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対談:安西祐一郎氏に聞く「日本の教育課題と展望2013」全3回連載

【第2回】大学入試の未来と小・中・高教育の課題 [2/4]

 国の将来を左右する高等教育の質保証

二極化する高校生の学習時間

図1 二極化する高校生の学習時間

新井  では、次に高校教育についてです。ベネッセ教育総合研究所の調査データを見ると学習時間が二極化しています。高校の成績上位層と比べて中位層になると、学習時間が急激に減っているのです。そうなると、中位層の生徒が入学する大学はどのように対応すればよいのでしょうか。

安西  大学は学生の主体的な学びを支援する場をたくさんつくらなければなりません。その一方で、高校、とくに普通高校では教養教育が大事です。日本で学ぶ高校生が身につけるべき、文化や歴史なども含めた教養を、高校できっちり教育すべきでしょう。しかし、今の普通高校の教育は、大学受験を除いてしまうと目標がなかなか掴めないでいるように見えます。その一方で、高校や大学を通じて、日本で学ぶべき教養と社会で活躍していくための知識やスキルの両方を、教育のプロセスの中でどうすれば身につけられるのかは、質の保証とか質的転換と言っている教育の課題の底に横たわっている、きわめて大きな問題なのです。

新井  一方で、政策としては大学への進学率をもっと上げたいという意向があります。理数系については大学院などもそうです。ところが、今の状態で進学率だけを上げようとすると、勉強しなくても進学できる状態が拡大します。18歳の人たちだけを対象にして進学率を考えるのではなく、社会人も含めて議論する必要がありそうですね。

安西  そうです。大学進学率を上げること自体が目的ではありません。大学で学ぶ人が一定のパーセンテージいてくれないと、日本の将来が危ういということが根底にあります。しかし、大学教育が質的に転換しないのならば、大学進学率を上げても仕方がないのです。だからこそ、進学率の議論をするよりも、大学教育の質を転換し、向上させることが先決なのです。

新井  なるほど。では、大学の質を向上させるにはまずどうしたらよいでしょうか。

安西  大学教育の質を上げるにはいろいろな方法がありますが、たとえば少人数のディスカッションを増やすべきです。問題はむしろ教員です。授業中に反応がそれほど強くない学生もかなりいますが、彼らにも潜在的な力は必ずある。そういう学生の潜在力を引き出せるかどうかは教員の力量によります。ところが、むしろ大学の教員に内にこもるタイプが多いように思いますね。

新井  日本の大学の教員と、例えば欧米の上位の大学の教員とでは、教育の目的や教え方などが違っているということでしょうか。

安西  私の知る限り、欧米の大学といっても教員のレベルは大学によってとても大きな差があります。特にアメリカは大学の数が多いですから。一流大学の教授であれば、しっかりした教科書を書いている人も多くいますし、毎年演習問題などを改訂している教員もたくさんいます。出版社から発行しなくても、自分で書いたテキストをバインドして配り、演習問題をすべて学生に解かせるなど、猛烈に勉強させます。

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