シリーズ 未来の学校

軽井沢の豊かな自然と多様性の中で、変革を起こせるリーダーを育てる

【前編】 ISAKサマースクール2013から考える、グローバルリーダー教育の今 [4/4]

 アクティビティを盛り込んだ授業

このような多角的で飽きることのない授業が1時間近く続けられてきたが、まだリーダーシップの授業は終わらない。この後、先生と生徒たちは屋外のテラスに向かった。

ISAKでは、座学の授業に加えて、屋外でのアクティビティが多いのも特徴だ。今日はフラフープを使ったアクティビティ※)だ。ざっと内容を説明すると、数名1組でひとつのフラフープを全員の両手人差し指だけに乗せ、立った状態から徐々に腰をかがめて座り、フラフープを地面に下ろすというものだ。

簡単そうに見えて、フラフープを地面に下ろすまでは全員の指が離れてはいけないルールがあり、どのチームもなかなか思うようにいかない。

「もっと早く下ろさなきゃダメだよ!」

「君が早過ぎることが問題なんだよ!」

どのチームも喧々囂々やっている。

ここで、モーケル先生が生徒に集合を呼びかける「みんな、どうしたらうまくいくと思う?」 生徒からは、「それぞれ声を掛け合う」「他人の指の動きをみる」「視線を合わせる」などの意見が出てくる。

先生がまとめる。「そうだね。怒鳴り合うのではなく(笑)、落ち着いて、いま話した改善案を実行してみよう。そうすれば、チームとして良い成果を生み出すことができる。」

今度は先ほどとは打って変わって、お互い叫び合うこともなく、自分たちの意識をコントロールしているように見える。結果、すべてのチームがフラフープを無事地面に下ろすことに成功した。これも管理されたリスクの中で試行錯誤を繰り返すプラクティスの1つだろう。

ここで「リーダーシップ」の初回の授業が終了。なお、リーダーシップの授業は10日間のサマースクール期間中、全7回設定されている。

※)ヘリウムリング
今回の授業でも取り入れているフラフープを使ったアクティビティを「ヘリウムリング」という。問題を解決するために、話し合いながら試行錯誤を繰り返すことで、協力的な雰囲気が生まれ、また、グループの誰もが積極的に参加できるので、個人が自信を深めることにも役立つアクティビティの1つ。チームとして問題解決のプロセスを学ぶことができるので、チームの意思決定能力を高める効果があるとされる。

 主体性を育む教育の、ひとつの未来形

「リーダーシップ」の授業は、「理想のリーダー像」→「リーダーの資質」→「リーダーの資質に必要な要素」→「プラクティスの重要性」→「プラクティスの実践」という流れがあり、それぞれの箇所に明確な意図が感じられた。

生徒からすれば、「なぜ、この授業を受けているのか」「学ぶ必要があるのか」という目的が明らかになり、常に充実感をもって学びに向かえる。

また、先生が生徒と常にコミュニケーションを取ることで、生徒を置き去りにすることなく授業は進められる。綿密に練られた授業の目的に応じたダイアログとアクティビティによって、生徒たちは集中力を切らさず新しい発見を次々と体験できる。

そもそも高いモチベーションを持った生徒たちだ、学びの欲求を満たし良い方向へと導いてくれる教員に対しては自然と信頼感も増すだろう。教員には、その領域に関する高い素養と豊富な経験が求められるのはもちろんだが、モーケル先生の物語を語るような語り口、人を惹きつける清々しい笑顔がこの授業全体の根幹を支えている。

はじめは抽象的な内容をイメージしていた「リーダーシップ」の授業だったが、終わってみれば「リーダーシップ」の概念や必要性などがしっかりと生徒に定着しているようだった。そして、初回にして早くも生徒たちと教員の良好な関係が築かれる様子を目の当たりにした。

生徒の主体的に学ぶ意欲を育む方法は決して一様ではない。ISAKが提示しようとしている環境と実践も、ひとつの未来の形なのかもしれない。ただ、このような授業を受けた生徒たちが成長した数年後が同校の本当の真価が問われる時であろう。

次回後編では、ISAKを取り巻く関係者たちのインタビューを中心に日本の「教育のグローバル化」の今と未来を俯瞰します。 ━━━ ご期待ください。

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