教育フォーサイト

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第三弾は、京都大学霊長類研究所の松沢哲郎教授との対談。「アイ・プロジェクト」と呼ばれるチンパンジーの知性の研究をはじめ、さまざまなチンパンジーの研究を通じて「人間とは何か」を探る「比較認知科学」の第一人者。一方で、ブータン国を舞台に、京都大学が全学的な国際交流事業を行う「京都大学ブータン友好プログラム」を発足するなど、研究、教育、社会貢献と精力的な活動を続けている。

聞き手 : ベネッセ教育総合研究所理事長・新井健一
取材協力:株式会社百人組

 

対談:松沢哲郎氏に聞く
「チンパンジー研究とブータンの文化」全2回連載

【後編】 急速に発展するブータンの文明と受け継がれる文化 [1/4]

写真提供:松沢哲郎  

 ブータンと京都大学の交流の歴史

新井 前編ではチンパンジーと人間の比較研究から「学びとは何だろう」というお話をうかがいました。後編では国民総幸福を掲げる国ブータンを訪れている先生に、松沢先生からご覧になったブータンとはどのような所だったか、色々とうかがいます。まずは、京都大学とブータンでは以前から交流があるとお聞きしましたが、どのような関係でしょうか。

松沢 哲郎

まつざわ・てつろう ● 京都大学文学部哲学科卒業、理学博士。現在、京都大学霊長類研究所教授、国際高等研究所学術参与、中部学院大学客員教授。1978年から「アイ・プロジェクト」とよばれるチンパンジーの心の研究をはじめ、1986年から毎年アフリカで野生チンパンジーの生態調査もおこなう。2000年からアイと息子のアユムをはじめ三組の母子を対象に知識や技術の世代間伝播の研究に取り組む。日本学術会議会員、紫綬褒章などを受章、2013年に文化功労者に顕彰。著書に『想像するちから チンパンジーが教えてくれた人間の心』『進化の隣人 ヒトとチンパンジー』(岩波書店)、『チンパンジーから見た世界』(東京大学出版会)、『おかあさんになったアイ』『アイとアユム』(講談社)などがある。

松沢 実は昨日もブータンからの御一行を京都にお迎えしていました。今回は8人です。BHU(Basic Health Unit)という、ブータンには地域の保健所のようなものがあります。山が多い国土のなかにパラパラと人が住んでいるので、それぞれの村落にBHUがあります。そこで地域医療を担当する人と、それを束ねる日本で言えば厚生省の人が、日本のへき地医療の現状を見るために来日したのです。そういう支援も含めた活動の総称を、京都大学ブータン友好プログラムと呼んでいます。発足は2010年10月ですが、第4代国王と間近にお話しすることができて、そこをもって正式な発足としました。実は、そこに至る長い歴史が京都大学にはあります。遡ると1957年ですから、57年前です。

僕がお会いした先代の第4代国王はすごく有名で、GNH(国民総幸福量)という概念を打ち出した方です。その第4代国王は長く統治されていたのですが、そのお母様である第3代国王の皇妃がお忍びで1957年の秋に日本へ来ました。仏壇を買いに来たそうです。仏教国で、京都の新門前通のような古いところで仏壇・仏具や衣装、そういったものが日本はとてもいいものがあるらしく、それを買いにお姉様とお母様と来ました。

新井 まだ正式な国交はなかった時期ですね。

松沢 国交は1980年からなので、その23年前です。日本としては来ることを知っていたのですが、ブータンは外交権をインドに握られていたので、日本政府としては表立っては何もできませんでした。
 そのときに、京都大学山岳部はブータンの山は未踏峰だったので、山岳部としてはこの機会にブータンとの関係を強めておきたいという狙いがありました。文化勲章をもらった日本を代表するフランス文学者の桑原武夫先生は山岳部でしたから、日本国政府に代わってブータンからの王族を接待したのです。

新井 そういういきさつがあったのですね。

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