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対談:安西祐一郎氏に聞く「日本の教育課題と展望2013」全3回連載

【第2回】大学入試の未来と小・中・高教育の課題 [3/4]

新井  日本の大学の先生もできるのではないでしょうか。

安西  日本で先生がそれをやろうとすると、授業の準備に忙しく学内の委員会などには出られません。委員会に出なければ変わった教員と思われる。アメリカだと多くの教員は夕方になると帰ります。それでいてなぜ研究成果が出るのかというと、研究と教育に集中しているからです。さらに、どうして集中できるのかというと、大学教員の評価において研究と教育が徹底的に重視されているからです。

新井  日米で評価基準の違いはありますね。アメリカに留学した方から話を聞くと、勉強量も多いのですが専門教育を通して質の高いメソドロジー(学び方)を学んでいます。国際的な大学入学資格を付与する仕組みの1つである国際バカロレア (以下:IB)の高校で学んだ方から、学び方が身につくので大学や大学院に進学しても苦にならずに学べたという話を伺いました。

安西  おっしゃるとおりで、とくにIBは主体性をもった学びの方法を重視していると思います。ただ、例えばIBをそのまま直輸入して移植しても日本の学校では成り立ちにくい。日本の土壌とこれまでの教育の歴史を踏まえ、世界のなかでの日本のこれからの立ち位置や国内の地域社会がどのように成長していくのかをベースにすべきです。そのうえでIBなどを参考にした、学生や生徒が主体性を身につけられる大学入学者選抜や教育の仕組みを考えないといけないですね。

 高校教育はどのように見直せばよいか

新井  高校教育も見直さなければいけないところが少なくないと思います。

安西  教育現場では学習指導要領にかなり準拠した教育をしますね。ただ、学習指導要領は大切ですが、これからの子どもたちのことを考えて、できるだけ弾力的に運用していただきたい。また、先生方の研修にはもっと工夫が必要だと思います。とくに、小中高の先生は今後10年間で新たに30万人位は必要とされていますから、そういう新しい先生方への研修は大切ですね。

新井  義務教育は学習指導要領を守り、高校の先生方は比較的自由にしている印象です。

安西  高校は校長の権限で比較的いろいろなことができるようになっているはずです。ところが、そのことで高校によって教育の質の違い、指導のきめ細かさにかなり温度差が出ているように見えます。

新井

聞き手  新井 健一

ベネッセ教育総合研究所 理事長
あらい・けんいち ● 平成16年執行役員、教育研究開発本部長及び教育研究開発センター(現 ベネッセ教育総合研究所)長を兼務。平成19年1月NPO教育テスト研究センター設立。同理事長に就任し、OECD等海外の機関とネットワークを構築。現在、中央教育審議会初等中等教育分科会「学校段階間の連携・接続等に関する作業部会」委員。総務省事業「青少年のインターネット・リテラシー指標に関する有識者検討会」座長代理などを歴任。

新井  そう思います。職業高校や実業高校の先生たちがとても頑張っています。例えば、実業高校と同じ地域の大学が結びついて、実際にプロダクトを作って世に出すという動きが出ています。そういう流れは非常にいいと思います。

安西  職業高校や専門学校や大学が中小企業と産学連携の教育を行ったりするケースもあります。工業高校では生徒が国家資格などを取得することを積極的に評価する、ジュニアマイスター顕彰制度も普及していますね。実社会とリアルに結びついているというのはたいへんよいことだと思います。

新井  それは企業など実社会でもそのまま使える力ですね。

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