11 グローバル時代だからこそ、子どもたちに「和食」の文化を継承する
-ミシュランのスターシェフが、泰明小学校にやってきた! -

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 地域の料理人が学校の応援団になる

今回の泰明小学校のイベントでは、奥田さんが食育授業で講師を務めたが、「和食給食応援団」には、現在36名の和食料理人が参加している。和食給食応援団では、平成27年度に50回、こうした和食の普及活動を行ってきているが、和食給食の献立の開発や食育の授業は「毎回、訪問する学校のある地域で、和食給食応援団の活動に共鳴してくれる志の高い料理人を見つけて、その人にお願いするようにしている」と、西居さんは話した。

合同会社「五穀豊穣」の代表、西居豊さん

合同会社「五穀豊穣」の代表、西居豊さん

西居さんとしては、学校側とその地域の料理人との間で、和食給食応援団が関与しないでも、「和食給食応援団」同様の活動を繰り返し、継続できることを狙っているという。「和食給食応援団」を運営する「五穀豊穣」は元々、農家や漁師など、生産者などの一次産業を活性させることを目指して立ち上げた組織だ。

「農家や漁師などの一次産業では、価格の決定権は消費者側が握っています。大根1本を100円で売るか、150円で売るかを決定するのは消費者側なのです。そこで、いい食材にはそれなりのコストが掛かることを知ってもらうために、2011年頃から生産者の方々を学校へお連れするという活動を始めました」と西居さん。

西居さんたちは、お米づくりには、こういう手間と工数が掛かるから、お店ではこれくらいの値段で売られるよ、というような話を授業で伝え、授業後に生徒たちと一緒に給食を食べる活動も行っている。あるとき、農家の人がお米の授業をした後、パンの給食が出てくるということがあった。農家の人に悪いことをしたなと思った西居さん。それをきっかけに日本全国の学校の献立を調べてみると、平均すると、週5回の給食のうち、週3回が米飯給食、献立内容は、和食1.5回、中華1.5回、洋食2回という結果が得られたという。

 和食継承のカギを握る若い栄養教諭・学校栄養職員たち

現在の給食の献立は、都会の学校を中心に、カタカナのメニューばかり。チキンのトマトクリーム煮やハンバーグ、マカロニサラダといった具合だ。米飯のメニューでも、ピラフやカレーなど、和食と呼べるものがあまりないのが現状だ。栄養教諭・学校栄養職員に「どうして和食のメニューがないのですか?」と聞くと、「和食を出すと子どもたちが残すのです」という答えが返ってくる。現代の家庭の食卓には、ハンバーグやスパゲティなどの洋食はよく出されるが、ご飯とみそ汁と焼き魚、野菜の煮物といった和食はあまり出されないからだ。

合同会社「五穀豊穣」の代表、西居豊さん2

そうした中、西居さんがさらに踏み込んで「それでも和食の給食を出せばなんとかなる部分もあるのでは?」と問い直してみると、「実は私自身もあまり和食がわかっていなくて」といった答えが返ってきた。「栄養学のプロなのに、どうして和食がわからないのですか?」と聞いてみると、実は、東京都では50%くらいが20代の栄養教諭・学校栄養職員で構成されているという。

「若い栄養教諭・学校栄養職員たちは、和食の献立の内容や美味しく和食をつくる方法がわからない、といった状況が明らかになってきました。20代半ばまで茶碗蒸しを食べたことがなかったという学校栄養職員の方もいたくらいです。ただ、これは決して本人たちの問題ではなく、背景には社会全体の和食離れがあるようです。『五穀豊穣』では、食材を料理人さんたちに卸す活動もやっています。そこで和食の料理人さんたちに、学校に和食の献立をプレゼントしてくれませんかと活動を始めたのが2011年頃です」(西居さん)

以来、和食給食のイベントは、年に6回ほどの活動だったが、2013年12月に大きな出来事があった。日本政府として申請していた、「和食」がユネスコ無形文化遺産に登録されたのだ。2014年1月からは、農林水産省が和食を普及していくということで、この和食給食の活動に、予算を拠出するようになる。2014年3月、ついに「和食給食応援団」が結成され、西居さんがかねてから望んでいた、北海道から沖縄まで全国の学校にこの活動を広げることが可能になったのだ。結果、平成26年度は全国で26校、平成27年度は50校を訪問することができた。

 学校が抱える課題に沿ったプログラムを

和食給食応援団は、あらかじめ決まったプログラムを実行するのではなく、学校ごとの意向や要望を踏まえて、その学校に合ったイベントを開催している。地域や学校が抱えている課題はさまざまだからだ。

「まずは学校側のやる気が大切になってきますので、申し込みをいただいても先方の状況をしっかりうかがうことになります。来年度は、保護者の方々が給食費を1食50円上げてでも、いい給食をつくりたいという学校に伺いたいです。50円違うとどれだけいい影響を及ぼせるか、そのことを全国の学校に見せたいですね」と西居さんは語る。

こういうケースもある。都内の学校給食では、魚を提供するのに一切れ100円程度掛かるが、この魚、骨が付いたままだと一切れ60円程度で買えるという。学校側としては、骨が付いたままの魚を出すには怪我などのリスクがあるが、コストダウンは図られ、生徒たちに骨付きの魚を食べさせることに付随する食育的価値も見出せる。実際、宮城県仙台市立高砂小学校では、「骨付きの魚を食べさせたい」という要望があり、そのテーマで和食給食のイベントを開いた。和食給食応援団は、型通りの授業をプッシュするのではなく、自治体や学校の課題に応じて柔軟にカスタマイズしたプログラムを提供しているのだ。

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