教育フォーカス

 

【特集16】新課程における新しい学びとは

[第3回] 自ら考える思考力を育むために大切なこと [3/4]

. 子どもに考えさせてもなかなか思考が深まりません。
どのように指導したらよいのでしょうか?

A. 身につけたい思考力を明確化して、思考スキルの習得、経験・省察、
   意味のある問いに基づく議論などを行っていくことが有効です

これまで、思考力は、教科の内容を学ぶ中で自然に身につくと考えられていましたが、新しい教育課程では、各教科の中で意図的に育てることが求められています。その際、図で示したような身につけたい思考の要素を明確化して、それを授業の中に組み込み、明示的に意識して繰り返し教えていくことが必要です。

同時に、それらを使って現実の問題を解いてみたり、日常生活や社会に応用したりするなど経験を通じた学びを行うことで、スキルが教室の中だけで終わらない、生きた力になっていきます。その際には、自ら振り返る省察を必ず行い、「どうしてできなかったのか」「次はどうすべきか」などと子どもに問いかけて、十分に考えさせてください。こうした問いかけを繰り返すうちに、自ら思考する力が育まれ、経験から学ぶ力につながっていきます。

また、思考を促すには、子どもの関心を引きつけて、考えてみたい、解いてみたいと思わせる意味のある「問い」が重要になります。誰かが答えを出したらそれで終わりではなく、意見を出し合っていろいろな見方ができるような、考え続けられる課題を設定してください。皆が議論することに意味があるテーマを取り上げれば、授業が活発になって一人ひとりの思考は促されます。答えが1つではない問いも、意味のある問いに適しているでしょう。そうした問いは、教員が用意するだけでなく、授業中に子どもの中から生まれるように投げかけるのもよいと思います。

さらに、グループ学習では、グループごとに競争したり、単に1つの正解を求めたりすることよりも、一人ひとりが違う考えを持つことが許される経験を通じて、互いの違いを理解し合ったり、みんなが相手の考えを知って思考を深めたりするプロセスが大切です。自分が正しいと思う意見を証拠に基づいて論理的に述べるだけでなく、一見違う考えであっても共通点を探したり、ほかの人の考えが正しいこともあるなど、自分の考えを対象化して深めるのです。こうした活動は、相手の考えや気持ちを大切にしたうえで議論する思考態度を養うことにもつながります。

. 思考力の評価はどのように行うとよいでしょうか?

A. 目的に応じてポートフォリオ評価、思考力テスト、パフォーマンス評価、
   自己評価などを組み合わせ、多面的に子どもの成長を捉えてください

学習の履歴を押さえることは、子どもの成長を捉えるのに非常に大切です。ポートフォリオ評価では、他の子どもと比べるのではなく、子どもが学んできたことを整理して、その子がどのような学びを重ねてきたのかを見ることができます。大学入試でも、AO入試において学びの記録を評価する動きもあります。たとえば、京都大学教育学部の特色入試です。

また、現在様々なところで開発が進んでいる思考力のアセスメントテストは、大きな集団の中での自分の位置や、思考力の伸びを俯瞰的に捉えるベンチマークとして、活用できると思います。

さらに、学校における実際の学習成果を評価するには、パフォーマンス評価がよいでしょう。例えば、地球環境問題について分かりやすく伝えるポスターを制作したり、英語で自校を紹介するウェブページを作ったりなど、社会とつながりのある課題を通して、知識やスキルを活用・応用・総合する力を見る評価は、現実の世界における生きた思考力を測定するものとなり得るでしょう。

振り返るということでは、自己評価の意味も大きいと思います。結果に基づいて自分の学びがどう進歩したのか、あるいはどこが足りないのか、次は何をすべきかなど、過去を振り返る内省・省察と、未来を見通す省察の両方を行っていくことが大切です。自分を適切に振り返り、計画を立てる力は、将来必ず必要となるものです。初めはうまく自己評価ができないかもしれませんが、教員からのフィードバックと自己評価のずれを考えることで、適切な自己評価ができるようになっていきます。

思考力の評価で難しいのは、知識・技能とは異なり、「〇年生ではここまで」といった明確な規準が設けにくいことです。指導と評価のために目標は掲げられますが、それが達成できなかったとしても、次のステップに進めないわけではありません。該当の単元で十分に身についていなくても、様々な学習経験を積み重ねることで、次の単元や他の教科で身につくこともあるからです。

このように、思考力の指導は教科・学年を超えて、並行的に、連続的に育てる必要があることを心に留めておいてください。

 

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