教育フォーカス

【特集8】「一人一台環境における学びの自立を支援する学習モデルの検討」研究より

[第3回] タブレットを用いて家庭学習の内容をクラス内で共有し、自学の変容を促す─分析編  [5/5]

5.分析結果を振り返って?提案者と実践者の対談

◎他人の学習からさまざまな気付きを得る

住谷:今回の実践を通して、子どもたちは自然とノートの内容を共有していたようですが、子ども同士の学び合いを促すという観点ではどうでしょうか。

菊地:学習内容の共有、学習内容の競い合いと、子ども同士のかかわり合いが、普段の交友関係を超えて生まれていました。特に印象的だったのは、漢字が苦手だったAくんが、ほかの人のノートを見て、漢字を上手に書きたいと思うようになり、自主学習で練習をし、4週間後には見違えるように上手に書けるようになったことです。さらに、その様子にBさんが気付き、最後の振り返りの会で、みんなの学びを見て気づいたこととして発表しました。Aくんの努力も、それに気付いたBさんにも、子どもの成長を感じました。

稲垣:個々の内容を見ていくと、いろいろな学習に取り組んでいます。

菊地:Cさんは、ほぼ毎回、自分で決めたテーマで調べ学習に取り組んでいましたが、「自主学習のテーマを探せるようになった」とアンケートに書いていました。Dさんはクラスメートに好きな芸人のアンケートを取って、集計結果をノートに書いてアップロードしていました。そこには「ご協力をありがとうございました」とも書かれていて、みんなに見られる、共有されることを前提として学習している様子もうかがえました。

住谷:今回の実施時期は3年生の1月でしたが、他の時期で実施したとしたらどうでしょうか。

菊地:4月や5月に行えば、学級づくりにつながると思います。自主学習を共有することで、学級としての学びをつくりあげていくのです。また、同じ1月でも、4年生で行えば、上級生として自主学習の習慣を付けることに役立ちます。子どもたちには「上級生としての自覚を促す」という目的も加わるでしょう。

稲垣:子どもたちにさまざまな効果が見られましたが、教員にとっても魅力的ですね。

菊地:自主学習の提出率や学習内容などを可視化できるのは、担任として大きなメリットです。自主学習ノートは毎日チェックをするだけでも大変で、子ども一人ひとりの取り組みの変化までを追うことはできません。子どもたちが自ら学習を共有してくれる上に、教員は自主学習の見取りを深くできるようになるので、自主学習に関しても個々の課題にあった指導が可能となります。教員のサポートツールとしても、大きな可能性があると感じています。

稲垣:今回の実践では、自分の学びの可視化と、ともに学ぶ仲間と共有し合うことというスタイルが、子どもたちの学習方法や内容、学習に取り組む姿勢に関して、よい影響を与える可能性があることが分かりました。さらには、子どもたちの意欲、そして意欲を支える自尊感情などを高めることも期待できるスタイルだといえそうですね。

 第1期実証研究を終えて

今回は、自己調整学習をより効果的に進める方法になるのではないかという仮説の下、ICTの活用と自主学習を組み合わせた学習スタイルをつくり実証研究を進めてきました。前回の菊池先生の定性的な実感に加え、今回のアンケート結果などからも、このスタイルの可能性が示されたと考えています。今回の研究の詳細は、稲垣准教授を中心にJSETやJAET、国際学会などで報告していく予定です。また、この研究についても継続していき、振り返りの有効性の検証や家庭での実践の範囲を広げるようなスタイルにトライできればと考えています。

ベネッセ教育総合研究所ICT教育研究室 主任研究員 住谷 徹

  ※ 本研究については、2015年5月16日の日本教育工学会の研究会、及び、6月13日の日本教育メディア学会2015年度第1回研究会にて発表される予定です。

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