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対談:遠山敦子氏に聞く   「挑戦のススメ」 [8/9]

 先生はもっと自信を持って

新井 PISAの結果を見ると、日本は成績が良いですね。およそ1億人以上の人口でこんなに成績の良い国はほかにはありません。しかし、成績上位者の比率がちょっと低い点は気になります。また、子どもたちは学習していることが将来役に立つとあまり思っていないようです。

遠山 日本の初等・中等教育の教員は、世界各国と比較すれば非常に優秀です。OECDの使節団、あるいはアメリカの教育の使節団が来日してびっくりするのは、日本の学校では授業が終わった後に、先生たち自身が研修会を開いて学んでいること。もっと良い教育を、もっと良い授業力をと考える先生がとても多いです。こういう先生たちは日本の宝ですが、自分たちは子どもたちに試験を通るための力を与えているのではなくて、将来生き抜く力を与えるためにやっているのだということを自覚してもらいたいです。先生自身が自信を持つと、子どもたちに伝わります。

 教育は未来への投資

新井 今、気になっている問題に、子どもの貧困率があります。それが教育格差につながるのではないかという懸念です。

遠山 貧しい子どもたちを救うために、再配分をきちんとしないといけないですね。一方で、社会保障費は過剰なぐらい行き渡っているはずですが。

新井 数年前にOECDのグリア事務総長が、日本の子どもの貧困率が高くなっているので注意すべきだというメッセージを出しました。日本の子どもの貧困率は、OECD平均を超えています。

遠山 日本は、OECD加盟国の中で1学級の生徒数が2番目に多いです。国際的に見ても、大きな課題です。今一番大事なことは未来への投資です。それなのに、日本は後ろ向きの投資ばかりです。

新井 よく話題に出るのは教育予算の対GDP比が日本はOECD平均以下といわれています。結局、それは個人負担にされているわけですよね。

遠山 大学の学費は諸外国と比べてもかなり高いですね。明治維新直後に森有礼などが全国に小学校をつくり、整然とした教育制度を始めましたが、あのころは国にとって教育がすごく大事だという意識がありました。昭和36年頃は教育費と社会保障費の対GDP比がほぼ同率でした。今や国家予算の中で教育費は社会保障費の5分の1以下でしかありません。若者たちに未来への希望を持ってもらわないといけないですから、できるだけ負の遺産を今の世代がきっちり返す、あるいは返す道筋をつけるべきだと思います。

 自分が学ぶ目的を探索する

新井 人間形成について、ご自分の経験も踏まえてアドバイスをお願いします。

遠山 私よりも優秀な人たちはいっぱいいたと思います。私はたまたま用いられただけです。ただ志の高さにおいては、人後に落ちなかったという思いはあります。富士山と出会った経験や、世のお役に立ちなさいという教育を家庭で受け、自分は何かをきちんとやり遂げなければいけないという気持ちが常にありました。だから、周りが自分をどのように評価しても、ほかの女性がどのように振る舞っていても全然気にならず、自分の道を孤独に歩きました。ある意味、孤独に耐えられたということが、今の自分につながっているのではないでしょうか。

東京大学法学部に入学し、周囲が男性ばかり800人の中で女性1人というのは生きにくかったです。今から60年近く前ですからね。大学の先生は授業中でも「あ、女性が1人いるな」と言っていました。要するに自分がどう生きるかということについて、今にして思うとかなりはっきりした方向性があって、迷いがなかったように思います。

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