教育フォーカス

【特集12】ICTメディアで変わる中高生の生活世界

[第2回] 二つの時間を過ごし分ける――少年少女の「社会」変容 [1/4]

中西新太郎先生

中西 新太郎●なかにし しんたろう

1948年生まれ。鹿児島大学教育学部勤務を経て、1990年~2014年、横浜市立大学勤務。現在、横浜市立大学名誉教授
専攻領域は現代日本社会論、文化社会学で、とりわけ青少年の社会化過程に深く関わる青少年文化の特質、青少年支援のあり方等に関心を寄せる。主な編著書として、『「問題」としての青少年』、『シャカイ系の想像力』、『ノンエリート青年の社会空間』(編著)、『人が人のなかで生きてゆくこと 社会をひらく「ケア」の視点から』等がある。

1.増えるインターネット利用時間

毎日学校生活を送りながら、2時間以上ネット、メールを利用する中高校生がざっと5割。休日では、3時間以上が5割を占め、3人に1人は4、5時間をネット、メールで過ごす1)。ケータイ、スマホの利用時間に関する他の調査結果をみても、毎日数時間をネット、メール利用に充てる生活が思春期の少年少女にとってごく普通となったことがわかる。限られた生活時間内でどうやりくりしているか、勉強時間とどう折り合いをつけているか、といった点が大人の眼からは気になる。ネット、メールを「勉強中は使わない」と回答した高校生4割弱、中学生5割という結果に危惧を感じる向きもあろう。ネット、メールの利用時間と成績とは相関関係があるという今回のデータから、「やはり」と感じる保護者がいるはずだ。また、「スマホ依存」に不安を抱く議論も多い。

単純に考えれば、利用時間の増加が子どもたちの生活を窮屈にするという予測がすぐに出てくるが、では、ネット、メールを利用しない分、リアル社会での活動が増すかというと、一概にそうは言えない。たとえば、休日でもメール、チャット、ツイッター、SNSをしない中学生(712人)の内、友だちと外出しないと回答した人は14.2%と、かなりの割合で、「あまり外出しない」34.2%を加えると、メールなどを使わない中学生の半分は友だちづきあいが少ない。5時間を超えるヘビーユーザーの47.2%が「よく出かける」と答えており、LINEやツイッターを活発に利用する中学生ほど、友だちづきあいも盛んなのである。ネットに時間を取られると現実の人間関係が狭くなるとは言えない。ネット上で知り合った人がいる中学生がほぼ4人に1人、高校生が3人に1人という結果から、ネット利用がリアル社会での人間関係をかなりの程度で広げていることを確認できる。ネットから情報を得る、聞きたい曲をダウンロードするといった使い方が勉強に役立つ、気分をリフレッシュするのに良いということもあるだろう。利用時間の増加という一般的傾向に反映された中高校生のICT利用の具体相に分け入ると、ネットの世界との、一律にとらえることのできないかかわり方が見えてくる。日々の生活でネット、メールをどう使い、位置づけているかによって、生活世界の組み立て方、さらに言えば、中高校生にとっての「社会」のつくり方が変わる、ということである。携帯電話またはスマートフォン利用者のうち2)、ケータイ、スマホがないと「とても困る」「生活できないくらい困る」中高校生3割という結果が示すのは、生活道具として必須というだけでなく、生活を組み立てる環境(アーキテクチャー)としてICTが機能していること、彼らにとっての「社会」がICTなしでは難しいと感じられていることを示唆していよう。フリーアンサーに見られる、「生活できないくらいに困る」一番の理由は、友人から切り離される孤立への恐れであるから、この場合、友人関係の世界がケータイ、スマホをインフラとしていることがわかる。そこまで生活をケータイ、スマホに「頼る」感覚は少数(5%)だが、3割の中高校生にとっての「社会」は、こうした感覚を生むほどにケータイ、スマホの位置づけが高い。

1)・調査結果は、ベネッセ教育総合研究所「中高生のICT利用実態調査2014」より。以下全て。

  ・値は、インターネット利用者に占める割合。「インターネット利用者」は、ふだんのインターネットの利用有無をたずねた質問に対し、「使っている」「ときどき使っている」と回答した人。中学生は回答者全体の87.3%(2,796名)、高校生が96.9%(6,070名)にあたる。本文中で「ネット利用者」とある場合は全て同じ。

2)「携帯電話またはスマートフォン利用者」はそれらを使ってふだんネットにアクセスしている人。中学生の回答者全体の49.1%(1,573名)、高校生は92.8%(5,750名)にあたる。

2.リアル社会とネット社会

思春期少年少女による「社会」のつくり方に焦点を当てると、ICTを「利用する」という言い方では抜け落ちることがあるように思われる。利用する主体である子どもたちは一つの社会、一つの現実世界にいて、ケータイやスマホを利用しているというとらえ方なので、視点が固定されてしまうのである。そうではなく、仮に、ネットをもう一つの社会ととらえるとどうなるか。

現実社会(リアル社会と呼んでおく)とネット社会という二つの社会領域があり、それぞれの社会にどうかかわるか、二つの関係はどうなっているか、といったことが問題になるだろう。社会とは何かという実は厄介な問いをスルーして、日常生活全般を一つの社会(リアル社会)にまとめて考えるのが普通の思考法で、その思考法に囚われるとICTがもたらした社会変容をつかまえきれない。そこで、ネット社会を想定してみよう、ということだ。

そこで生きる基礎環境がネットであるような社会を想定してみることは、方法論として意味がある。リアル社会と同じように出現している種々の事件(詐欺、ストーカー、いじめ…)を、ネット社会の社会現象、社会病理ととらえ検討できること、ネット社会の「社会常識」を考えられること、ネット社会にできる「公共」の特徴を追求できること……要するに、社会と考えることで、社会構造の特徴やそこでの行動の意味、リアル社会との共通性と差異、二つの社会を重ねる、つなげる、過ごし分けるといった「操作」の特徴等を発見できる可能性が広がるのである。

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