教育フォーカス

【特集9】少子化社会と子育て

[第7回] 少子化が、幼児の家庭にもたらした変化とは?
   -「第5回 幼児の生活アンケート」を手がかりに-  [2/2]

4.経済格差の拡大

教育費については、全体的に減少してきていることがわかりました(図4)。ここでいう教育費は「塾、通信教育、習い事、絵本、玩具などにかかるひと月あたりの費用。幼稚園・保育園にかかる費用は除く」を指しています。


図4. ひとりあたりの教育費(経年比較)

図4.
平日、(幼稚園・保育園以外で)一緒に遊ぶ人(経年比較)

 ※上記画像をクリックすると拡大します。

*2015年
(出典)ベネッセ教育総合研究所「第5回 幼児の生活アンケート」

これは、いくつかの要因が考えられます。一つは、共働き世帯は増加しているのに、世帯収入が増えていないということです。今回の調査では、年収が600万円未満の世帯は1995年の31.9%から2015年は40.8%へと増加し ています。ただ一方で、年収800万円以上の世帯はそれほど減っていないので(31.0%→26.0%)、世帯としてある程度収入が維持できている層と、減ってきている層に格差が拡大していると言えます。

そうした中で、教育費にどの程度のお金をかけているかですが、これは2010年の調査で減少したまま、今回も回復していません。月1,000円未満の層は、1995年の11.3%から、2015年は24.4%へと倍増しています。一方で1 万円以上出している層は、1995年31.1%、2015年18.2%と減っています。ただ、減っていても一定層はいることから、教育費がかけられる層とかけられない層にわかれていると言えるでしょう。

その理由はいくつか考えられます。一つは園にかかる費用が上がってきていることです。特に幼稚園は保育料以外に、教材費その他、さまざまな費用がかかるので、その影響もありそうです。収入が少なければ、保育料など園へかかる費用の他に、習い事などにかけるお金の余裕はあまりなくなることも考えられます。実際、教育費の極めて少ない層、ゼロに近い層が増えていることは確かです。

経済格差については、日本社会で非常に大きな論点になっています。経済格差が原因で子どもが塾などに通えず、それが子どもの将来にとって重要な影響を与える、という主張がありますが、おそらく幼児期についてはそれほど大きな影響を与えないだろうと私は考えています。なぜなら、幼児期に親子関係が健全に営まれれば、幼児の発達に関して塾や習い事はそれほど重要なものではなくなりますし、さらに大部分の子どもは園に通っているので、そこで、成長に必要な刺激はほぼ得られるからです。

5.価値観の多様化

今回の調査では母親の子育てに関する価値観が多様化しているという結果も得られました(図5)。たとえば、「A 子育ても大事だが、自分の生き方も大切にしたい」と「B 子どものためには、自分ががまんするのはしかたない」という2つの子育て観についてどちらかを選択してもらったところ、2015年調査では、Aが52.4%、Bが47.3%と、ほぼ二分されていることがわかります。また、「A 子どもが3歳くらいまでは母親がいつも一緒にいた方がいい」「B 母親がいつも一緒でなくても、愛情をもって育てればいい」はAが50.5%、Bが49.4%と、こちらも二分されています。どちらの子育て観が正しいということではなく、母親がもつ意識がちょうど半分ずつくらいに分かれているという結果です。


図5.母親の子育て観(経年比較)

図5.母親の子育て観(経年比較)

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*2015年
(出典)ベネッセ教育総合研究所「第5回 幼児の生活アンケート」

ここでの調査方法は、必ずどちらか一方を選ぶ、というものなので、こうした結果になっていますが、実際には、相当数の母親はどちらが自分の心情に近いのか、迷っているのではないかと思います。こうした子育て観は、さまざまなことに直結します。たとえば子どもを幼稚園に預けるのか、保育園に預けるのか、子どもが小さい時から働くか、あるいはパート、専業主婦を選ぶのかということの動機として、収入だけではなく、これらの意識が大きく影響するでしょう。

また、もう一点注目すべき結果は、しつけや教育の情報源です。母親の年代区分別に見ると、非常に大きな差があります(図6)。


図6.しつけや教育の情報源(15年)

図6.しつけや教育の情報源(15年)

 ※上記画像をクリックすると拡大します。

*2015年
(出典)ベネッセ教育総合研究所「第5回 幼児の生活アンケート」

たとえば20代の母親では、しつけ・教育の情報源として一番高いのが「インターネットやブログ」(71.7%)、一方、40代以上の保護者では、「母親の友人・知人」(73.0%)となっています。これは年齢別の傾向なのか、それとも時代的なトレンドなのかは、この調査結果だけではわかりませんが、私はおそらく大きな時代的な変化の表れなのではないかと思っています。一つは少子化により、身近に気軽に相談できる人がいない、ということもあるでしょう。電話で連絡することも可能かもしれませんが、主にはメールやSNSを利用していると考えられます。情報がインターネット化していくということは、価値観の多様化にも大きく影響していくと思います。インターネットの特徴は、誰でも公平にあらゆる情報を手に入れることができ、特に自分が好む相手との接触が増えるので、同じ意見の人同士が意見交換をしあいながら、その考えを自分の中で強化していく可能性があります。


6.まとめ

以上、この20年間の幼児の生活の変化を概観してきました。まとめると、少子化により、友だち関係や遊び方が大きく変化している、また幼児と母親との接触が増えており、それとともに経済的な事情の変化の中で、全体として平均的には収入が減りつつあり、経済的格差が広がりつつあるということです。その結果、これからもおそらく共働き世帯が増加し、保育園人口が増えていくでしょう。こうした現象を合わせると、収入に応じた行動の多様化ということが当然ながら出てくるでしょうし、それによって結果的に幼稚園や保育園、認定こども園が果たす役割がより大きく、より重視されるようになってくるでしょう。

 

次世代育成研究室「研究室トピックス」も合わせてご覧ください。

編集協力 菅原然子

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