11 グローバル時代だからこそ、子どもたちに「和食」の文化を継承する
-ミシュランのスターシェフが、泰明小学校にやってきた! -

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 和食給食で広がる自然や歴史の学習機会

当初、農林水産省の委託事業で始まった和食給食応援団の事業だが、今では、活動費用の一部は、企業などから協賛を受けている。例えば食品メーカーの場合は、自社商品を学校給食現場に卸せたり、知名度が上がったり、社会貢献活動に取り組めるといったメリットがあり、各企業の目的はさまざまだ。和食給食応援団としても、農林水産省との連携がなくなった瞬間、この活動がなくなってしまうのでは意味がない。自分たちの経済基盤を固めて、農林水産省の委託事業がなくなったとしても、自走できるようにと考えているのだ。

今、「五穀豊穣」の西居さんは、学校教育に関われば日本の食文化を変えられる可能性を強く感じている。和食給食応援団の現状の課題と今後の展望について、西居さんは次のように話した。

「課題は、志のある料理人さんを探すことですね。熱い情熱と生産者の方々に敬意をもって、和食文化を次世代に継承しようという思いをもっている料理人さんを見つけることが最も難しいことではないでしょうか。今後の展望については、日本全国に約1700の自治体があります。この自治体すべてを、東京でオリンピックが開催される2020年までには訪れるということと、日本の学校給食を米飯4.5回、和食給食週4回に変えること、この2つが我々の大きな目標です。そのために、イベント活動とは別に、農林水産省や文部科学省、有識者と共に学校給食における和食のあり方を検討するなど、さまざまな施策に取り組んでいます」

西居さんと林さん

全国には、この国の食育問題に危機感を抱き、活動している人々がまだまだ存在する。例えば東京都羽村市にある「太陽の子保育園」では、本物の磁器の器で、だしをひいて旬を味わう献立をつくっている。また、富山県の射水市の小学校では、旬を迎えた富山湾の味覚を味わってもらおうと、新湊漁業協同組合が、毎年恒例の学校特別給食で、ズワイガニを児童1人に1杯ずつ行き渡るように届けている。

東京都墨田区立押上小学校では、お米の農家を招いて年数回の食育授業を行っている学校栄養職員もいる。校内に田畑をつくり、田植えから収穫まで体験する本格的な食育を実施しているという。その効果もあって、この学校では米づくりへの理解が深まったのはもちろん、米飯給食での残飯が格段に減った。また、先生たちも米農家の方々から直接教えを伝達されたことで、これまで机上の知識に頼っていた子どもたちへの指導にも深みが出たという。ほかにも、全国各地で地道な活動をしている人たちは数多く、彼らにも合わせてエールを送りたい。


和食は日本が世界に誇る文化のひとつであり、その素晴らしい文化を自分の中にもつということは、グローバル社会へと羽ばたく子どもたちにとって、強い追い風となるはずだ。これからの学校教育のシステムは、そうした自国の素晴らしい文化の継承を大切にしたプログラムを、積極的に取り入れていくべきだろう。

この記事をきっかけに、ひとつでも多くの自治体や学校などが、給食の時間には日本の文化を継承するための物凄く大きな可能性が秘められていることをあらためて知ってもらえると幸いだ。また、これまでは、そういう志をもっていたとしても、学校だけではそうした授業や取り組みが行えないだろうと諦めていた方々には、和食給食応援団のような素晴らしい活動を実施している団体などと協力できることも伝えられたのではないだろうか。ぜひ、子どもたちが世界に誇る日本文化を継承できるように、学校給食の「シフト」を始めてもらえたらと願うばかりだ。

 

 

 

 

 

【筆者プロフィール】
林 信行(はやし のぶゆき)
ジャーナリスト

最新テクノロジーは21世紀の暮らしにどのような変化をもたらすかを取材し、伝えるITジャーナリスト。
国内のテレビや雑誌、ネットのニュースに加えて、米英仏韓などのメディアを通して日本のテクノロジートレンドを紹介。
また、コンサルタントとして、これからの時代にふさわしいモノづくりをさまざまな企業と一緒に考える取り組みも。
ちなみに、スティーブ・ジョブズが生前、アップルの新製品を世に出す前に世界中で5人だけ呼んでいたジャーナリストの1人。
ifs未来研究所所員。JDPデザインアンバサダー。

主な著書は「ジョブズは何も発明せずにすべてを生み出した」、「グーグルの進化」(青春出版)、「iPadショック」(日経BP)、「iPhoneとツイッターは、なぜ成功したのか?」(アスペクト刊)など多数。
ブログ: http://nobi.com
LinkedIn: http://www.linkedin.com/in/nobihaya

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