教育フォーカス

【特集9】少子化社会と子育て

[第5回] 変わりゆく乳幼児の家族の実態とは?  [2/3]

2.【講演】現代の父親を取り巻く状況とその変化 小﨑恭弘(大阪教育大学准教授)

小﨑恭弘先生

小﨑 恭弘●こざき やすひろ

大阪教育大学准教授、NPO法人ファザーリング・ジャパン顧問 
専門は社会福祉。西宮市市役所初の男性保母(当時)として活躍後、子どもの発達と父親の役割、父親ならではの子育て法をテーマとした講演や社会活動を行っている。男の子3人の父親。

■ なぜ今、父親の育児参加が注目されているのか

1991年に育児・介護休業法がスタートしましたが、男性の育児休業取得率は2%台(2014年度)と依然として低い状況です。2010年に改正育児介護休業法が施行された際、厚生労働省が男性の育児参加を推進するために「イクメンプロジェクト」を始めました。私が考える「イクメン」とは、「主体的に子育てを行い、楽しみ、そして妻と子どもと一緒に家族を創っていく、覚悟と責任のある父親」です。

2010年4月に東京都文京区の成澤廣修区長が、2週間の育児休業を取得しました。成澤区長は、育児休業中にベビーカーで外出して、文京区の道がベビーカーを押すのに向いていないことに初めて気づき、復帰後、さっそく道路整備をしたそうです。このように、子育てに参加したことで、気づかなかったさまざまな「しんどさ」を感じる経験ができたことがよかったと話しています。成澤区長を皮切りに、その後、次々と男性の首長が育児休業を取得しました。誰かが始めたことが突破口となり、全面展開になるのはよいことだと思います。

■ 父親も子育てを楽しく!

私は現在、400人以上の父親が所属するファザーリング・ジャパンというNPOの顧問をしています。私自身、保育士をしていたこともあり、理事長の安藤哲也と初めて会ったときに、「子育てはむちゃくちゃおもしろいから、笑ってできるようにしよう」と意気投合し、活動を始めました。今の父親たちには、子育てをする父親のロールモデルがいません。ファザーリング・ジャパンで、楽しそうに子育てをする父親のロールモデルを提示できれば、と考えました。

現代、乳幼児の父親といっても、年齢的にも幅広く、父親支援も誰を対象にするかという前提が難しくなっています。そうした中で、地域の中で父親同士がつながっていけるサークルのような場の提供を目指しています。

■ 父親×(   )

では具体的に、どのようなことを重視して、父親支援をしていけばよいのでしょうか。私は、4点のポイントがあると思います。

  • 1.エンパワーメント:父親が子育てについての正しい知識や理解、価値観を得られるように、父親をエンパワーメントすること。父親向けのイベントをする際、活動の目的と内容が明確だと、父親はより集まる傾向があります。ファザーリング・ジャパンでは、「父親×(   )」として、カッコ内に父親が興味を持つテーマ(主に遊ぶ・作る・食べる)を入れて、イベントを企画しています。
  • 2.パートナーシップ:父親が母親とのパートナーシップについて理解し、夫婦でともに子育てができるようにすること。
  • 3.ワークライフバランス:父親が仕事や、生活、家庭、地域との良いかかわりができるように、ワークライフバランスを意識した生活者になれるように支援すること。父親の家事育児参加には、職場などでの働き方の変革も必要。
  • 4.ネットワーク:父親自身が積極的に育児や家庭生活の主人公として暮らしていけるように、地域社会の環境でかかわりやネットワークができるようにすること。

以上のポイントに加え、イベントを平日夜や休日に開催したり、子育て支援センターを父親も入りやすい環境(色づかい)にしたりなど、父親支援の工夫の余地はまだあります。また、母親がいないと何もできない父親もいます。父親が市民的に成熟していないことも問題です。

父親支援はこれまでになかった支援なので、定型がまだできていません。その分大きな可能性があるとも言えます。父親は子育ての初心者であり、それゆえ、変化も起きやすいものです。その子育て初心者である父親の気持ちをしっかりとつかんで、支援していくことが大切です。そして、父親の変化が、母親、子ども、家族、会社、地域、社会の変化へと、つなげていくことが必要です。

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