教育フォーカス

 

【特集16】新課程における新しい学びとは

[第3回] 自ら考える思考力を育むために大切なこと [1/4]

楠見孝先生

楠見 孝 ● くすみ たかし

京都大学大学院教育学研究科教授
博士(心理学)。専門は認知心理学、教育心理学、認知科学。東京工業大学助教授などを経て、現職。共編著に『批判的思考と市民リテラシー:教育、メディア、社会を変える21世紀型スキル』(誠信書房)、『実践知 エキスパートの知性』(有斐閣)など。

自ら思考する子どもを育てることは学校現場の大きな目標だと言えますが、それは容易なことではありません。子どもの思考力を十分に高めるためには、まず思考のメカニズムや発達のプロセスを理解することが必要です。その上で、学校現場ではどのように取り組むことが必要なのでしょうか。認知心理学を専門とする京都大学の楠見孝教授に解説をしていただきました。

. 思考力とは、どのような力を指すのでしょうか?

A. 論理的に考え、自らを振り返る批判的思考力や、
   創造的思考力などがあります。創造的な問題解決のためには、
   これらが一体となって働くことが必要です

図.「批判的思考のプロセスと構成要素

図.「批判的思考のプロセスと構成要素
(楠見,2015を著者一部改変)」※

※上記画像をクリックすると拡大します。

思考力について、学校教育で主に育成されているのは、論理的に考えることに基づく批判的思考力でしょう。仕事で何かを決定する際や日常生活においても、適切な判断をするためには批判的思考力が欠かせません。

批判的思考力において大事なことは、証拠に基づいて論理的に考えることと、目的に対して正しく考えることができたかを振り返ることです。論理的に考えるためには、まず問題は何かを明確にし(明確化)、情報の信頼性や隠れた前提・バイアスがないかを検討し(推論の土台の検討)、理由や根拠に基づいて結論を導き(推論)、最終的な意思決定や問題解決をします(図参照)。その際、各プロセスで正しく考えられているかを振り返って確認することが、思考を適切に働かせるためには欠かせません。それが「メタ認知」です。この2つを合わせて行うことで、批判的思考を働かせることができるようになります。批判的思考というと「誰かを批判する」イメージがありますが、自分が正しく考えられているのかを振り返って考える力なのです。

 

また、創造的思考も重要な思考力です。創造的思考力には、新しいアイデアを生み出す段階と、有用性や実現可能性を検証する段階がありますが、特に後半の検証段階では批判的思考力を十分に働かせることが必要となります。いきなりよいアイデアが生まれるわけではなく、目標や使うことのできるリソースを明確化し、様々な角度で推論するなど、前述の批判的思考のプロセスを繰り返すことで、洗練された実現可能で価値のあるアイデアが生まれてくるからです。

このように、批判的思考力と創造的思考力は、両方が結びついて働くことで創造的な問題解決が可能になるのです。

 

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