新井 大学については、入口が厳しいわりに出口が緩い、ということは前々から言われています。しかし、出口の緩さがなかなか変わらないのはどういうところに原因があるのでしょうか。
安西 出口については企業側も少しずつ変わってきてはいますが、もっと変わっていいのではないかと思います。
もう10年以上前ですが、『日経ビジネス』に「一括採用は企業の怠慢」という私のインタビュー記事が掲載されました。その時は話題にならなかったのですが、最近ようやくテーマになりつつあります。企業が一括採用する理由は、採用コストを最小限に抑えるためでしょう。ところが、採用の時のコストよりも、実は入社後の教育コストや、その会社に合わない人をずっと抱え込まなければならないリスクの方が高くなることが分かってきているので、企業は本当に良い人を選んで採用する傾向にあります。ぜひ企業の人事担当の方には、学生や志望者の力量を個別にしっかり見ていただきたいですね。日本企業の採用は今まさに転換期にあるのではないでしょうか。
新井 最近、日本だけでなく、海外でも若者の就職難が問題になっています。企業の人材採用も即戦力ですぐに富を生み出せる人のほうがいい、という考えになっているのかもしれません。でも、そうなると、若者が社会に出てキャリアを積める機会がありません。高等教育機関のありようとしては、大学と企業のギャップを埋める方向で考える必要があるのではないでしょうか。
安西 そうですね。社会が求めている大学教育のニーズと、今までの大学の教育にかなりのズレがあります。大学側は昔ながらのコンテンツを提供しているところがまだ多いように思いますが、社会はもっと先のことを求めています。企業は単に即戦力がほしいわけではありません。大学側はよく、大学教育は企業だけのためにあるのではないし、企業で働く人間を育てるのが大学教育ではないと言いますが、そんなことは企業もわかっています。企業や社会の求めているのは自分の力を主体的に活かして他者に貢献できる人間です。そういう人間を大学は育てていないのではないか、という不信が社会や企業側にあるように思います。
新井 では大学はどうすればよいでしょうか。
安西 そういう状況を大学側が認識し、乗り越えなければいけない。もちろん、長い眼で見た学生の教育や学問の蓄積のためには短期的なことに左右されてはむしろよくないのですが、その一方で、世の中に出ていく学生の将来を大事にしなければなりません。なかなか生涯学習社会にはならない理由の1つは、このミスマッチにあると思います。
実際、社会人のほうでは大学で学び直したいというニーズは相当あります。しかし、社会人が自分の学びたいことを本当に勉強できる大学は、実はまだ少ないのではないでしょうか。この点も大学側の責任が大きいでしょう。
一方で、今の大学の先生に、社会人が求めている内容の授業がすぐにできるかというと、それは容易ではありません。ダブルスクールと言われるように、大学に行きながら専門学校に通う状況もありますが、大学こそ教育機関の中でも社会の動きに最も敏感でありながら、そのうえで学生の人生にとって真に必要なことは何かという問いに正面から向き合って教育をすべきではないでしょうか。
次回は第2回「大学入試の未来と小・中・高教育の課題」です。
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