教育フォーカス

【特集11】ベネッセ・OECD共同研究プロジェクト

 シンポジウム開催報告 【第二部】ディスカッション

  パネルディスカッション

日本における社会情動的スキル育成の実態は?

秋田喜代美氏

秋田喜代美氏(コーディネーター): 第1部の、世界における社会情動的スキル研究についての報告を受けて、第2部では、具体的に日本ではこのスキルをどうとらえ、また伸ばすためにどのような取り組みが必要かを考えます。

日本では従来、社会情動的スキルが、生きる力や「心情・意欲・態度」などの非認知的スキルとして特に乳幼児の保育・教育の中で重視されてきましたが、現代社会において、このスキルの指示するものや意味は変わってきています。知識社会における知のイノベーション、グローバル化など、異質な人の中で幸せに、健康に暮らすためのスキルが求められています。幼稚園、保育所、認定こども園などと保護者が、いかに協力して子どもの社会情動的スキルを育成できるのかについても考えてみたいと思います。

高岡純子氏

高岡純子氏: ベネッセ教育総合研究所では「幼児期から小学1年生の家庭教育調査・縦断調査」を行いました。この調査の実施にあたり、小学校以降の学習や生活に適応するために幼児期に求められる学びとして、生活習慣、文字・数・思考、そして社会情動的スキルと重なるところが大きい「学びに向かう力」という3つの軸を設定しました。

調査で明らかになったことは、

  • 1.3歳児の段階で基本的な生活習慣が身についていることが、それ以降の育ちに非常に大切であること。
  • 2.小学校以降の学習の土台となる、文字・数・思考の力は、その前提に学びに向かう力の育ちがあり、幼児期での育成(特に保護者の養育態度)が重要であること。
  • 3.保護者の働きかけでは、知的なやりとり遊び(絵本の読み聞かせ、一緒に数を数えるなど)をよくするほうが5歳児の学びに向かう力が高い。

以上を受け、今後は子どもの意欲を尊重するような保護者の養育態度をいかに引き出せるか、幼児教育と小学校以降の教育のスムーズな接続のために、どのようにエビデンスに基づいた幼児教育ができるか、そのための研究をどう蓄積するかが課題としてあげられます。

大豆生田啓友氏

大豆生田啓友氏: 私からは社会情動的スキルを育成するための、日本での具体的な実践を紹介します。日本の保育は、幼稚園教育要領や保育所保育指針などの中で、子どもの遊びや「心情・意欲・態度」を重視していることからも、社会情動的な側面を重視してきたという特徴があります。東京大学名誉教授の佐伯胖氏は学びのドーナッツ論で、子どもが文字や数など見知らぬ文化などを学んでいくプロセスにおいて、人や物との二人称的な関係が大切であると述べています。ここからも、認知的側面は、社会情動的な側面と不可分と考えられます。

具体的な実践をご紹介します。ある園では、子どもたちが庭の植物と水を空容器に入れて香水を作ろうとしたところ、数日後に悪臭が発生。びっくりした子どもたちはそこから、どうしたらよい香りの香水ができるのか、保護者や地域の人を巻き込んで探究や学びが広がっていきました。社会情動的な側面の発達には、このように子どもが主体となった協同的な活動が生まれてくるような取り組みが大事になります。

無藤隆氏

無藤隆氏: ここでは、21世紀型学力につながる幼児教育・保育で学びに向かう力を育てるために、主に幼児期に育成すべき資質・能力を提案します。まずは、自己肯定感、これは根底的な安定感でもあります。次に認知面の育成です。幼児教育では言葉で表現することを重視し、小学校以降ではそれを書くことで表現することにつなげることを意識して教えます。それにより、学習を自覚し、目的をもって学ぶ、つまり社会情動的スキルと認知スキルとの統合につながります。最後に、協同的なあり方を学ぶ、これは、仲良くするだけではなく、異質な他者との協働につながる大切なことです。

子どもの情意の発達についてですが、感情から意思が生まれてきます。感情は、ほぼ乳幼児期の気質がベースですが、幼児教育によって、意思、つまり自ら目的に向かう力に変えることができます。体験的な活動が重要で、幼児教育の現場はそれが特にできる場であることを覚えておきたいと思います。

宮本晃司氏

宮本晃司氏: 私自身、7歳の双子、3歳の3人の子どもの父親ですが、育児の中で感じることは、「社会情動的スキルを育てよう」と意識するのではなく、もっと子どもとの時間を親が楽しむことが大切なのではないかということです。共に楽しく過ごす時間の積み重ねこそが、社会情動的スキルの育成につながるのではと思っています。

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