校で友人とケンカして帰宅した子どもにとっては、保護者がそばにいてくれるだけでもずいぶん心が和らぐかもしれません。ましてやいじめなど学校で心が折れるような状況にある子どもにとっては、家庭は一番安心できるところであり、そこに保護者がいてくれることで孤立せずに、何とか心の健康を保っているかもしれません。

思春期の子どもは親離れはしたものの、あるいは反抗期にいるからこそ、最後の安全基地として保護者の存在は大きく、学びを支える基礎といえましょう。

(3)教師はどうすべきか

最後に教師の役割について述べることにします。実は、反抗は保護者だけに向けられるのではなく、教師にも向けられることになります。とりわけ、小学校高学年や中学生と関わる教師は、保護者と同じような経験をしているはずですが、教師には反抗期にある子どもに対するだけではなく、その保護者に対する対応も求められるといえます。

まず、前者については保護者が子どもの反抗を受け止めるのと同じように受け止めてほしいと思います。保護者とうまくいっていないことが教師との関係の中で生じることもありますので、教師が子どもの反抗を受け止めることが間接的に保護者を援助していることになります。たとえば保護者が厳しすぎる場合には、本来保護者に向ける感情を教師に向けることもあるといえます。

 また、保護者が相談に来られたときには、子どもと向きあう者同士として接してほしいと思います。子どもの反抗行動を家庭でのしつけの問題にしても何の解決にもならないどころか、保護者からの信頼を得ることも難しいかと思います。

また、子どもの学校での行動について保護者に相談する場合についても、保護者に責任を求めるのではなく、「子どもの成長のために一緒に関わっていきましょう」という姿勢が大切かと思います。

[END]

2013年4月12日 掲載

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東大との研究プロジェクト 東京大学社会科学研究所・ベネッセ教育総合研究所共同研究「子どもの生活と学びに関する親子調査2017」子どもたちの人間関係

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