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教育フォーカス

【特集14】「問いのデザイン」でアクティブ・ラーニングの「種」を育てる

【導入編:1】課題提起 [1/4]

塩瀬隆之先生

塩瀬 隆之●しおせ たかゆき

京都大学大学院工学研究科博士前期課程修了。博士(工学)
京都大学情報学研究科助教などを経て、2012年7月から2年間、経済産業省産業技術政策課技術戦略担当の課長補佐に従事。
2014年7月復職。小中高におけるキャリア教育、企業におけるイノベータ―育成研修など講演多数。

次期学習指導要領の改訂で注目されている「アクティブ・ラーニング」ですが、その言葉自体は徐々に浸透してきているものの、アクティブ・ラーニングに疑問や不安を抱いている教員も少なくないようです。そこで、京都大学の塩瀬隆之准教授に企画とファシリテーターの協力をお願いし、全校を挙げてアクティブ・ラーニングを推進しようとしている、京都市のノートルダム女学院中学高等学校で、アクティブ・ラーニングの校内研修を実施。後日、塩瀬准教授に研修の振り返りとアクティブ・ラーニングを浸透、定着させていく上での導入時のポイントをうかがいました。

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教科学習の通常授業でアクティブ・ラーニングを定着させるポイントとは?

Ⅰ.アクティブ・ラーニングとは何か? 
― 子どもが考える時間を授業の中で増やしていく ―

私は、小学校、中学校、高校で、児童生徒や教員を対象に、キャリア教育をテーマにした講演会や研修会の講師を行っていますが、昨年ごろからアクティブ・ラーニングをテーマとした研修会の依頼が増えています。中央教育審議会での次期学習指導要領改訂の議論ではアクティブ・ラーニングの必要性が強く訴えられていることから、学校現場でも関心が高まってきているからでしょう。ところが、「アクティブ・ラーニング」という言葉ばかりが先行して広まっていて、戸惑いや不安、疑問を感じている先生方も少なくないようです。

アクティブ・ラーニングというと、何か新しい指導方法を取り入れなければならないのかと身構える先生もいらっしゃいますが、平たくいえば、「子どもが考える活動」となります。小学校、中学校、高校、そして大学とどの学校段階でも、これまでは、子どもが教員の話を聞いて知識・技能を習得する形式の授業が中心だったと思います。しかし、今後、ますます進展していく情報化社会、グローバル社会を生きていくためには、思考力や判断力、表現力、そして主体性や協働性などが一層重要になることから、それらの力を育む活動として、子どもが自ら考える、"アクティブ"な学びを増やしていこうとしているのです。そのように考えると、子どもがすべき本来の学びの姿に戻るといえるのではないでしょうか。

確かに、授業では先生が話している時間が多いかもしれませんが、子どもたちが学習内容に興味を持つように、考える場面を設けることがあると思います。また、学級会や学校行事では、子どもが主体となって進める活動を数多くされていることでしょう。アクティブ・ラーニングが子どもの成長を促すことは、大半の先生は知っています。では、なぜ授業ではあまり浸透しないのでしょうか。

アクティブ・ラーニングの実施を勧めようとすると、「基礎知識がないと考えることもままならない。学力が低い子どもにはアクティブ・ラーニングはできないのではないか」という意見が出てきます。一方、「学力が高い子どもは、高校入試や大学入試のために学習すべきことがたくさんある。だから、時間がかかるアクティブ・ラーニングはできない」という意見もあります。果たして、本当にそうなのでしょうか。

私が大学で教えていて感じるのは、知識が豊富であっても、考えることが求められる課題に直面すると、思考が停止してしまう学生の多さです。土台となる基礎知識があれば探究も深められるというのは誤解であり、好奇心や発見する力、考える力がなければ、自らが深めていくことは期待できないのです。

例えば、小学校低学年の子どもたちは、海や山に行くと、そこで遊びながらいろいろな発見をし、保護者や教員が驚くほどに好奇心を広げていき、どんどん学ぼうとします。どのような学力の子どもでも、自ら発見し、考えることができ、それらは必要な学びなのです。

考えることで知識と知識が結びつけば、それは活用力になり、知識の定着も促されます。授業の50分間すべてを使って知識を教え込むよりも、10分間考える時間を設け、子どもたちに学習内容への理解や関心を深めることによって、残りの40分の密度を濃くすることが可能になります。知識の習得においても、アクティブ・ラーニングは有効なのです。

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