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対談:遠山敦子氏に聞く   「挑戦のススメ」 [7/9]

 自分に与えられた役割を全うする

新井 学習指導要領は最低基準だと切り替えた時は、どのような思いだったのですか。

遠山 当時の小野事務次官が主張したことでもあり、間違ってはいないと思いました。文科省の初等中等教育局には、最初はずいぶん反発もありましたが。

新井 そういう反発を乗り越えるという精神も、中学生の頃に富士山と出会った体験があるのでしょうか。

遠山 そうですね。何の抵抗もなく前例どおりにやるのであれば、そこに自分がいる価値はないですからね。本当にやるべきかどうかということは責任を持って考え、やるべきだと思ったら、絶対に諦めない。これまでの仕事の仕方もそうでした。決めるまでにはできるだけ多くの人の意見を聞き、調べ、分析します。ただし、最終的にプランを立てるのは自分ひとりです。だから、何か問題があるとずっと考えて、やっとひらめくこともあります。

新井 忙しい中で考えるというのは、どんなときに考えるのですか

遠山 四六時中底流のように考えています。夢の中でも考えていることがあります。思いつくのは目覚める瞬間が多かったですね。

 教育の順序と軽重を間違ってはならない

新井 今の教育やこれからの教育で気になっていることなどありましたらお聞かせください。

遠山 今、世の中ではグローバリゼーションと言いますよね。背景にはインターネットなどの技術が発達し、世界が広がったことがあると思います。だから、例えば「イスラム国」が暴れ出すと全世界が恐怖に陥ります。昔だったらアラブの片隅で何が起きても世界は悠然としていましたが、今や米国のオバマ大統領などは対応の悪さを理由に攻撃を浴びています。世界のあらゆる出来事が瞬時に世界中に伝わってしまうからです。だからといって、全ての人たちが常に世界のあらゆる情報、特に極端な情報に惑わされることはないと思います。

教育という観点からいうと、インターネット時代にしろ、グローバル化の時代にしろ、基本は人間です。確かな知力というか、本物の知力をしっかりと身に付けることが大切です。それから心を養うということ。そして、健やかな体を保つことです。知育・徳育・体育というのはやはり教育の基本として大切だと思います。昔から言われていますが、最近本当だなと思うようになりました。

体育・徳育・知育の順番だという政治家もいますが、知育・徳育・体育というのが学校教育の順番だと思います。本物の知力というものは、国語にしろ、数学にしろ、物理にしろ、化学にしろ、人間として身に付けておくべきことだと思います。本物の知力があれば、世の中がどんなふうに動いても、自分なりに理解できるようになり、自分なりに本質をつかむことができます。したがって、単なる暗記による知識では役に立ちません。

グローバル化に英語力はもちろん大事ですが、基礎を身に付けた上での話です。広い視野を持ち、自分自身の足元について自信を持って語れることが大事だと思います。とにかく英語だというだけではなくて、むしろしっかりとした基礎を築くことが一番大切です。先生方には、世の中が変わっても基礎が一番大事だということと、基礎をしっかり教えることで子どもたちの将来がどんな世界になっても乗り越える力を与えているのだということを心に留めていただきたいです。

新井 先生方には、その点には自信を持って指導していただきたいですね。

遠山 8割は基礎力です。残り2割がいろいろな情報が行き交い、いろいろなことが起きる時代の変化に合わせた対応力です。その順序や軽重を間違えると、何をやっているのか分からなくなります。これからの時代に大事な人材は、この国について責任を持ってリードする人。それから、ノブレス・オブリージュという精神を持ち、高い地位に伴う責任を持って世界に出て、いろいろな問題を解決できる人。

そういう優れた力を持った人材、エリートを教育することもすごく大事な時代になったと思います。日本のため、世界のために活躍できる優れた人材が必要です。特に大学ではそういう教育も大切です。

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