10 子どもが憧れる工場になることは、地域の未来を拓く近道だ
-燕三条のキャリア教育を伝統継承に昇華させる-

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 式年遷宮を支える和釘づくり体験

「ものづくり教育」が学校の授業に組み込まれているのは三条市も同様だ。その詳細について、三条市教育委員会で話を聞いた。取材に応じてくれたのは、小中一貫教育推進課の丸山修さん。以前は、三条市内の小学校で校長先生を務めていた人物だ。

「私が子どものころは、家の隣の工場で鍛冶をやっていました。そういう環境が普通でした。でも今は、三条に住んでいる子どもたちでも、鍛冶について知らないのです。だから、三条の子どもたちには、自分たちの街のことをわかってもらいたい。ものづくりの楽しさや素晴らしさを実感してほしい。ものづくりの街三条を愛し、誇りに思ってほしい。そんな経緯で三条市内の学校で『ものづくり教育』が始まりました」

十年以上前から、三条市内の小中学校では、大きく4つのものづくり教育を行っているという。

実際に授業で使われる小刀をもつ丸山さん

実際に授業で使われる小刀をもつ丸山さん

「1つ目は『和釘づくり』です。伝統技術を次世代に継承する研修施設「三条鍛冶道場」で『和釘』をつくる体験です。三条市の小学生は在学中、必ず1回は道場で体験します」と丸山さん。

L字型に折れ曲がった「和釘」。2013年に行われた伊勢神宮の第62回式年遷宮では、継承してきた鍛冶の伝統技術と和釘や金具類の生産力の高さが認められ、三条市でつくられた約28万個の和釘や金具類が納められた。三条市の小学生はその「和釘づくり」を体験する。

ものづくり教育の2つ目は小刀学習。今年から三条市内のすべての小学校で、鉛筆削り、竹とんぼづくり、竹箸づくりを行っている。

生徒に「切り出し小刀」を配って刃物の扱いに慣れさせることが狙いで、小学生の間に一度、総合学習の時間を使って授業が行われる。教えてくれるのはその道のプロで、使う小刀も三条ならではの本物だ。

ものづくり教育の3つ目は中学生が対象の「包丁研ぎ」。これもプロの講師が学校に行って「包丁研ぎ」を教える。包丁研ぎの体験学習について、丸山さんが説明してくれた。

「授業の日は派遣された講師が、片刃、両刃、出刃などの包丁の種類から説明します。その後、研ぎ体験に入ります。本来研ぎは、荒砥石、中砥石、仕上げと3つありますが、これらをすべてやると2時間はかかるので、生徒たちは中砥石の工程だけを行います。体験が終わって砥石をプレゼントすると、家に帰ってからも包丁研ぎをする生徒が多いようです」

ものづくり教育の4つ目は「木工」だ。こちらも中学生が対象で、現役の大工を派遣して「のこぎり」や「かんな」などを使って木を切ったり、削ったりする。三条市の中学生は、ここで学んだ技をそのまま技術の授業でも生かすことになる。

丸山さんは、三条市のものづくり教育の効果について、次のように話した。

「三条市に誇りをもつ子どもが増えてきたと思います。アンケートをとると、金物の街として、いつまでも伝統工芸を大事にしたいとか、将来大工になりたいといった回答がたくさん出てきました」

 子どもに教えるには、まずは大人から

ものづくり教育の授業では、子どもたちの目の色が違うという。昨年、和釘づくりを体験した後、子どもたちは自分たちでつくった和釘と同じものが伊勢神宮の式年遷宮でも使われていることを知った。喜んだ何人かの子どもたちが、三条鍛冶道場の館長である長谷川晴生さんにインタビュー取材をして、そのときの内容を学校の特大壁新聞で報じたという。

三条鍛冶道場内で話す長谷川館長、後方に見えるのは鍛冶を体験する子どもたち

三条鍛冶道場内で話す長谷川館長、
後方に見えるのは鍛冶を体験する子どもたち

「現在、彼らは小学4年生ですが、一生懸命取り組んでくれたので、これは何か称号を与えたいと思い、彼らを『和釘大使』として任命しました。ピンバッジをつくってあげると大変喜んでいましたね」と長谷川さんは笑いながら振り返る。

教師たちも、子どもたちのそういう様子を見て、ものづくり教育への理解が年々進んでいる。
三条市では、子ども向けだけでなく、教員向けの教育プログラムにも力を入れている。「三条学」講座と呼ばれ、三条市の教職員を対象に、彼らが三条の良さを子どもたちに伝えられるように、三条のヒトやモノ、自然を知ってもらう内容になっている。

「三条の子どもに教えるためには教師自身が三条のことを知らなくてはいけません。三十年以上前だと、初めて三条市へ赴任した教員は、必ず半日くらいかけてバスで巡回して街のことを学びました。今では、そういったことがなくなってしまいました。そういう経緯から、三条学講座をつくったのです」(丸山さん)

三条学講座は、例えば、三条の伝統技術を次世代に継承するための研修施設「三条鍛冶道場」で行われる。包丁研ぎや和釘づくりを体験したり、長谷川館長によるものづくりの話を聞いたり、日本でとても有名な伝統工芸士の大工の方の話を聞いた上で実演してもらう。

さらに、地元の大崎山を歩きながら、理科の元教師から三条の自然についても学ぶ。「子どもを教えるにはまずは大人から」。この十年で燕三条のものづくり教育は、幅広い年代を通して進化し続けている。

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