教育フォーカス

 

【特集15】アクティブ・ラーニングを活用した指導と評価研究
 ~授業レポート~

[第3回] 生徒同士が話し合い、教え合う「対話を通した学び」で教科学力と生徒自身が学び取る力を、共に育む ~東京都立国立(くにたち)高校3年生「生物」での実践  [4/5]

4.生徒を自律した学習者に育てるための工夫

大野先生は、3年生の「生物」以外に、3年生の主に文系の生徒が履修する「生物基礎」(選択科目)、1年生の必修科目「生物基礎」を担当している。授業は「対話を通した学び」が中心であることや、基本的な進め方や指導上のポイントは共通しているが、クラスや学年の状況に合わせて、講義形式の授業を増やすなどの工夫もしている。

ひっかかってほしいポイントを「課題」にしたプリントで、「批判的思考力」を鍛える

「単元の目的」と「課題」が書かれたプリント(抜粋)

「単元の目的」と「課題」が書かれたプリント(抜粋) 

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大野先生が作成するB4版のプリントには、「単元の目的」「課題(単元によって数は異なる)」「確認しておきたい用語」「授業を通じて成長したい人のための発展課題」が示されている。「課題」の大半は、「?を説明せよ」「?を考察せよ」という内容だ。教科書をただ読むだけでは、分かった気になるだけで、真に理解することは難しい。生徒に立ち止まって考えてほしいこと、ひっかかってほしいことを「課題」とし、それに繰り返し取り組むことで、課題がなくても、自分で疑問を見いだして物事を考えられるような「批判的思考力」を育むことを企図している。また、考えるヒントを得られるよう、「課題の手引き」という別のプリントも作成し、配布している。

さらに、「対話を通した学び」では、メンバーの「ひっかかり」もディスカッションの対象となる。自分では思いつかなくても、仲間が言うと自分も疑問に感じるようになり、次は自分も疑問を出したいという目で、課題に取り組むようになっていく。 このように、プリントと「対話を通した学び」で「批判的思考力」を鍛えていくが、メタ認知を促すために、授業の最後に自分が疑問に思った点を振り返りシートに書き、言語化する。その用紙は回収し、大野先生が3段階で評価して、次の授業で返却している。

 

次の定期考査の出題範囲となるプリントをすべて事前に配布し、自律した学習を促す

プリントは、基本的に、次の定期考査までの範囲分を一度にまとめて配布する。1年生の「生物基礎」では、前期の中間考査までは、学習法に慣れることも考慮し、毎回の授業の冒頭にその日に取り組むプリントを配布していた。それを、中間考査後の初回の授業からは、次回の期末考査の出題範囲となるプリントをすべて配布するようにした。

 「一斉授業は、クラス全員を同じスピードで同じ到達点に持っていくのが目的です。しかし、生徒が理解できていないのに、教員の都合で先に進めても、生徒の学びにはなりません。そこで、プリントをまとめて配布することで、自分の状況に合わせて学習を進められるようにしました。その方法では勉強しにくいという生徒もいますが、生徒のアンケート結果を見ると、7割以上が『自分のペースで学べる』『学習の見通しが持てる』『先に進んでいる人に教えてもらえる』と、肯定的に捉えています」(大野先生)

定期考査の答案返却時に、友だちと学習方法を教え合うことで、自身の学習の進め方を振り返る

大野先生の授業では、生徒が自身の学習の進め方を振り返り、自分自身で学習のPDCAサイクルを回す場を、定期考査後に設けている。

自らの学びを振り返るシート

自らの学びを振り返るシート

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まず、個人の振り返りとして、「授業時間でうまくいった学習」「授業時間の使い方や取り組み方での自身の課題」「課題に対する解決策」をシートに書き、さらに、「定期考査の対策としてしたこと」「うまくいったこと」を書く。そして、周りの友だち少なくとも10人と「定期考査の対策」について情報交換をし、自身に参考になった内容を書いていく。

「自身の学習を言語化して振り返ることも大切ですし、実際に高得点を取っている友人の言葉には説得力があります。効果のある学習方法や、よい参考書などを知る機会になっています」(大野先生)

 

クラスや生徒の様子を見ながら、柔軟に方法を変える

生徒による授業評価アンケート

生徒による授業評価アンケート

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大野先生の授業は、前記を土台としつつ、定期考査後に授業についてのアンケートを実施し、生徒の意識などを確認する。そして、学年や文理、クラスによって授業のやり方を変える。例えば、クラスの雰囲気によって、人間関係づくりにどの程度、注力するのかといったことだ。

また、基本的に一斉授業は行わないが、同じ質問が何人からも繰り返し出、多くの生徒が理解できていないと判断できる場合には、その場で一斉指導や講義を行う。「生徒の主体性を育みたいので、できる限り講義はしないようにしていますが、生徒だけでは解決が難しいこともあります。そのような場合には、教員が分かりやすく教えることで、全員の理解を促すとともに、教員への信頼感や学びの場への安心感を高めます。『対話を通した学び』ばかりでなく、講義をすることによる生徒と教員の関係づくりも大切です」(大野先生)

 
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