昨今の入試環境や社会環境の変化を受けて、こちらが質問項目で想定していること以外にも新たに課題となっていることがあるのではないか。本調査では、「進路指導に関して、特に近年または今後の課題として感じていること」についてフリーアンサーで回答してもらった。調査対象者4,737名のうち、1,106名(23.3%)から何らかの回答が得られた。それらをカテゴリー別に分類し、多かったものをまとめたのが表1である。記述回答の性質上、厳密に分けきれない面があることはご容赦いただきたい。
これらをみると、大きく3つのポイントがあることがわかる。1つは、センター入試にかわる新テストなど2020年の入試制度改革に関すること(表1A)、2つ目は、主に個別選抜に関して、推薦・AO入試や入試の多様化への対応と教員の負担に関すること(同B・C)、3つ目は、生徒の進路選択に対する意識や学力(同D)に関することである。
表1 近年およびこれからの進路指導の課題についての記述回答(多いもの)〔公立普通科〕
注1)記述回答数は1,106件。%は1,106件に占める割合。1つの回答の中で複数のカテゴリーに該当する場合は複数にカウントしている。
注2)カテゴリーBとCの両方に内容が重なる部分はそれぞれにカウントしている。
※上記画像をクリックすると拡大します。
以下、それぞれについて、詳しくみてみよう。
課題として多かったのは、「大学入試制度改革への対応/新たな入試に対応した授業・指導のあり方」である。本調査はまだ「大学入学共通テスト」等の詳細が公表される前の実施のため、「入試改革の内容がわからないことへの不安」をあげたものも多かった。これは状況がかわっているので、今ならまた違った回答になるだろうが、入試改革への対応がもっとも気になっている教員が多いということはわかる。具体的に入試改革への対応に関する記述回答の内容を見てみよう。
表2 進路指導の課題のうち「2020年に向けた入試制度改革への対応」に関するコメント例
注)( )は四年制大学進学率。以下同。
回答には「大学入試改革への対応」とだけ書かれているものも多かったが、表2ではより詳細な記述があったものをピックアップしている。それらをみると、入試と授業をどう一致させていくか、アクティブ・ラーニングとのつながり、表現力や思考力の育成といった指導方法の転換に関することがあげられている。「大学入学共通テスト」の問題例は示されたが、それに対応した授業や指導がどうあるべきかについては、しばらく手探りが続くだろう。入試改革は高校教育を変えることが大きな目的の一つであり、そこが肝心である。今年度末に告示予定の次期学習指導要領をはじめとして、より具体的な議論が求められるところである。
次に多かったのは、推薦・AO入試の指導や課題、入試の多様化への対応であり、それらの多くが教員の負担増にもつながっている、ということである。先にみたとおり、個別選抜について文部科学省より示された改革の内容は、「推薦・AO入試の時期の見直し」「推薦・AO入試の学力把握措置の義務化」「AO入試の人数制限を設けない」「個別選抜全体への調査書の活用促進」であった。今回の回答の中には、推薦・AO入試による早期合格の弊害や学力不足についての記述も多かったが(表1④)、それらに対してはその後一定の改善の方向性が示されているので、今回は詳しく触れない。
しかし、「教員の負担」(表1⑤⑥)に対しては、今回の「AO入試の人数制限を設けない」「個別選抜全体への調査書の活用促進」といった方針により、益々その状況が進むことになるのではないだろうか。推薦・AO入試や入試の多様化による教員の負担に関する具体的な記述回答例は表3のとおりである。
表3 進路指導の課題のうち「推薦・AO入試や入試の多様化による教員の負担」に関するコメント例
現在でも、入試が複雑化してその理解に時間がとられ、推薦・AO入試の出願書類の記入や面接等の個別指導にも負担を感じている。さらに今回の改革の方針を踏まえると、教員が推薦・AO入試の出願書類を作成する件数や記載内容が増え、志望理由書や面接の個別指導が増え、このままだとさらなる多忙化につながることは容易に予想される。合否には教員の力量がかなり影響するとの記述もあり、それでは、本来の、生徒の多面的な能力を評価する、との趣旨とも異なってきている。本調査では、進路指導に関する負担増について項目を設定してたずねているが、全体で約8割の教員が「進路指導にかかる時間や負担が増えている」と回答し、大学進学率によらず、どの学校群でも7割以上が負担増を感じている。
図2 「進路指導にかかる時間や負担が増えている」と感じる割合(全体・四年制大学進学率別〔公立普通科〕)
この状況では、目先の大学進学だけでない本来的な将来を見据えた進路指導や新たに求められる能力に対応する時間がとれなくなる。現在、中央教育審議会で、教員の働き方改革が議論* されている。その論点の一つとして「進路指導」も掲げられており、教員以外の専門人材の関わりが検討課題になっている。入試改革を実りあるものにするためにも、現実的な解決策が検討されることは重要であろう。
3つめのポイントは、生徒の進路選択に対する意識や姿勢に関することである。図1で見たとおり、これらについては進学率別の違いが大きく、進路多様校ほど抱えている課題は大きい。
生徒に関する課題として挙げられているものの中には、生徒の気質に関すること、例えば、「やる気がない」「受け身」「自己認識ができていない」といった内容も多かった。ただ、今後の影響が大きいこととしては、2018年から18歳人口が減少局面に入り、少子化の影響がさらに強まり広範囲に及ぶことが予想される。表4では生徒に関する課題のうち、直接的・間接的に少子化に関連すると思われるものをまとめた。
表4 進路指導の課題のうち「少子化」に関連するコメント例
これらをみると、少子化で大学が入りやすくなっていることにより、安易な大学選択やその結果としての退学、ほどほど志向、進学目的が不明確、選択肢が増えて決めきれない、といった内容がならんでいる。
大学入試制度を変えることによる学びへの影響力は大きいが、実質的に選抜がない(選抜にならない)大学を受ける生徒達にとっては、推薦・AO入試で学力把握を義務化しても、強い学びのインセンティブにはならないだろう。課題の所在は学力層によってかなり異なっているため、生徒・学生の実情にあわせた個別の高大接続の取り組みが重要だろう。受け入れ側の大学の努力も問われる。
筆者がこれまで中央教育審議会の「高大接続特別部会」等の議論を傍聴してきた印象では、今回の入試改革は学力上位層に焦点があたっていた。次の段階として、学力中位層以下の接続のあり方について議論を深めていくことも必要だろう。
以上、これまで述べてきたことをまとめると、次のとおりである。
これから進む制度改革や環境の変化から今回の記述内容をみたときに、今後重要となる高大接続の論点としては、
の3点であろう。高大接続の論点はいくつかあるが、記述回答の分析をとおして、改めてこれらのことが今の学校現場にとって解決すべき優先順位の高い課題であることがわかる。2020年に向けて高校には大きな変革が求められる。実際に改革を担う高校教員の声を聞くことが、改革の成否を分けるカギとなるにちがいない。
最後に、大変お忙しい中、本調査にご協力いただいた先生方に心より感謝を申し上げます。
*「学校における働き方改革特別部会」
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/079/index.htm
第6回学習指導基本調査 DATA BOOK(小学校・中学校版) [2016年]
第6回学習指導基本調査 DATA BOOK(高校版) [2016年]
教育に関する調査・研究データや教育情報誌、オピニオン、特集など、
サイトで公開している情報を検索することができます。
クリップボタンをクリックした記事を格納します。
※この機能をご利用する場合CookieをONにしてください。